第1141話 好きにしろ

 なかなか旨い納豆とご飯をいただき、食後のコーヒーを一杯。今日を生きるための準備が整った。


「レヴィウブにいくんならわたしらもいくよ」


 自分らだけでいく勇気がないようで、オレについて来るようだ。


「好きにしな」


 冒険商人だった身で貴族の中に放り込むのも無慈悲だ。連れてってやるか。


「ただし、ちゃんと着替えてからな」


 つーか、冬だって言うのにセクシーな服なのな。もしかして服、それだけなのか? いや、同じ服着てるオレのセリフではねーがよ。


「……着替えないとダメか……」


「その格好で貴族の中に入っていける勇気があるならそれで構わねーぜ」


 さすがのオレも貴族の中に村人ルックで入っていく勇気はねーな。浮きまくりだろう、それ。


「……わ、わかったよ……」


「あと、おっさんズもだぞ。その極悪みたいな格好してたら捕まるわ」


 顔の極悪さはこの際諦めるとして、服は品のイイものを着て、髪を整えろや。場違いにもほどがあんだよ。


「……お、おれたちもかよ……?」


「当たり前だろう。ねーちゃんとともにやっていくなら身嗜みに気をつけろ。これからは上品に、紳士的でいろよな」


 もうあんたらは冒険商人ではなく……なんだ? 商人? ではねーな。船乗り? なのは確かだが、なんか違うな。ま、まあ、なんでもイイか。冒険商人でねーのは確かなんだからな。


「……大変なんだな……」


「別にそのままでイイのならそのままでいたらイイさ。決めるのはおっさんたちだ。オレは強制はしねーよ」


 誘導し、騙すことはしますけど。これ、内緒な☆


「オレといくなら着替えて来い。外で待ってるからよ」


 言って席を立ち、外へと向かった。


 で、プリッスル(だったっけ?)から出ると、なんかお祭り? が開催されていた。


「え、なに? なにが起こってんの?」


 まだ慰労会が続いてんのか?


「プリッシュ様の船に乗るために集まっているんですよ」


 プリッつあんの船? 


 さっと頭に手を伸ばす。あ、ああ、そうか。プリッシュ号改での遊覧飛行か。忘れったわ。あ、存在すべてを忘れてたことは内密ダヨ☆


「こんなに乗せんのか?」


 昨日よりさらに集まってね? レヴィウブの情報網、どうなってんだ? それとも貴族の情報網か?


「噂が噂を呼び、二百名以上集まってしまったようです」


 その口振りからしてミタさんはかかわってねーのか? プリッつあん一人で……回せるわけねーか。これだけの人数は……。


「大丈夫か? 全員となると結構な回数になるぞ」


 乗せるだけながら五十人はプリッシュ号改に乗せられるが、それでは楽しい空の旅はできんだろう。二十人、いや、十五人が楽しく乗れる数だろうな。


「はい。それで困っていたようですが、何日かにわけて乗せるそうです」


「それでよくプリッつあんが納得したな」


 あのメルヘン、結構飽きっぽいところがある。好きとは言え、何日も船長やるとは思えねーんだがな。


「……ベー様、結構プリッシュ様を理解なさってるんですね……」


「いや、まったく理解できてねーけど?」


 あれを理解できるヤツがいたらぜひともご教授願いてーわ。どっかにメルヘンの生態に詳しいヤツいねーもんかね。


「そ、そうですか……」


 なによ、いったい?


「ベー!」


 と、メルヘンが上空からウルトラキックを華麗に回避。地面が綺麗にパッカーン。危うくオレはお空の星となるとこでした~。


「──殺す気かっ!?」


 あなたはもうオレと同じ能力使えるんだから本気で突っ込んでくんなや! 軽く死ねるわ!


「ベー! 出して!」


「はいはい」


 突き刺さるメルヘンを引っこ抜き、土魔法で元に戻しておく。私有地(?)なんだから大切に使いなさいよ。


「で、なによ?」


「こんなに乗せられないよ! どうにかして!」


 仕切ってるヤツはどうした?


「スケジュールは完璧です」


 と、なんか悪魔のような角を生やした、キリッとしたメイドさんが紙を差し出して来た。ってかいつの間にそこにいたの、この人!?


 バクバク唸る心臓に耐えながら紙を受け取った。


「……精密な時刻編制だね……」


 余裕がまったくないスケジュールである。


「お褒めいただきありがとうございます」


「休憩時間ないじゃない!」


 まあ、プリッつあん一人だからね。休憩時間なんてとってる暇ねーわな。


「ベー!」


「はいはい。ドレミ。何人出せる?」


 こんなときのドレミさん。超万能生命体の真価を見せるときだ!


「二十名までならすぐに用意いたします」


 どこからか紫色の髪を持つ美女型ドレミが勢揃い。頼りになるぅ~。


「プリッシュ号改は操船できるよな?」


「はい。可能です」


 いつの間に!? とかは野暮。できて当然の超万能生命体。感謝を込めてお願いしますだ。


「ワリーが頼むわ」


 名前の知らないキリッとしたメイドさんよ。


「畏まりました。すぐにスケジュールを組み直します」


 あ、うん。お手柔らかにね。一応、ドレミも生命体だからさ……。


「ってか、プリッつあんはいかねーのかよ?」


 なにサラッとパイ◯ダーオンしてんのさ。あなたの船でしょうが。


「知り合いは明日だからいいの。それよりベーはどこにいくの?」


「レヴィウブで買い物だよ。いろいろ欲しいものがあるんでな。今は赤毛のねーちゃんたちを待ってるところだ」


「そうなんだ。わたしも買い物する。前はおしゃべりだけで終わったから」


 なんでもイイよ。好きにしろだ。

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