第1142話 今がチャンス

 では、レヴィウブへ──といこうとして、ふと気づく。レヴィウブまで結構距離があったことに。


 オレたちが借りている場所は港で、荷降ろしなどの邪魔にならないよう端の方にプリッスルを置かしてもらった。


「ってか、よくこんなところまで来たもんだ」


 距離的に約二キロ。貴族が歩くには遠いところで、道は歩くように整備はされてなかった記憶がある。


「定期的に馬車を走らせているようですよ」


 いつものように事情に通じたミタさんが教えてくれた。サンキューです。


「なら、その馬車に乗っていくか」


 で、その場所はどこよ? とミタさんに目で問うと、こちらですと先導してくれた。


 なにやら山小屋風のものができており、身なりのよい駅員? が行き交う人々を誘導したり、やって来る馬車を整理してたりと、なかなか活気に満ちていた。


「新たな名所になった感じだな」


「貴族でも飛空船に乗ることは難しいらしいわよ」


 だろうな。公爵どのですら一隻しか所有できず、その維持費は伯爵級の資産が必要と公爵どのから聞いたことがある。


「お玉さんに飛空船でも売ってやろうかね?」


「飛行船じゃダメなの?」


「売りもんじゃねーからな」


 プリッシュ号改はほとんどオレの能力でできている。不具合が出たり壊れたりしたらオレがなんとかしないとならねーのだ。とても売り物にはならねーよ。


「そんで、どっから乗ればイイんだ?」


「こちらです」


 ミタさんが淀みもなく歩き出し、馬車が一列に並ぶところに来た。


「こちらの列がレヴィウブへいく馬車です」


 駅員風の男が現れ、その指示に従って馬車へと乗り込んだ。


「酷い揺れね」


 走り出してすぐ、プリッつあんが不快の声を上げた。


「馬車にしたら揺れはねーほうだ。さすがレヴィウブの馬車だな」


 それに道も整備され、板バネ式の構造になっていた。まず間違いなくこの世界で発展してんのは帝国だろうよ。総合的に考えて、だけどな。


「それをさも当然のように語るあんたは異常よ」


 と、突っ込んで来たのは赤毛のねーちゃんね。ついでに言っておくと、赤毛ねーちゃんたちは総勢八名。馬車は六人乗りなので二台に分けて向かってます。


「異常ではなく例外だ。冒険商人の世界でも例外なヤツはいんだろう?」


 まあ、冒険商人の世界、よー知らんけど。


「そうね。黒海を渡るヤツとかいるわね」


「黒海? なんだいそりゃ?」


 海の事情は滅多に伝わって来ねーから知らねーことばかりなのだ。海の中は人魚から伝わっては来るけど。


「ハルビル王国へいく航路上にある、いつも黒い霧が立ち込めたところさ。そこを突っ切れば四日も短縮できるんだが、なにか巨大な生き物が棲みついていて通る船を襲うんだよ」


 ハルビル王国ってのは知らんが、そんなところがあるんだ。さすがファンタジーの海だこと。


 黒海の噂話を聞いてたら、あっと言う間にレヴィウブへと到達してしまった。また今度聞かせてちょうだいな。


 馬車の扉が外から開かれ、順番に外に出る。


「……ここは……?」


 なんか高級ホテルの庭? な感じのところで、やけに静かなところだった。


「ここは?」


「レヴィウブの西口です」


 西口とか違和感バリバリだが、突っ込んだところで変わるわけねーんだから素直に受け入れろだ。


「随分と静かなんだな?」


 赤毛のねーちゃんが不思議そうに呟いた。


「そりゃ、あんだけ遊覧飛行に集まってりゃ静かにもなるさ。貴族がそんなにいるわけじゃねーしな」


 いや、他の国と比べたら突き抜けた数の貴族がいるが、すべての貴族が一斉に集まることなんてねーし、レヴィウブにそんなキャパがあるとも思えねー。昨日の人数からして三百から四百人が精一杯だろうよ。


「……帝国って大きいのかい? それとも小さいのかい? いまいちわかんないよ……」


「紛れもなく帝国はデカいよ。周辺国が集まっても勝ち目はねーくらいにな」


 なんて言ったところで赤毛のねーちゃんに理解はできんか。前世の記憶があるオレと違って比べる対象が少ねーんだからよ。


「世界を知ればわかるよ」


 己の小ささ。世界の広さ。知れば知るほど己の無力さを感じるものだ。


「己を見失うなよ。見失ったとき、世界は牙を見せ、襲いかかって来るぜ」


「……はあ? なに言ってるかわかんないんだけど……?」


「なに、これから知っていけばイイさ。ねーちゃんの航海はこれからなんだからな」


 人生は七転八倒。艱難辛苦の繰り返し。負けないようにガンバれだ。オレは買い物をガンバるんでよ。


 そう。ライバルがいない今がチャンス。買って買って買いまくるぞぉ~!

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