第1140話 威厳と品
と、その前に、朝食をいただきますか。
「って、パンケーキですか……」
「はい。こってりコトコト六枚重ねの生クリーム万歳スペシャルです」
そんな笑顔で言われてもどう返してイイかわかんねーよ。
「朝から濃厚だな」
「はい。六つ子さんたちのリクエストでして」
その六つ子がいる席を見ればパンケーキ祭り。朝から胃酸が元気ですこと。
「変なところで乙女なばーさんたちだ」
怖い顔してなんとも幸せそうな表情をしやがる。できるのなら雰囲気もなんとかしろや。ここはハードボイルドな世界じゃねーんだからよ。
はぁ~。オレのために出されたものは食べる主義とは言え、これはキツいな~。胃もたれどころか吐き気がして来たわ。
だから食えぬとは言えぬ。下げてとも言えぬ。誰かの皿にも移すこともできぬ。ならばどうする? 決まってる。無限鞄にこそっと収納。あとでちゃんといただきます、だ。
……まあ、お腹空いている方がいたら優先して譲るけどでね……。
バケットからトーストを取り、空になった皿へと入れ、牛乳をかけていただきます。うん、旨い。
朝食が終わり、コーヒーを飲んでいると、赤毛のねーちゃんとその仲間たちがやって来た。
仲間たちいたんだ! とかは止めてください。いたんです。ただオレの意識から外れてただけなんです。
「これからサリエラー号を改造するのか?」
「たぶん、もう始めてると思うぞ。シュードゥ族の連中は二日酔いとか知らねー種族だからな」
昨日、終わった頃は陽気に酔っていたが、泥酔しているヤツはいなかった。一晩寝れば元通りよ! とか言ってたからもう作業を開始してるはずだ。
「あんたがするんじゃないのか?」
「そうしようとしたんだが、オレたちにやらせろと奪われちまったんだよ」
クルフ族と言いシュードゥ族と言い、人から奪うのに容赦ねーよな。つけ入る隙がなかったわ。
「まあ、改造するのにそう時間はかかんねーだろう。新しい魔道剣に耐えられるようにして、船体の強度上げるとか言ってたからな。あ、できたらオレの力で内装や機能追加するから四日くらいじゃねーかな?」
オレは一日あれば充分だし、親方連中もそんなに時間はかけねーはずだ。魔道船造りの職人もいると言ってたからよ。
「な、なあ。貨客船ができたらサリエラー号はどうなるんだ? 別のヤツに渡すのか?」
なにやら不安顔。なんだい、いったい?
「船長はサリエラー号を失いたくないんです」
と、確か副船長の少年がそう教えてくれた。
「いや、貨客船に載せるぞ」
貨客船と呼んでるが、オレが考えているのはカーフェリーだ。
いやまあ、船を載せるのでカーフェリーとは言い難いが、いずれ魔道車も造る予定。用途はそうなるのでカーフェリーでいかせてもらます。
「……船に船を載せる、と言うことか……?」
「簡単に言えばそうだな。ねーちゃんらには変に聞こえるだろうがな」
シーカイナーズの艦に船──ホバークラフトが入ってるのがあった。
サリエラー号には浮遊石も積んで船体を軽くし、風を噴射させて飛ぶこともできるようにする。格納はすべてを腕に頼ることになるが、そこは結界を張るので恐れず練習してくださいだ。
「確かに変に聞こえるけど、船に船を載せる意味ってなんなの? それだと荷物を載せる場所がなくなると思うんだけど」
「船の大きさはサリエラー号の約三倍。通常の船よりは集積率高いよ。それに、ねーちゃんたちには人を運ぶほうに力を注いで欲しい。飛空船より輸送力は高いからな」
海路の開拓や海図とか欲しいし、今度はゆっくりクルージングがしたい。赤毛のねーちゃんたちにはたくさんの海を制覇してくれや。
「まあ、完成するまではレヴィウブを楽しんでおけ」
「いや、周りすべて貴族の中でゆっくりなんてできるわけないでしょう。吐いちゃうわよ」
意外と繊細だな。ファンタジーの海を航海してんだから、鋼の心臓になれよ。
「人を乗せる船の船長なら口調を品よくしておけ。これからの海は荒くれなんて流行らねーからな」
武力は必要だが、接客は必須だ。これからは客商売をするんだから貴族を見て身につけておけ。
「あと、口調だけじゃなく動きも優雅に上品にしておけよ。ねーちゃんちょっと雑だからよ」
周り貴族だらけって言っておいて、いつものセクシー服はねーだろう。オレのように常に備えておけや。
「……そんなこと言ったってわたしの柄じゃないし……」
「親父さんはアブリクトの代表としての威厳と品を出してるぞ」
カリスマまで求めはしないが、威厳や品は自力で手に入れろ。それらは必ず己の武器となるんだからな。
「……わ、わかったよ……」
よろしい。楽しみながらしっかり学ぶがよい。オレは楽しく買い物するからよ。
でも、パンと牛乳だけでは力が出んので、ご飯と納豆を食っておくか。ミタさん、よろしこ。
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