第1121話 三十六計逃げるに如かず

 店もでき、そこで働く者も来た。では、さっそくオープン──とはならず、ダイン買取り店ができたことを知らせるためにダイン親子には近所を回ってもらうことにしたのだ。


 その間オレらは酒場の建設現場へと向かい、監督することにした……んだが、なんとたった数時間で三階建ての酒場ができていた。マジか!?


「……シュードゥ族、スゲーな……」


 酒の力がさせてるのか種族特性なのかはわからんが、数時間で造るとか非常識すぎんだろう。おっとそこ。突っ込みはノーサンキューだぜ。


「へっ! これで驚かれちゃ困るぜ。おれらの本領はこれからだ」


 と、一人のシュードゥ族がオレの呟きを聞いて鼻を鳴らした。どーゆーことよ?


「おれらシュードゥ族は魔道具を何百年と作って来た種族。そのノウハウはクルフ族以上さ!」


 そこをもうちょっと詳しく聞きたいんだが、親方らしき者に怒鳴られ、仕事へと戻っていってしまった。


「レイコさん、出番ですよ!」


 ごはんですよ的な感じで言ってみた。


「……その呼び方に釈然としないものがありますが、まあいいです。付き合うのは疲れそうなので」


 そこは付き合ってよ! それがコミュニケーションなんだからさ! あと、幽霊のなにが疲れんのよ? 魂か? 存在力か? チョー気になるわ!


「シュードゥ族は魔道具を作るのに長けた種族で、魔道剣を主に作ってました。今はどうかは知りませんが、ご主人様は実験道具をシュードゥ族に頼んでましたから技術は一級品だと思いますよ」


 魔道具に魔道剣か。思わぬところで出会ったもんだ。


「ミタさん。老シュードゥか主長に連絡を入れてくれ。オレが会いたいと。場所はここな。もし来ないのならこちらからいく」


 酒場と聞けば来るだろうが、頼むのはこちら側。出向くことに否やはねーさ。


「畏まりました。すぐに渡りをつけます」


 よろしこ。


 酒場へと入ると、大工らしき男たちが棚やカウンターを作っていた。木材、どっから仕入れて来た?


「親方」


 と呼んだら三人がこちらを見た。うん、こんだけいたら親方も複数いるよね。メンゴメンゴ。


「頬傷の親方」


 最初、オレのところに来た三人のうちの一人ね。名前は聞いた……ような聞かなかったような、まあ、頬傷の親方でイイやろう。残り二人は片目と白髪だったし。


「なんだ? 急ぎか?」


「急ぎってわけでもねーんだが、あんたらの種族長か代表かと話があるんでここを使わせてもらいてーんだわ」


 あちらから何人来るかわからんし、広いほうがイイだろう。


「そりゃ急ぎじゃねぇか。テメェら、すぐに終わらすぞ」


 オレの言い方か口調になにかを感じたのか、そこにいるヤツらに発破をかけた。いや、あなたら、二、三倍どころか五倍速で動いてるからね。


「あと、ここで働きたい者ってどうなってる?」


「まだ選別中だ。なにせ高待遇だからな。一歩間違えたら刃傷騒ぎになりかねん勢いだわ」


 なにやら大変なことになってそうです。


「そうかい。まあ、決まったらここに寄越してくれや。指導とかあるからよ」


 やるのはミタさんたちだけど。


「おう。伝えておくよ」


 また少ししたら来ると言い残して酒場を出た。


「ミタさん。カイナーズホームに頼んでおいた酒、用意できてるかい?」


 あれだけの人数の腹(喉か?)を満足させる酒などこのハルメランにはねーし、他の大都市でも用意はできねーだろう。


 仮に用意できたとしても味も悪くアルコール度数も低いエールくらい。とてもシュードゥ族を満足できるものではねーはずだ。


「はい。ビールと芋焼酎はいつでも出荷可能です。一部でしたらあたしの無限鞄に入っておりますのでいつでもお出しできます」


「そいつはありがとさん。昼にでもビールを出してやってくれ」


 この気温ならイイ感じの冷たさになんだろう。働いている者は汗を流しながら仕事してんだからな。


「では、用意します」


 と、酒場の向かいにある広場(住んでた人を立ち退かせたそうだ。家一件建てられるくらいの金を払って)に移動すると、無限鞄から工事用の発電機を出した。


 え、なにしてんの? と茫然と見てると、ボンベをいくつも出し、続いてビール樽? を出し始め、どこからか現れたメイドが発電機やボンベ、ビール樽? 変換器やらを線をセットしていく。


 ……もしかして、ビールサーバーか……?


「こんなものまで売ってんだ、カイナーズホームは」


 なんでもありとは知っていてもこんなものまで出されたら驚きもするわ。


「魔大陸ではお酒が一番の娯楽ですからね。キャンプ地や宿泊所には大抵設置されてるそうです」


 一番の娯楽が酒ってのも可哀想な気がしないでもないが、だったら酒文化が発展しねーのはなぜだ?


「材料となるものがありませんし、あったとしても魔王が独占しています。お酒欲しさに戦いをする魔王なんてざらですから」


 なんとも殺伐とした話だ。飲めないオレでもそんな地には住みたくねーぜ。


「べー様。炊き出しの女性が来ました」


 ミタさんの配下の者が教えてくれ、見れば逃げ出したくなるようなご婦人方がやって来るのか見えた。


 どこの戦場へ向かうの?


 とか思わず言いたくなるくらいの覇気を纏っていた。


「ミタさぁ~ん! あとよろしくねぇ~!」


 村人忍法、三十六計逃げるに如かず。夕方までには戻って来まぁ~す!

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