第1120話 ダイン買取り店

「……いやね。何人までとは言わなかったのはオレの落ち度だよ。でもだからって連れて来すぎだろう……」


 翌朝、買取りの店の前には、百人は確実に超えている。いや、見えないだけで下手したら二百人とかいそうだな。


「す、すまねぇ。これでも絞ったんだがな……」


「もう最初は全員でいくとか言って、なんとかこの人数にしたんだわ……」


「なんとかならねぇか?」


 昨日の三人が申し訳なさそうに頭を下げて来た。


「まあ、来たなら仕事はしてもらうし、酒も出すが、復興のほうは大丈夫なんだろうな? 後回しにしたら追い出すぞ」


 まずは都市機能を回復させねば他の都市に太刀打ちできねー。テメーらの未来のためでもあるんだぞ。


「そこは安心してくれ。昨日言ったように酒が飲めるなら二倍でも三倍でも働くからよ」


「おう! 手は抜かねーぜ」


「任せてくれ」


 職人気質の三人が言うのだから信じはするが、本当に頼むぜ。


「ってか、女までいんのかよ」


 シュードゥ族は女も建築に勤しむのか? クルフ族とは違うのか?


「いや、さすがにこの人数で食事をもらうのは悪いと思ってな、炊き出しを頼んだんだよ」


 そんな申し訳なさがあるんなら酒を遠慮しやがれ。って言うのも無駄か。酒が主食ってような連中には……。


「シュードゥ族はクルフ族のように女は家のことしかさせねーのか?」


「クルフ族と一緒にするな! シュードゥ族の女はなんでもやるぞ!」


「クルフ族の堅物とは違うわ!」


「そうだ! クルフ族なんかよりシュードゥ族が上だ!」


 顔を真っ赤にさせて怒る三人。こりゃ相当の確執があるようだ。


「バカなことを聞いた。すまん」


 ここは素直に頭を下げておこう。周りに飛び火したらメンドクセーからな。


「あ、いや、こっちこすまねぇ。クルフ族とはいろいろあったんでよ」


「生きてりゃそう言うこともあるさ。ましてや魔大陸ではな」


 戦いを何千年と繰り返している地だ。敵になることもあれば負けることもあっただろう。皆仲良く、なんて無理な話さ。


 ……それを押しつけられるオレはたまったもんじゃねーがな……。


「働き者の女がいるなら酒場をやってみてーと思うヤツを探してみてくれ。さすがに配るのも大変だし、そう言う騒ぐところがあってもイイだろう」


 息抜きできる場所は大切だ。苦労ばかりじゃ人生つまんねーからな。


「酒場か。そりゃいいな!」


「ああ、いいぞそれ。酒場で酒が飲めるとか最高だぜ!」


 なにやら魔大陸には酒場なるものがなかったのか? やたらテンションが高いようだが。


「なら、三軒ほど酒場を造れ。次に食料倉庫。そして、三階建ての集合住宅だ。造りは任せる」


 シュードゥ族も土魔法は使えるし、建築技術もある。魔道船だって造るんだから任せても大丈夫だろう。多少の違いは許容内ってことで美魔女さんに許してもらうさ。


「わかった! 任せろ! 野郎ども、やるぞ!」


 おおっ! 大地を揺るがすほどの声が上がり、そこにいたシュードゥ族が辺りへと散っていった。


「頼もしいのかメンドクセーのかわからん種族だよ」


 それがおもしろいと言えばおもしろいのだが、理解できるまで付き合わなくちゃならねーから大変だぜ。


「また、変なことになっているようだね」


 と、ばーさんがやって来た。


 衣服からして昨日のばーさんだろう。だよね? とプリッつあんに目で問う。


「おはよう、サラトネーラ。こんなのはいつものことよ。気にしてたら胃が痛くなるわ」


 なにか失礼な言い種ではあるが、昨日と同じばーさんなのは間違いないようだ。名前は忘れたけど。


「働きたい者を連れて来たよ」


 と、四十歳前後の髭面の男と三十歳くらいの女、あと、十五歳くらいの娘と十歳くらいの男児をオレの前に出させた。親子か?


「ダインと嫁のサンラ、娘のハリンと息子のヤタカだ」


 それで紹介終わりか? まあ、あとはお前が判断しろってことなんだろう。


「オレはべー。見た目はこんなだが、結構デカい商会をやってるもんだ」


「はい。リクオウ様から聞いております。見た目は気にするな、働きたければ受け入れよと」


 雑な説明ありがとう。そして、それで受け入れたあんたらがスゲーよ。


「そうしてくれると助かる。なに、ちゃんと働いてくれんなら悪いようにはしねーし、給金も弾む。で、改めて聞くが、ここで働きてーんだな?」


「はい。ご期待に添えるよう努力します」


 旦那が頭を下げると、嫁や子どもたちもそれに続いた。


「わかった。今日からあんたらはゼルフィング商会の一員でオレが庇護すべき従業員だ。しっかり働いてくれ」


「ありがとうございます!」


 まあ、しばらくはゼルフィング商会から外れて商ってもらうが、いずれはゼルフィング商会として受け入れる。婦人らの機嫌と急がし具合によりますけど。


「そんで、通いで来るのかい? オレとしては住み込みで働いて欲しいんだがよ」


 いちいち閉めて帰るより住み込んでもらったほうが買取り時間が増えるってものだしな。


「住み込みしてもよろしいのですか? こんな立派なところに……」


「格を示すのも立派な商会の仕事だ。あんたらにもそれに見合うだけの格好や態度を取ってもらうぞ」


 会長のお前はどうなのよ? とかの突っ込みに答えよう。オレは裏方。目立ってはダメな存在だからイイのです!


「とは言っても、そう気張る必要はねーよ。徐々にでイイ。この買取り店──って、名前がねーのも不便だな。なにがイイ?」


 ハルメラン支店は使うからダメだし、二号店とかだとわからなくなる。酒場もうちでやるんだしよ。


「普通にダイン買取り店でいいんじゃないの? どうせ丸投げするんだから」


 ハイ、まったくその通りなのでダイン買取り店に決定です!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る