第1101話 釘を刺しておく

 なんか脇道に逸れまくりで本題がなんなのかわかんなくなって来た。


 こう言うときはマンダ○タイム。気持ちを緩やかにして心を落ち着かせよう。


 土魔法でテーブルと椅子を四人分創り出した。


「ミタさん。お願い」


「畏まりました」


 主語が欠けてるが、万能メイドはお見通し──かどうかは知らんが、テーブルと椅子を創ったらなにをするかぐらいはオレを見通してんだろう。でなきゃ返事はせんよ。


 椅子に座ると同時くらいにコーヒーがオレの前に置かれた。


「皆様もお座りください」


 他はミタさんに任せてオレはコーヒーをいただく。あーうめー。


 なにも考えず、冬の空を眺める。


 同じ大陸でも雪が降る地とそうでない地はあり、ここは特に雪が降らない地のようで、空気は乾き、冷たい風が吹いている。まあ、オレは結界を纏っているので他のヤツを見て判断しています。


「魔大陸に住んでた者にはこの寒さは辛いかい?」


 誰に、と決めずに問うてみた。ここにいるの、皆な魔族だし。


「……はい。冬と言うものがありませんでしたからな……」


 と答えたのは老シュードゥ。よくよく見れば厚着していた。


「そうか。年寄りには辛いな」


 とだけ答え、また冬に空に目を向けた。


 周りから苛立つ気配を感じる。特に船団長は隠し様もないほどイライラしている。イイ歳なのに落ち着きがねーな。


 老シュードゥは長年の経験から感情を抑える術は知っているようだが、それを悟らせない様にする術までは身につけてねーか。やはり群雄割拠な世界で生きてたら心に余裕を作るのは難しいのか。


 二人に比べて青鬼レディーはさすがと言うべきか。表情にも態度にも表さない。が、それ故に地を晒している。


「あんたか、カイナの後ろにいるヤツは」


 青鬼レディーの表情も態度も揺るぎがねー。


「そこで微かな動揺でも見せれば自分だけに留めることができるのに、反応を示さないことで複数いると教えてる。若いな、レディーは」


 いや、十一歳のお前が言うな、ってご指摘は甘んじてお受けしよう。最後のは余計だった。青鬼レディーのプライドを否定したも同じだからな。


「……いつからお気づきでしたか……?」


「んなもん最初からに決まってんだろう。アレは指導者としての才能はねー。誰か賢いヤツの考えをそのままなぞるのが精一杯だ」


 年齢を重ねた小ズルさはあるが、細かいところまで考えることも取り纏めすることも調整することもできねー。できてたらもうちょっと苦労や影が見えているわ。


「別にカイナを貶めているわけじゃねーぜ。アレはあの性格だから魔族を見捨てないでいられる。よく見捨てないでいられるなと感心するくらいさ。生き方も考え方も違う種族の幸せを願ってんだからよ」


 あれだけの力があれば命令すればイイこと。誰も反論も反抗もしねー。と言うかできねーか。弱肉強食な世界で生きてれば。


「オレなら知るかと振り払ってるぜ。なんでテメーらの我が儘に付き合わなくちゃならねーんだよ、ってな」


 カイナもタケルと同じで危機意識が低く、人の悪意に鈍感すぎる。神(?)からの恩恵(笑)を受けてるせいで生きていることをどこかで舐めてるのだ。まあ、口にはしないけど。


「べー様には助けられています! そして幸せになってます!」


 とミタさんが抗議して来る。


「それはオレの利になるからであり、将来を見据えてのことだ。慈愛や哀れみだけでオレは動かねーよ」


 偽善は得になるからするものであって、得にならないのならやりはしねー。ただでさえ生き辛い世なのに、なんでそんな苦労しなくちゃならねーんだよ。


「オレはカイナと違って利己的だ。己に利がでるならどうとでも利用されるし、多少の苦労も受け入れよう。だが、オレの利とならないのなら問答無用で切る。そして、排除する」


 どうもこいつらはオレを品行方正で慈愛に満ちた人間だと思っているようだが、オレは自分でもびっくりするくらい悪党だ。


 おっと。わかってたとかは止めてくれ。言われて傷つくくらいには心が繊細なんでな。


「オレは基本、メンドクセーことは嫌いだ。嫌なことは他人に任せてのんびりゆったりスローライフを送りてーんだよ。邪魔するヤツはこっちくんな。勝手に滅びろ」


 それが嘘偽りのないオレの本心だ。


「だが、世の中は、力だけあっても金だけあっても技術だけあっても生き辛い。そう簡単には幸せにしてくれねー。人は一人では生きていけないとはよく言ったもので、自分を幸せにするには他人が必要ときやがる。まったく、世とは上手くできてるもんだぜ」


「で、なにが言いたいのよ?」


 いつの間にか頭から離脱して、テーブルの上で自分サイズのテーブルにつくメルヘンさんが問うて来た。


「生きるためには努力が必要ってことさ」


 なに当たり前のこと言ってんだとお叱りを受けそうだが、大概のヤツはそれができねー。自分を輪から外し、文句を言うだけ。非難するだけ。輪をよくするのは他人任せと来たもんだ。


「利を得たいのなら損も得ろ。どちらかだけでは決して幸せにはなれねーぜ」


 残り僅かなコーヒーを飲み干し、席を立つ。


「ちょっと散歩して来る。市長代理殿には話を通しておくから好きな様に交渉しな」


 オレが利となる程度には働いた。あとは、あんたらで自分たちの利を得るために動くんだな。


 ガンバれと手を上げて散歩に出かけた。

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