第1099話 マジサイコー

「で、この船団の代表か責任者って誰だ?」


 つーか、よく船団を組織できるほど人がいたな。小人族か?


「あ、ダルンを呼んで来て」


 そう部下に指示し、連れて来られたのは二人のドワーフ……ではねーな。身長は高いし、体格もイイ。前世ならこれぞドワーフって感じだがよ。


「こちらシュードゥ族の代表のダルン。そっちは船団長のバージャだよ」


 シュードゥ族? なんか前に聞いたな。なんだっけ?


「広場に温泉を掘り当てた種族だよ。土魔法と物作りが得意な種族さ」


 あ、ああ、アレな。思い出した思い出した。ってか、これが初対面か。これまで見なかったが少数種族なのか?


「ダルンと申します」


 と、髭もじゃの老ドワーフ……ではなく老シュードゥ。


 エルフほどではないが、ドワーフも結構長命種。オレが聞いた話では三百年生きた者もいるらしい。


 この見た目から歴戦の猛者だったのだろうし、一線を退いてからの苦労が老獪さを出している。少なくとも二百歳は軽く越えてるだろうな。


「船団長のバージャです」


 こちらは若い。と言っても見た目は五十半ばくらい。体格のよさもさることながら気配が現役の猛者。戦斧を持たせたら一騎当千をしそうだな。


 ……ってか、物作りが得意な要素どこよ? 破壊が得意って要素しか見えないんですけど……?


 まあ、そんなことはどうでもイイ。今になって出て来た理由はなんなんだ? 物作りが得意ならもっと早く出して来てるはずだ。


「端的に言えば種族問題、かな?」


 種族問題って、また厄介なことを押しつけてくれてんな。お前が力で抑えろよ。それだけの力があんだからよ。


「シュードゥ族とクルフ族って仲悪くてさ、おれの言葉、全然聞いてくんないんだよ──」


 特にシュードゥ族が、って続きそうなセリフを慌てて飲み込むカイナ。ほんと、こいつは指導者に向いてねーよな。


「べー、なんとかして!」


 拝んで来る魔神様。拝まれるのお前だろうが。ったく。


「何百年何千年と続くいさかいか知らんが一朝一夕でなんとかできるわけねーだろう。オレをなんだと思ってんだよ」


 どんな名君だろうと種族問題、民族問題は解決できてねー。したと言うバカは滅ぼしてるか力で抑え込んでるかだ。融和なんて言ってる指導者は頭に蛆が涌いてるか夢物語を語ってるだけだ。


「よっ、村人の中の村人! 最強村人! 世界を百人の村と例えたらでお願いします!」


 なんだよそれ? 世界を村で例えんなよ。例えたところで問題解決には一ミリも届いてねーわ。


「クルフ族と仲良く、とは言わないよ。ただ、シュードゥ族にも希望を与えて。おれじゃ無理」


 無理なら抱え込むなよ。まったく……。


「ヤオヨロズじゃダメなのか?」


 仕事ならたくさんあんだろう。あの腐王やる気ねーんだからよ。


「なんと言うか、ちょっとあってね」


 ちょっとではないことがあったってことか。ったく。血の気が多いのしかいねーな、魔族ってのは。


 まあ、温厚な種族もいるだろうし、一緒くたにはできんが、問題を起こすのは力の気が多いヤツ。押しつけられるこっちは堪ったもんじゃねーよ。


 ため息一つ吐き、老シュードゥを見る。


 これがクルフ族憎しで動いてんなら「知るか!」と捨て置くんだが、老シュードゥからは苦悩しか見て取れねー。


 この老シュードゥもわかってはいるのだろう。このままでは滅びると。だが、長年の確執により和解するのも融和することもできない。八方塞がり。助けてくださいと、他にすがるしかないのだろう。


 ……一歩間違えればこちらに憎しみが来るとか止めて欲しいぜ……。


「つまり、クルフ族じゃなければ頭は下げられんだな?」


 嫌だと言うなら即刻お帰りくださいだ。


「はい。一族が生き残れるのなら」


 でなければ頭は下げんと言わんばかりだな。まったく。位の拗れた種族は厄介だぜ。


「……天がハルメランに救いを与えたか、それともシュードゥ族に救いを与えたか、まあ、決めるのも築くのもオレじゃねーか……」


 できればオレにも救いをいただきたいものだ。オレ、最近苦労ばかりしてるよね? 報われてもイイよね? それに見合うスローなライフをオレにくれても罰は当たらないよね、神様~!


「え? なんとかなるの!?」


「……それはシュードゥ族次第だ。得たものを活かすか潰すかはな。オレができるのは口添えだけだ。シュードゥ族をハルメランに移住させてください、ってな」


 黒丹病で死んだ者には申し訳ないが、ハルメランには人口に空きができた。それは都市としての機能どころか維持にも支障をきたすほどにだ。


 移住者を求めるにしても他の都市からは避けたい。どうせ来るのはスラムの住人か都市の息がかった者だ。許すことは乗っ取られるのと同義だ。


 ……まあ、シュードゥ族の移住も侵略と受け取られる恐れどころか必ず問題になるだろうけどな……。


「まず都市に住む者の信頼を得ろ。この都市の住人であることに誇りを持て。ここが自分たちの故郷だと慈しめ。ただし内には籠るな。そして奢るな。繁栄は外にしか広がらない。ここがあんたらの再生の地だ」


 それもシュードゥ族次第。繁栄したきゃ常に誠意努力だ。


「シュードゥ族を代表してべー様に感謝申し上げます」


「ありがとうございます」


 頭を下げる老シュードゥと船団長。そして、背後にいるシュードゥ族も頭を下げた。


「感謝はもらった。さあ、頭を上げろ。苦しんでいる同胞を救え。故郷を再建しろ。ハルメランの民であることを自ら示せ」


 おおぉっ! シュードゥ族が空気を揺るがすほど叫んだ。


 ハイ、これにてハルメランはヤオヨロズ王国の属国となりましたとさ。めでたしめでたし。


「うん。べーの中ではね」


 君の突っ込みマジサイコー。そして、突っ込みマジサンキュー。

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