第1097話 包囲殲滅(笑)

 産まれて飛び出て犬だワーン。


 ………………。


 …………。


 ……。


 犬? え、犬? なんで犬っ!? ちょっとどうなってんのよレイコ教授! 説明して!!


「うわ! これ、銀竜か白竜の幼体ですよ!」


 銀竜? 白竜? いや、どう見てもふっさふさの毛を生やした白い犬にしか見えないんだけど。犬種はわからんが。


「毛を生やした犬──ではなく、竜なんているんだ~」


 唸る白い犬に指を出すカイナ。噛まれるよ。


 と思った通り指を噛まれた。大丈夫か?


「アハハ。可愛い。じゃれてるよ」


 いや、どう見ても指を噛み切ろうとしてる様にしか見えんのだがな……。


 こいつの場合、カバ子に丸齧りされても甘噛み程度にしか感じんのだから好きに解釈しろ、だ。


「憎き人め! 死ね!」


 と、カイナの指を齧りながら言葉を口にした。器用なやっちゃ。


「お、しゃべったしゃべった。でも、なぜか新鮮味はないよね……」


 そうだな。オレもないよ。


 まったく、竜がしゃべって驚いていた時代が懐かしいよ。いや、つい最近だけどっ!


「人め! 人め!」


 ガウガウとカイナの指を齧る犬の様な竜。それをいとおしそうに見守るカイナ。気に入ったならお前が飼えよ。


「そんなに人が憎いの?」


「憎い! 憎い! 害しか撒かぬ人など滅びてしまえ!」


 そのまま怨念になりそうなくらい、負の感情に満ちていた。いや、なっていたか。哀れにもカイナに邪魔されたけど。


「人など滅んでしまえ!」 


 竜を何十匹と狩っている者としては真摯に受け止めるが、だからと言って改める気もなければこれからもオレは竜を狩るだろう。弱肉強食の世界で生きてんだからな。


「憎いのはわかったけど、残念ながらここに人はいないよ」


「なんだと!?」


 辺りを見回す犬の様な竜。


「……確かに人がいない……」


「ね。いないでしょ」


 ………………。


 …………。


 ……。


「──いや、いるよ! ここに人がいるよ! なにサラリとオレの種としてのアイデンティティーを流してんだよ!」


 オレはあらんばかりに叫んで、徹底的に抗議する。


「そして、お前! なにスルーしちゃってくれてんの! 人が憎いなら見逃してんじゃねよ! オレ、人だよ。カモーン!」


 両手を広げるが、犬の様な竜はキョトン顔。いや、そんな可愛い仕草は求めてねーんだよ! あらんばかりの憎しみをぶっけて来いや!


「あ、べーって人だったんだ。村人って言う種族かと思ってた」


 そんなくだりは一回でイイんだよ。ご隠居さんで充分なんだよ! そして、周りは驚いてんじゃねー! 


「人だよ! まごうことなき人だよ!」


「そう言われても真実味ないし……」


「種としての存在に真実味なんていらねーんだよ! 人は人だよ、こん畜生が!」


 人としてこんな屈辱受けたのニ度目だよ! いや、ニ度も否定されてるオレもどうかと思うがよ……。


「まあ、それは横に置いといて、だ。どうする、これ?」


 置くなよ! サラッと流すなよ! 今、種としての存在を全方位から否定されてんだからよ!


「クソ! なんの包囲殲滅だよ。逃げ場がねーよ……」


 なんて憤懣やる方ないが、全滅してまで人であることを主張したいわけじゃねー。まずは戦略的撤退でこの場を逃れよう。


 ……もう、自分がなに言ってるかわかんねーよ……。


 胸のモヤモヤを根性で飲み干し、犬の様な竜を見る。ってか、見れば見るほど犬にしか思えねー。竜的要素、どこよ?


「頭に角が二本あるはずです」


 とレイコ教授が言うので頭を見れば、確かに円錐形の角が二本あった。


「……お前、人なのか……?」


「なんで疑問なんだよ。憎む相手くらい見抜けよ」


 お前の憎しみはそんなものなのか? 見ただけでわかれよ。


「だが、お前からは竜気と神気しか感じないぞ」


 竜気と神気、ね。


 まあ、ピータとビーダ、ウパ子からだろうが、神気とはなんだ? いや、たぶん結界がそうなんだろう。結界は魔力とは違うからな。


「それだけ憎むならそこから人であることを感じ取れよ。それで人が憎いとか言われても苦笑いしか出ねーわ」


 茶番劇だってもっと真剣にやらんと誰も観てくんねーぞ。オレはいつも流されてますけどっ!


「…………」


 悔しそうな顔を見せる犬の様な竜。お前、表情豊かだな。


「まあ、人を憎むのも滅ぼすのもお前の好きにしたらイイさ。誰もお前を縛ったりはしねーよ」


 まず間違いなくすぐに捕まって身ぐるみ剥がれるのがオチだろうがな。


 放してやりなと目でカイナに言う。


「べーが言うならしょうがないか。元気でね」


 ほれと、犬の様な竜を地面に置いた。


「もう会うこともねーだろうが、少しでも長く生きれるように祈るよ」


 精一杯生きて、悔いのない人生……ではなく、竜生を送れ。例え一日の命だろうがな。


 犬の様な竜に背を向け、こちらに降りて来るプリッシュ号改と船団を迎えるべく飛行場へと歩き出した。

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