第1096話 パターン

 待つ、と言う行為は、なにもしてないようで結構精神を使うものだ。


 それが危機的状況で守られる立場にいたら恐怖でおしっこもらしちゃっても不思議ではねー。


 まあ、オレは待つことは得意だし、守られている立場でもないんでおしっこはもらさないけどな。ただ、コーヒーの飲み過ぎでトイレが近いです。


「最近のシェルターはウォッシュレットまでついてんだな」


 シェルターと言うよりリラクゼーションルームだろう、これ。


 すっきりさっぱりしてトイレから出ると、なにやら慌ただしくなってます。どったの?


「べー様。戦いが終わったようです」


 あ、言われてみれば魔力の嵐が収まってますね。明鏡止水でいたから気がつかんかったわ。


「んじゃ、外に出てもイイのか?」


 オレとしてはあと二日くらいのんびりまったりさせてもらっても構わんがよ。


「もう少しお待ちください。今、安全を確認しておりますので」


 なら、イイと言われるまでのんびりまったりさせていただきま──。


「──お待たせ~」


 と思ったらボロボロになったカイナがシェルターに降りて来た。


「お疲れさん。苦戦したみたいだな」


「うん。手強い相手だったよ。もう怪我人続出」


 なんて爽やかにおっしゃるカイナさん。


 まあ、魔族は血の気が多いからな、イイ血抜き(?)になったんだろうよ……。


「そうかい。で、外に出てイイのか?」


「うん。大丈夫。ただ問題と言うか処理に困ってる。なんかべーの管轄って感じだから」


 なんだよ管轄って? 誤解を招く言い方は止めろや。つーか、お前のほうで処理しろよ。


「べーが嫌ならこちらで処理するよ」


 なんだよ。そんな言い方されたら気になるじゃねーか。


 オレの管轄かはともかく、外に出てみることにする。


 外はまあ酷いことになっていた。せっかく整地しただろう飛行場はボコボコになり、管制塔らしき建物は半壊。十数もの車輛がハンマーで叩いたように潰されていた。


 ……それ以上に凹んだドアに目がいくのはこの惨状を受け入れたくない心情から来てるものなんだろう……。


「都市の外でよかったな」


 こんな戦いを都市の中でやられた日には黒丹病より酷い被害が出てたことだろうよ。


「そうだね。容赦ない敵だったよ」


 それはお前らだろう。と言う突っ込みはともかくとして、その敵はどこよ?


 辺りを見回すが、それらしきものは見て取れない。


「こっちだよ」


 と、カイナが全壊した格納庫へと向かって歩き出した。


「市長代理殿から損害金を出させるか?」


 被害甚大。普通の傭兵会社なら潰れてるぞ。いや、傭兵会社がどんなもんか知らんけど。


「大丈夫。おれが創り出したものだからサービスしとくよ。これでカイナーズの名と力を知ってもらえたと思うし」


 そう言うこと考えられたんだ。とか失礼なことを考えながら全壊した格納庫に到着。なにやら厳重に規制線(?)が張られていた。


「不発弾でも発見したかのようだな」


「まあ、そんな感じだね」


 規制線(?)を潜り、壁となる戦闘員が退いた。


「黒い影みたいなのを倒したら卵になったんだ」


 カイナが指差す方向に、桃太郎でも入ってんのか? って思うくらいの卵があった。


「……このパターン、どっかで経験したな……」


 それも最近。どこでだったっけ?


「魔大陸で、ですよ。サプル様が死と混乱の竜、バンデイルサーノを倒したときです」


 あーハイハイ、思い出しました。サンキューです、レイコ教授。


「確かサプルちゃんが倒した竜だっけ? 生まれ変わって今はゼルフィング商会で働いてるんだよね?」


「ああ。竜子って名で経理をやってもらってるよ」


 あれ? リューコだったっけ? なんだっけ? 強大な魔力を持つクセに存在が薄いから名も微かにしか覚えてねーや。


「やっぱりべーの管轄じゃん」


 管轄じゃねーよ! 縁だよ! とか言っても信じてはもらえない空気なので沈黙を守る。真実は受け入れらときにしか受け入れられないものだからな。うん。


「つまり、生まれ変わる、ってことでイイのかい?」


 そこんとこどうなのよ、レイコ教授。


「はい。可哀想に……」


 なにが? とは問わないでおこう。たぶん、望む答えが返って来ないだろうからな。


「これもすぐ孵るのかい?」


 竜子(仮)はすぐに孵って幼女になってたが。


「どうでしょう? 竜の孵化はよくわかっていませんから。ただ、べー様ならすぐに孵せるかも知れませんよ。護竜の加護──と言うより、竜気、でしょうかね? ピータとビーダが生み出す竜気は他の竜の栄養ともなりますから」


 つまり、とんでも設定ってことね。了解了解。


「孵すの?」


 カイナの問いにすぐには答えられない。


 いつもなら考えるな、感じろが働くのだが、今回はうんともすんとも言わない。勘も働かない。これまでの経験からそれは得にも損にもならないから。つまり、好きにしろ、ってことだ。


 なら、命は活かせがオレの基本。無駄に散らすこともねーだろう。


「ピータ、ビーダ、竜気を分けてやれ」


 両肩に乗る二匹にそう言う。


「ぴー!」


「びー!」


 任せろとばかりに二匹が鳴き、卵へとジャンプした。

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