第1095話 とんでも設定

 オレはシェルターでゆったりまったりコーヒーブレイク。外ではカイナーズの連中がハートブレイク。同じブレイクなのに天と地の差があるとか笑っちゃうね。


 とか、言える雰囲気ではなかった。


 この豪華なシェルターなんのためにあんだよ! とかも叫ぶ雰囲気でもないのでコーヒーを飲むことに徹してはいるが、そもそも論としてオレがここに来る必要はあったのか? なんて、つい考え込んでしまう。


「……大丈夫でしょうか……?」


 沈黙に堪えきれないのか、ミタさんが不安そうに声を上げた。


 どこぞの独裁者が造ったような豪華なシェルターには、ミタさんと武装したメイドさんが三人。背広の軍服を着たカイナーズの方々(事務員かな?)。あと、非戦闘員な感じの人々(食堂のおばちゃんって感じ)がいる。


「カイナがいる時点で不安なんてなにもねーよ」


 まあ、別の意味で不安になる野郎だが、魔王の肉体と魔力を持つカイナに勝てるのなんているわけがねー。いたら世界は地獄になってるわ。


 不安なミタさんやカイナーズの連中にはわからないだろうが、あのバカ野郎は遊んでいるだ。


 周りにいる連中にはハタ迷惑なことだろうが、カイナにしてみれば力を押さえなければ世界を破滅しかねない。だが、それではストレスが溜まる。


 自分の中で暴れる衝動を定期的に発散しないとならないのだろう。まあ、オレの勝手な憶測ではあるがよ。


「カイナーズではよく戦死者は出るのか?」


 オレは聞いたことはねーな。なんで死なないの? とか思ったことはあるけど。


「あ、そう言えば出てません、ね。負傷者はバカみたいに出ますが……」


 そう言うところは前世、いや、カイナにしたら元の世界か。まあ、その元の世界の常識に支配されているのだ。


 ルールを守って遊びましょう、ってな。


「戦いに絶対はないが、カイナがいるなら誰も死なないよ」


 あいつは遊んでいるのであって殺し合いを……してるな。魔王とか相手に……。


 ま、まあ、なんだ。あれだ。ゆるりと待て、ってことさ。うん。


 シェルターなので外での戦いの音や振動は感じないが、魔力の動きはわかる。村で生活してたらまず感じない魔力の嵐が吹き荒れているよ。


「いまさら、でもないような気はするが、魔族に銃って役に立つもんなの?」


 オレの持つ朧改など狼にも対抗できるかわからんし、オーガの堅い皮膚とかに効果があるとは思えねー。


 ……オレは石を投げて殺しちゃったことはあるけどねっ……!


 鬼族なんて剣でオーガを一殺できそうな膂力を持っている。銃より剣のほうが効果的なんじねーの?


「カイナ様が生み出した武器はもう魔剣や神剣と言ったレベルです。銃で岩を殴れば岩が粉々になるくらいに。弾丸も威力を調整しないと相手をミンチにしてしまいます」


 あいつ、なんで人をバカ呼ばわりできんだろう。お前が一番のバカ野郎じゃねーか。ほんと、勇者ちゃんに討たれろや!


「都市に迷惑かけてなきゃイイんだがな」


 あのバカ、平気でロケット弾とか街中で撃つタイプだし。


「しかし、相手の魔力を感じんのはなぜだ? 魔力を持ってない存在なのか?」


 まあ、魔力を持たない種族はいるし、エルフは霊力だ。あ、ダークエルフは魔力だね。


 そんな種族を結ばせてよかったんかい? とか思ちゃったけど、生命は強いもの。きっとイイ方向に進化してくれるって! と納得しておこう。うんうん。


「感じないのですか、あの邪気を!?」


 ミタさんだけではなく、周りの方々も驚き顔。種族的なものか? オレ以外、皆魔族だし。


「邪気、ね? 禍々しいものなのかい?」


 腐嬢三姉妹以上の禍々しいものがあるんならオレも加担するよ。全力を出すよ。殲滅しちゃうよ。


「はい。並の者なら気が狂うほどです」


 それ、自分を並じゃないって言ってるようなもだよ。まあ、この万能メイドが並なら他は塵芥だよ。


「そこまでのものならオレでも感じるはずなんだがな? なんでや?」


「べー様には護竜の加護がついているからですよ」


 と、神出鬼没(?)な幽霊が当たり前のようにおっしゃいました。


 ……この幽霊の現れるタイミングがよーわからんわ……。


「護竜の加護? なんだいそれ?」


 またなんか変なのがまとわりついてんのか? 止めてよ、そーゆーとんでも設定。幽霊だけでもお腹一杯なのにさ。


「なにかはわたしもわかりませんが、あの邪気を感じないところをみると竜に関わる呪いを防ぐものだと思います。ピータとビーダから竜気が出てますから」


「ってことは、外のは竜ってことかい?」


 オレを守ってくれるものだから受け入れはしますよ。理解するのは無理だけど。


「はい。ただ、ロドに侵されているのでなんの竜かはわかりませんが」


「ロド? ってなによ?」


 お腹一杯ではあるが、食わなきゃわからないのならガンバって食うしかねー。まったく少食のオレには拷問だぜ。


「訳すとなると、負、が近いですかね? 知能の高い竜によく見られる現象で、恨みやら怒りやらに捕らわれて精神を壊し、長い時間をかけて体を変質させるんです。外のは邪気に変質したようですね」


 なに一つ理解できんが、ファンタジー理論に突っ込んでもしかたがねー。そうなんだ~と受け入れろ、だ。


「そんで、なんとかする方法はあるんかい?」


 力押しでなんとかしそうなヤツが相手しとるけど。


「手っ取り早いのはべー様がぶっ叩けばよいかと」


 悲報! オレも力押しでなんとかするカテゴリーに入っていたようです! 


「でもまあ、外の方々で大丈夫かと。竜以上の存在ですし、あの方は」


 つまり、果報は寝て待て、っことだね。


 お腹一杯ではあるが、消化するためにコーヒーをいただこう。


 あーコーヒーうめー!

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