第1094話 誰がための戦い(的な)
オレが言うのもなんだが、このファンタジーな世界でバケモノと、つい口にしてしまう存在はまだ可愛いほうだろう。
バケモノ以上の存在が現れたら、まず口を開くことはできず、本能が死を理解するだろう。
まあ、前世で一度死に、今生で死ぬ思いを経験し、村人として生きる覚悟をしたオレには怖いことは……メッチャありますが、エイリアンやプレデター程度のバケモノが現れたところで怖いとは微塵も感じねーだろう。
……女の冷えた笑顔に比べたら屁でもねーわ……。
なんて考えてたら車の回転(?)が止まった。
「軍用車輛って頑丈にできてんだな」
映画館ではロケット弾で簡単に吹き飛んでたからもっと華奢かと思ってたわ。ってか、ガソリンの臭いがすんだけど、爆発的しないよね?
「ヤベー! 燃えて来た!」
ガソリンの臭いがする状況で言うセリフか? それともこう言う場面で使うカイナーズジョークか? ってか、乗客無視して飛び出してんじゃねーよ。
「べー様、お怪我はありませんか?」
と、ガスマスクさんが訊いて来た。そのセリフはオレが言いたい。あなたから血の臭いがしますよ!
「ないよ」
と簡素に答える。
「ミタレッティー。べー様を連れて基地にいけ!」
そうガスマスクさんが言うと、ひしゃげたドアを蹴り飛ばして外へと出ていった。あなたも丈夫なことで。
「べー様、外に出ます。あたしについて来てください」
「あいよ」
半分以上、カイナーズに所属しているようなもの。仕切ってる方々に従います。
ミタさんもドアを蹴り飛ばして外に出た。それ、カイナーズで流行ってんの?
「べー様!」
別にミタさんの手を借りんでも外に出れるのだが、テンション高めのミタさんのやる気を削ぐのも悪いと、素直に手を取り、外に出してもらった。
車内でも耳には届いていたが、異世界感を台無しにするような銃撃の音が多重奏のように聞こえる。
「べー様、こちらです!」
ミタさんもライフル銃を出して、周りに銃口を向けながら歩き出した。あ、ピータにビーダにウパ子はついて来てますか~?
あ、肩と頭に乗ってました。君たち素早い上に器用だよね。
「右だ!」
「べー様に近づけさせるな!」
ガスマスク隊が現れ、オレを取り囲んで周りに銃口を向けた。
襲撃して来た者がなんなのか気になるが、ミタさんやガスマスク隊に迷惑になると我慢して先を進む。
「城壁です!」
と先頭に立つミタさんが叫んだ。
どうやら城壁間近での襲撃だったようで、ミタさんの頭越しで城壁が見えた。
「城壁、結構高いのな」
木で造られた壁は開拓村で見たことはあるが、石の壁って初めて見たわ。
周りのガスマスク隊や銃撃音がなければファンタジー感溢れる城壁に感動もしただろうが、気分はブラックホークダウン。もう世界観ぶち壊しである。
「来たぞ! 近づけさせるな!」
どうやら背後に襲撃者がいるみたいです。
「食い止めるぞ!」
「死守しろ!」
「クソ! 動きが速すぎる!」
戦争映画ならクライマックスに聞きそうなセリフである。
しかし、最初はオレの考えるな、感じろに反応したのだが、今はまったくと言ってイイほど襲撃者の存在を感じ取れない。
これだけのことをする存在なら威圧なり魔力なりを感じるものなんだが、カイナーズのヤツらの魔力しか感じない。
まあ、どいつもこいつもA級冒険者並みに魔力があって、殺気立っているから感じ難いのかも知れんな。
「なんて凄まじい邪気なんだ!?」
は? 邪気? なんのことだ? まったく感じんぞ!
振り返って確認したいが、城壁の門はすぐそこ。飛行場を警備してただろう兵が応援に来ており、オレを守ろうとしているのがわかるので我慢して進んだ。
「べー様。ここは我らが死守しますので建物に避難してください」
なんか死亡フラグっぽいセリフを吐くガスマスクさん。だが、カイナがいるんだから大丈夫だろう。怪我人は出てそうだが、死者は出てないっぽいし。
「ああ、万事任せた」
素人は素人らしく大人しくしてるよ。ただ、都市を壊すようなことはしないでね。まだ利用──ではなく、友好を築きたいんだから。
「はっ! べー様に勝利を」
「べー様に勝利を!」
「勝利を!」
いつの間にかオレのための戦いになっちゃってるけど、なにかオレが狙われてる感じがするので反論はしないでおこう。
この短期間でよく建てたなと感心するくらいの立派で頑丈そうな建物へと入る。
「ミタレッティー。べー様を地下シェルターへ案内しろ」
「キシエモンさん!?」
って言うらしい、ガスマスクさんは。
「これはカイナーズの誇りを賭けた戦いだ。遊撃メイドの出番はない」
遊撃メイド? ミタさんのことか? ってか、なにこの最終決戦でもしそうな雰囲気は? オレはなんて戦争映画に迷い込んだんだよ。
「ミタさん。地下シェルターに案内して」
戦争映画を観るのは好きだが、戦争に参加するのはノーサンキュー。もう勝手にしろや。オレは小粋にお洒落にコーヒーブレイクさせてもらうからよ。
「……はい。畏まりました……」
なにを堪えることがあったかはわからんが、なにかを飲み込んだかのように声を絞り出すミタさん。
なんだろう、この誰がための戦い(的な)は? とか思いながらミタさんのあとに続いて地下シェルターとやらに向かった。
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