第1090話 召喚

 豪華な部屋でコーヒーを飲みながらの読書。実に優雅でスローなライフである。


 え、黒丹病は? ですって? んなもんまだ継続中に決まってんじゃん。なに言ってんの?


「あ、コーヒーお代わり」


 このハルメランに一緒に来た吸血族のメイドさんにお代わりをお願いする。


「はい。お菓子はいかがなさいますか?」


「そうだな。かりんとうまんじゅうをちょうだい」


 今、そんな気分なんです。


「か、かりんとうまんじゅうですか? 申し訳ありません。それはどう言うものでしょうか?」


 あれ? ミタさんはかりんとうまんじゅうは補完してないのか? お菓子好きなクセにセンサーが鈍いよな、ミタさんって。


「なければイイや。どうしてもってわけじゃないからよ。まんじゅうはある?」


「はい。まんじゅうでしたらご用意できます」


 と言うので出してもらったら粟まんじゅうだった。なかなか渋いとこ突いてくんな、このメイドさんは。ってか、粟まんじゅうがあってなんでかりんとうまんじゅうがねーんだよ。カイナーズホームのラインナップはどうなってんだよ!


 なんてことは口にも顔にも出さずにいただきます。うん、粟まんじゅう、久しぶりに食ったわ。


「緑茶ちょうだい」


 これは緑茶がよく合うものだ。次点で牛乳だな。


 粟まんじゅうをパクつきながら緑茶をズズズと飲んでいると、市長代理殿のその秘書嬢、そして、文官らしき男が入って来た。


「老師様。お時間よろしいでしょうか?」


 あれから四日。二回は睡眠薬っぽいものを飲ませて寝かせたからか、これが自分だとばかりにハツラツとし、できる女を見せていた。


「構わんよ。わしの仕事はないからの」


 何万人も住む都市で、オレが動いたところで大したこともできない。タンポポモドキを煎じるのは兵士でもできる。


 人海戦術とばかりに城で働く下働きの者も動員して、大量に煎じて市民に配っているよ。


「で、どうしたい?」


「他の都市から使者が来て、黒丹病の薬を分けて欲しいとのことです」


「他の都市? 随分と知られるのが早いの」


 他との都市との距離は知らんが、四日程度で伝わる距離ではあるまい。なんかカラクリがあるのか?


「恐らく議員の誰かが声飛ばしの魔道具を使ったのでしょう。各都市と繋がる者はおりますから」


 市長代理殿の言葉からして相互通信ができるものではないようだ。


 そう言やスマッグはここで使えるのか? とダイナマイトボディーなドレミを見る。


「基地局を設置しましたのでハルメラン内では使えます」


 うん、できるってことだけ理解しておくよ。オレには難しい話みたいだし。


「メイド全員とトータ様に渡しております」


 さようでございますか。まあ、わたしめが使うことはないでしょうが、その用意周到には敬服させていただきます。


「市長代理殿にもいくつか渡せるか?」


「はい。創造主様が増産しておりますので」


 そう言うと、なぜかオレの耳元へ近づき、使用料として生命力をいただいてますと呟いた。


 それ呪いのアイテムじゃね?


 とか思い浮かんだが、そもそもあの汚物は腐嬢にして腐王。創るものが呪われて当然。呪われてないと思うほうがどうかしてるわ。


 ポケットを探りスマッグを取り出してドレミに渡す。今日から君はオレの通信係だ。いやまあ、前からそんな感じだけどよ。


「で、来たヤツは市長代理殿にとって大事な相手か? それとも面倒で馴染めない相手かな?」


「面倒で関わり合いたくない者ですが、立場的に弱いので会わざるを得ません」


「その言い種では借もありそうじゃ」


 たぶん、無理矢理押しつけられたような借だろう。前市長か前重役たちが原因で、な。


「はい。薪を握られています」


 だからか。結構重要なところを押さえられてるようだ。


「入って来なかったのは値を吊り上げるためか、嫌がらせか、それとも支配か、そのすべてかな?」


「マルネーラ党はサイラネン都市から資金援助されています」


 悔しそうに言う市長代理殿。相当煮え湯を飲まされているようだ。


「薪不足は深刻かい?」


「……はい。この冬は凍死者が出るでしょう……」


 市長代理殿は弱り目に祟り目に思えるだろうが、オレから言わせれば災い転じて福と成す、だ。


「わしの知り合いの新興国で今、開拓開墾の熱が上がろうとしておる。そこは他種族多民族国家で対等な商売をしてくれる相手が少ない。もし、他種族多民族相手でも商売をしようと言うのなら、この冬の薪はこちらが持ってもよいぞ」


 ヤオヨロズ国では木を伐っても使い道はねー。精々、地竜のエサがイイところだが、バイブラストから買うのでたぶん余るだろう。


 ヤオヨロズ国と商売ができるのなら、それは林業と言う雇用が生まれるってことだ。まあ、まだこの都市の産業やら名産は知らないが、オレの勘はあると言っている。


「……その国から大使なり使者なりを呼んでいただけますか?」


「もちろん、すぐにでも呼ぼう」


 ヘイ、カイナ。カモーン!


「──まったく、べーの引きのよさは神がかってるよ」


 カイナと愉快な仲間たちを召喚した。 

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