第1085話 孤児院

 泣きじゃくるトータをそのままに、隣の部屋へといってみる。


 明かりがないので結界灯を二つ、創り出す。


 テーブルがいくつかあることからして孤児院の食堂兼集まりの場、って感じかな。


「こっちも空気がワリーな」


 閉じ籠るために外へ出るドアや窓が板で打ちつけてあった。暴動でも起きてんのか?


 ここには誰もいないが、一応、空気浄化の結界を張っておく。


「ガブはどこだ?」


 あと、カナコさんとやらも。


「マイロード。左側の部屋にいますが、右側の部屋を優先したほうがよろしいかと」


 なぜかドレミが教えてくれる。透視能力か!?


 なんて冗談に誰も応えてくれないので、ドレミが教えてくれた右側の部屋のドアを開ける。


 孤児たち部屋か。三段ベッドがすし詰め状態が涙を誘うぜ。


 すし詰めになるくらい孤児が多いようで、たくさんの気配が感じ取れる。


 ここも結界で空気を浄化させ、結界灯を一つ創り出す。


「……酷いな……」


 ベッドはすべて埋まるどころか床にも溢れ、この部屋にいるガキどもすべてが黒丹病にかかっていた。それも重症──いや、末期だな。


「まあ、死んでないのなら関係ないか」


 無限鞄からエルクセプルを一本取り出し、伸縮能力で一升瓶サイズぐらいまでデカくする。


 何度も言うが、エルクセプルを作るのはそう難しくない。オレくらいの薬師なら調合は可能だし、A級の冒険者パーティーなら箱庭にいかなくても材料は集めて来れる。決して国が傾くような存在ではねーのだ。


 問題は保存法。劣化させない技術が国を傾けさせるほどの存在にしているわけだが、結界術を使えるオレには問題ナッシング。ましてや、プリッつあんの能力も使えるから無限に増殖させられる。


 卑怯だな! とは今さらのこと。言われたところで心にも響かねー。世は理不尽にできてんだらな。


 瓶の口を切り、結界で包み込む。


 球体にしたエルクセプルを五十等分に分け、ガキどもの口へと運び、無理矢理飲ませた。ハイ、終了。


「ガブとカナコさんとやらは無事なんだろうな?」


「はい。どうやら女子のほうは軽いようです」


 あ、そう言や男しかいなかったな。気がつかんかったわ。ってか、ガブも男だが、年齢的に許されたのか?


 部屋を出て隣の部屋のドアを開けようとして開かなかった。なにかで固定されてる感じだな。


「ドレミ。中に入れるか?」


「はい。可能です」


「んじゃ、頼む。エルクセプルも入れるから飲ませてくれ」


 女子部屋を封鎖したのなら十一歳とは言え男が入るのは遠慮したほうがイイだろう。ドレミに任せた。


「畏まりました」


 メイド型からスライムへとトランスフォームしてドア下の隙間から中へと入っていった。


「あんちゃん。皆は大丈夫?」


 チャコを頭に乗せたトータがやって来た。


「男のほうは治した。今は女のほうをドレミに任せたから直に治るだろうさ」


「ありがと、あんちゃん」


「事が事なだけに気にするなとは言えんが、まあ、よくがんばった。反省してチャコたちと話し合って、次に活かせ」


 このくらいの失敗ならオレがフォローしてやるからよ。


「うん。次はもっと上手くやる」


「それでこそオレの弟だ。さあ、起きて来た野郎どもに食事を取らせてやれ。礼拝堂で料理して──いや、その前に風呂だな。そんな汚れたままでは違う病気にかかりそうだ」


 予算がないのか、ガキどもが着ている服は凄く汚れ、臭いも酷い。せっかく治したのにまた病気になられたら薬師としてやりきれねーぜ。


「風呂を造るか」


 ドアに打ちつけられた板を外し、外へと出る。


 貧乏ではあるが、土地はあるようで六畳ほどの風呂が造れそうな感じだった。


 あらよ、ほらよ、どっこいしょー! で、脱衣場つき風呂完成。あ、念のためにタンポポモドキの粉を入れておこう。混ざれ~。


「トータ。野郎どもを風呂に入れさせろ。あと、服は焼くから新しいのを着ろと伝えろ」


 孤児院を人材育成機関とするべく服や下着などは村の女衆に頼んで大量に作ってあるのだよ。


「わかった」


 どのくらいここにいるかは知らんが、ぽっと出のオレより馴染みのあるトータのほうがイイだろう。


 野郎どもを任せ、女子どもが出て来る前に礼拝堂の様子を見にいった。


「どうだい?」


 料理を作っている赤鬼のメイドさんに尋ねる。


「薬は全員に飲ませました。ただ、栄養不足の方ばかりで動くこともままならないようです」


 まあ、エルクセプルと違って黒丹病を治すだけだからな。


 エルクセプルを無限増殖できるとは言え、路上生活者な感じのこいつらを一気に治す気はねー。治って暴れられても困るしよ。


「二人か三人、こちらに回せるかい?」


「はい。五名ほど外で警護させてますので」


 礼拝堂にいる数を混ぜると十五人くらい連れて来たようだ。


「じゃあ三人、こっちに回してくれや」


「畏まりました」


 と、背後からの返事。振り向けば最初に来たセイワ族のメイドさんと、エルフ……ではねーな。感じからして吸血族か。まあ、吸血族のメイドさんが二人いた。


「孤児院のほうでも食事を作ってくれ。なにかあればトータに聞いて動いてくれ。オレは外の様子を探って来るからよ」


「護衛を用意致しますか?」


「いろはを連れていくから、抜けた穴を頼む」


 武装したメイドさんが五人もいたら百や二百の暴徒でも数分で蹴散らすだろうよ。いや、殺しちゃダメだけどさ。


「お気をつけていってらっしゃいませ」


 メイドさんたちの一礼に見送られ教会の外に出た。

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