第1084話 孤児院
転移した場所は……夜なのでわからんが、なにか建物の前のようだ。
ボブラ村と同じ時間帯となれば、そう遠い場所ではねーな。
結界灯を創り出し、辺りを照らす。
「……教会か……?」
造りは石組みで、黄土色の石を使っている。ってことはアーベリアン王国周辺ではねーな。
精霊を祭る教会は石も使うがほとんどは木造だ。石で組むとなると帝国かその周辺になる。まあ、仕入れた情報では、だがよ。
「うん。アドアーリ教会。孤児院も兼ねてる」
そこはちゃんと守ったか。
初めての土地でもしトラブルが起き、拠点を築かなくちゃならない場合は貧乏な教会か孤児院にしろ、と教えていた。
なぜかと言えば教会や孤児院なら金と食料で味方につけられるから。孤児は意外と情報に詳しく、町を知っているのだ。
心強い味方にはならんが、利用しようと考えるゲスどもよりはマシな味方にはなってくれるのさ。バリアルや王都のように、な。
「え、えーと、三式だっけか?」
「いろはとお呼びください。マイロード」
あ、うん、それでイイのなら遠慮なく呼ばせていただきます。
「いろは、警備をしてくれ。問答無用で押し通ろうとするアホは怪我をさせても構わねー。関係者なら通せ」
超万能生命体ならできんだろう。
「畏まりました。マイロード」
大人バージョンのいろはが四つに分裂。幼女バージョンとなり、敷地内に散っていった。
「あんちゃん、早く!」
と、トータに腕を取られて教会内に連れ込まれる。
中は扇状の礼拝堂となっており、祭壇には太陽を模したものが掲げられていた。
……太陽神教か。となると自由貿易都市郡地帯かな……?
宗教で地域はわかるが、自由貿易都市郡地帯は話でしか知らん。はっきりそうだとは言えんのよね。
「結界!」
で、外から隔離。結界内の空気を浄化させる。なにやら黒丹病にかかった者らで溢れていたから。
「メイドさんたち、湯を大量に沸かしてくれ。温度計は持ってるか?」
一人だけエプロンのデザインが違うメイドさんを見て言う。
……今さらだが、誰がデザインとか考えてんだ? なにかメイド服に違いがあるが……?
「はい。ベー様に仕えるメイドは大抵の物なら所持しております。もしなければすぐにご用意致します」
ミタさんの教育(いつしてるんだか知らんけど)がよろしいようで、異空間化してるぽいポケットからコンロやらペットボトルやらをドンドン出している。
……他人の振り見て我が振り直せ。ポケットから物を出すって結構シュールな光景だったんだな……。
「四十度から五十度の湯にタンポポモドキの粉を混ぜて、動けない者を重点に飲ませろ。あと、胃に優しい野菜スープを作っておいてくれ」
「畏まりました。それと、応援を呼んでもよろしいでしょうか?」
「構わないが、敷地内からは出るな。転移も敷地内で済ませろ。オレの結界内なら黒丹病にはかからないからよ」
もちろん、連れて来た者にはオレの結界を纏わせてありますのでご安心を。
「はい。徹底させます。では」
三人のメイドさんが一礼して行動を開始した。
「チャコたちは孤児院のほうか?」
礼拝堂にいるのはほどんどが大人で、衣服からして路上生活者だろう。そう言うヤツは大体教会に押し寄せるからな。
「うん。チャコとカナコを守るために孤児院を封鎖したんだ」
たぶん、孤児院へと続くだろうドアの前になにかお寺の鐘っぽいものが置かれていた。なぜに!?
「あんちゃん、これ退けられる?」
「お前が出したんじゃないのか?」
「チャコがドアの向こうから出したんだ」
器用な花だな、あいつは。
まあ、素材やサイズがなんであれ、オレにかかれば問題ナッシング。無限鞄に入れればハイ、終了。外開きのドアを開けて隣の部屋へと入った。
そこは物置に使われているのか、古い箱やなにに使われるかわらない木材があった。
「チャコ!」
周りに目がいってたから床に倒れていたチャコ……な感じの地味な花が倒れ? いや、落ちてる? なんだ? と言うことはどうでもイイとして、枯れっ枯れな状態だった。
「……トータ……」
枯れっ枯れな花から声が。ファンタジーな世界じゃなければ絶叫してるところだな。
……しかし、デカくしてやったのに、なぜ花になると元のサイズになるんだ? メルヘン系はよくわからんわ……。
「水でもやったらどうだ?」
チャコならそれで復活しそうだしな。
「水をあげてもダメなんだ」
おや、ダメなのか。なんでや?
「……気候に合わなかったみたい……」
と、枯れっ枯れな声でチャコが言った。
あ、うん、そうだね。君、花だし。さすがにファンタジーとは言え、どこでも咲ける花はないよな。うん。
「つーか、それで冒険に出ようとか無謀だろう」
自業自得満載で突っ込む気にもならんわ。
とは言え、トータを任した恩もあればもう家族の一員。見捨てる選択肢はねー。死なせたら弟に顔向けできんわ。
花園を思い出して結界を創り、枯れっ枯れのチャコを包み込む。
「……空気が気持ちいい……」
結界を空中に浮かし、無限鞄からアマテラス用の土をベッドにし、小瓶に入った世界樹の滴をスポイトで吸って二滴ほどチャコにかける。
「どうだ?」
「……もっと。足りないわ……」
枯れっ枯れな声ではあるが、先ほどより声音が強くなっていた。
一滴二滴とチャコの様子を見ながらかけていく。
さらに小瓶を出して世界樹の滴をかけると、花に潤いが出て来た。
「もう、いいわ。ごめん。少し寝る……」
花が寝るとはこれ如何に。なんて思ったが、まあ、危機は脱したってことだろう。思う存分寝るがイイさ。
「……あんちゃん、ありがとう……」
涙を流す弟の頭を撫でやり、よくがんばったと褒めてやった。
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