第1083話 枯れっ枯れ
風呂場へと戻り、トータの状態を確認する。
「……効くとは聞いてたが、いくらなんでも即効性ありすぎだろう……」
何万人も殺した黒丹病を数分で治すとか、ファンタジーはほんと理不尽だぜ。
とは言え、黒丹病に効くってことを見つけるまで何万人も死に、試行錯誤が行われたのだから先人に感謝である。
「皮膚上のは消えたが、体の中は大丈夫なのか?」
黒丹病は空気感染で皮膚につくと言われている。
皮膚から徐々に体の中へ入っていき、まず、手足の肉を腐らせ、やがて内臓へと至るとか。だから、手足に異常がなく皮膚に黒い点がある場合は初期段階で、タンポポモドキの粉を湯に混ぜて浸からせれば完治するんだと。
「トータ、体の具合はどうだ? 体が熱いとかダルいとかねーか?」
結界を解き、尋ねる。
「……ダルくて寒いのがなくなった……」
ダルくて寒い、か。増殖するのに体の熱を奪うのかな?
「──そんなことより皆が死んじゃうんだよ!」
「落ち着け。お前は皆を助けるために家族を殺しかけたんだぞ」
五歳児──いや、もう六歳か。じゃなくて、まだ幼いトータにわかれと言うほうが悪いが、それでも冒険者として旅立ったのなら一人前として扱い、ちゃんと責任は取らせる。都合のイイ立場にはオレがさせん。
「お前は黒丹病と言う何万人も殺せるだけの病気にかかっていた。そして、お前の口ぶりからして大量に感染したところから来たってことだ。病気には移るものがあると教えていたのに、お前はそれを忘れていきなり帰って来たんだ、家族に移るとも考えずに、な」
病気にかかった者に近づくときは口を覆え。自らかかったら人に近づくな。まあ、風邪を引いたときの対処だが、黒丹病の惨さを見たのならもっと冷静に動いて欲しかったぜ。
まあ、それを六歳児に、ってのも無茶だけどよ……。
「それは後だ。館にいくぞ」
風呂から出し、結界で乾かした。
「一応、これを飲んでおけ」
無限鞄からエルクセプルを出して飲ませた。
一秒二秒と時間が過ぎるが、これと言った反応はなし。エルクセプルは黒丹病にも効く、ってことかな?
「それも現地でだ」
風呂場を出て居間にいくと、全員がコーヒー(モドキ)を飲んでいた。
「タンポポモドキのストックは充分にある。湯に溶かして身を浄め、でコーヒー(モドキ)を二日くらい飲み続けろ。一時間間隔で無理しない量でイイからよ」
そう言って離れを出る。
転移バッチを使い、転移結界門前へ。扉を開けて外に出る。
「ベー! いったいなにが起こったんだ!?」
外が暗くなっているのになぜか親父殿がいた。暗くなるまで働いてんのか?
「寄合で帰って来たら家に入れんし、敷地からも出れないとか、本当になんなんだよ!」
「トータが黒丹病にかかって帰って来た」
アーベリアン王国の生まれではねーが、黒丹病のことは知っている。その短い説明で理解してくれた。
「……大丈夫なのか……?」
「人は大丈夫だ。トータで試した。だが、魔族や他の種族ははっきりとは言えねー。が、まあ、そう心配することはねーだろうよ」
意外と外に出ているメイドが多く、こちらに集中しているので、安心させるためにそう言っておく。
「ベー! なんなのさいったい!?」
と、カイナが転移して来た。
「お前が来てどうすんだよ。下っぱに来させろや」
トップが最前線に出てどうすんだよ。安全な場所から指示しろよ。
「おれは戦う指揮官なの」
それ、指揮官としてダメだろう。いや、なんでもイイわ。どうせ簡単に死ぬヤツじゃないんだしよ。
「黒丹病って言う、まあ、ペストみたいなもんにかかったトータが病原菌をばら蒔いた恐れがある。薬はあるが、それが魔族にも効くかはわからんし、感染するかわからん。タンポポモドキの粉を水に溶かして噴霧器で近辺に撒け。それで黒丹病は死滅するからよ」
まあ、念のため。いや、気休め程度だが、やらないよりはやったほうが心理的にイイだろう。
「魔族はカイナーズに任せる。もし、ダメなら隔離しておけ。オレの力で死滅させるからよ」
将来のための予行演習だと思っていろいろ考えておけ。
「ベー! シャニラは大丈夫なんだな!?」
「オカンは誰よりも大丈夫だ。呪いだろうと弾く結界を纏わせてるからな」
タケルたちに纏わせたものより古いが、威力と性能は段違い。カイナの攻撃だろうが二発は防げるはずだ。
「……あ、ああ、だからか。お前の母親だし、岩を持ち上げても不思議じゃないと思ってたが、お前の力か……」
いや、不思議に思えよ。素直に受け入れ過ぎだわ。
「とにかく、館内に収めるためにも三日は中に入るな。館にも黒丹病の薬は常備してあるし、トータも初期段階だったからな。問題は村の対応だ。さすがに内緒にはできんからな」
村に流れた可能性は少ないだろうが、だからって話さないわけにはいかねー。不審は村社会を簡単に壊すからな。
「対応はおれがやる。それだけの信用は築いているからな」
さすが親父殿。任せるよ。
……ただ、オレの存在意義が危ういので、落ち着いたらボブラ村にオレありを示さんとな……。
「なにかあればドレミを通じて連絡してくれ」
メイド型ドレミ隊が勢揃い。ってか、同じ顔で同じ体型のが三十もいるとおっかねーな。
「マイロード。青がお側に仕えます」
青い髪のメイド型ドレミが現れ、一礼した。
「いろはの分離体もいるのか?」
「いろは三式、ここに」
と、いろはと姿型まったく同じのが現れた。あと、三式とかはスルーさせてもらいます。
「ベー様。ミタレッティー様の代わりにわたしたちがお側につきます」
アダガさんと同じ青い肌を持つセイワ族のメイド三人が出て来た。
「好きにしな」
ミタさんの心情を考えたら無下にもできんしな。
「トータ。これの使い方は知ってるな」
シュンパネはチャコからもらったもの。知ってはいるはずだ。
「うん! それで帰って来たから」
なら、問題なしとシュンパネをトータに渡す。
「アドアーリへ!」
トータがシュンパネを掲げ、アドアーリなるところへ向かった。
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