第1079話 異常
「ともかく、これはシャンリアルの問題だから安心しな」
あんちゃんもゼルフィング商会もアーベリアン王国に属しているとは言え、販路はアーベリアン王国以外に向けられている。関わったって儲けは少ねーさ。
「お前が関わったことに安心なんて言葉はねーんだよ!」
「そうです。ましてやシャンリアルが伸びるならバリアルにも影響を及ぼします。名を捨てたとは言えわたしはバリアルの者。関わらぬわけにはいきません」
「魔族を雇うと言われてほっとけないよ。一応、魔族側の代表だしさ」
一応と言ってないでハッキリと代表と言い切りやがれ! 腐れ魔王が。お前が王になれば大抵のことは片付くんだからよ。
「まず、お前の頭の中にある計画を出しやがれ! 話はそれからだ」
無茶言うな、あんちゃんは。伯爵領の政策をしゃべれとか、他だったら首が物理的に飛んでるぞ。
「別に計画とかそんな大層なもんはねーよ。やれたらイイなぁ~くらいなもんさ」
まだ思いつき程度。試してる段階だわ。
「お前のイイなぁ~は成功を確信した後によく言う言葉だわ!」
え、そうなの? 全然気がつかんかったわ。注意しなくちゃな。
「そうなのですか?」
「そうですよ、婦人。こいつは頭もさることながら勘がアホみたいにいい。二つの出来事が無関係のことでも共通点や打開策を見つけてくっつけてしまうんです。たぶん、婦人を見たときにゼルフィング商会の構想が浮かび、引き込むために動いたはずです」
「確かに言われてみればそそのかれた感じですね」
そ、そんなことないよ~。
「こいつのことだからいつかゼルフィング商会から身を引き、完全に婦人に押しつけますよ。商会の名にゼルフィングとつけたところから絶対です。籍を抜けはただの村人となり、ゼルフィング家とは関係なくなりますからね」
そ、そんなふうになったりもしますね。あははのはぁ~。
「こいつは望めば一国の王にすらなれるのに、甘んじて村人になってやがるんですからね」
甘んじて、ではねー。望んで村人をやってんだよ。
「王になりてーならあんちゃんを王にしてやるぞ」
王なんてあちらを立ててこちらも立てられるなら種族も年齢も性別だって問わない。足りないものは他から持ってくればイイんだからな。
「ならねーよ! 半年で死ぬわ!」
「そこは任せろ。老衰で死なせてやるからよ」
専属薬師になって死ぬまで働かせてやるぜ。
「死が安らぎとかごめんだわ! つーか、お前の傀儡とか悪夢でしかねーよ!」
失敬な。ちゃんとイイ夢見させてやるぜ。
「ほんと、べーって悪辣だよね。なんで勇者ちゃんに成敗されないんだろう」
ラスボスみたいなお前が言うな、だ。
「落ち着け。そんなに不安なら町に支店でも置け。シャンリアル伯爵領のお抱えにしてやるからよ」
町の商人から見放された今がチャンス。それこそイイ夢見させてやるぜ。
「もちろん、あんたたちもシャンリアル伯爵領のお抱え商人として優遇してやるから安心しな」
孫二人を見てにっこり笑う。
まずは食料捕獲のルートを一つ手に入れた。新鮮なら半日でいける周辺の村々にも魚は届けられ、村々が作る野菜も町に届けられる。食の循環が生まれるだろう。
「婦人。こう言う澄ました顔をしているときは要注意ですからね。バラバラだったパズルが合わさったときです」
クソ。長い付き合いだけに誤魔化すこともできんぜ。
「ったく。実行するのはシャンリアル伯爵で、お触れを出すのは町でだ。人がいないってんなら王都から引っ張って来い。伝はあるんだから。婦人もバリアルが大切なら知人にでも情報を流せ。よしみにしてる商会や親族なら喜ぶだろう。カイナは仕切ってる頭に金を渡して『やれ』って命令出せばイイんだよ。ときどき口の上手い部下に酒でも持たせて煽てたり、カイナーズホームを利用させてやれば進んで働くようになる」
それですべてが上手くいくとは言わねー。問題がないとも言わねー。だが、頭か動かなくちゃ下は動かねーのはどこの国、どの種族も同じだ。ましてや強い者に巻かれろな魔族なら特にだ。
「言ったようにシャンリアル領の改革は春からだ。まだ先なんだから慌てず騒がず自分らの伝をちょいと動かせばイイんだよ」
三人三様ぽっと出たわけじゃねーし、これまで伝は作ってきたはずだし、カイナは前世の知識を写せる術がある。春まで余裕のよっちゃんだろうが。
「はぁ~。べーの言葉は当たるから無視できないんだよね」
「生意気な口調なのに納得しちまうんだから質がワリーぜ」
「国に携わる者がべーを宰相に、と求めるのがわかります。的確な上に迷いがない。王でなくても頼りたくなります」
「無責任な立場だから言えんだよ。責任ある者がこんなこと言ったら反乱が起こるわ」
まず、オレが反乱を起こすわ。ふざけんじゃねーってな。
「……オレが異常なのはオレが一番知っている」
「今さらだろう」
「そう、笑って言えるあんちゃんも異常だと知れ。普通なら恐れ、排除しようと動くものだ」
苦笑した婦人もだからね。
「異常と知りながら受け入れてくれる人は貴重だよね」
それを知るカイナが穏やかに笑う。
「この異常は隠せない。なんたって地だからな」
四十半ばの男がバブバブとか言えねーよ。羞恥心で悶え死ぬわ!
「家族以外はすべて敵だ。少しでも油断したら排除される。異常を誤魔化し、逸らし、異常を異常と思わせないようにしろ。見せてイイヤツ、見てダメなヤツを選別しろ。間違えるな。失敗するな。受け入れてくれた者がいたら損してでも味方につけろ。裏切られないよう儲けさせろ。情で縛れ。知恵を絞れ。手段は選ぶな。行動しろ。オレはそうやって生きてきた。これからもそう生きていく」
そう言って三人を見る。
そして、三人は同時に笑った。不敵に、愛しく、可笑しそうに。
「知ってるよ」
「はい」
「だね」
まったく、異常なヤツらだよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます