第1078話 トリプル
「──と言っても、まだなにもしてないがな」
今は失われた行政を立て直し、文官を教育してるとこ。暗躍するのはまともに運営できるようになってからだ。
「ただまあ、クレインの町から道を造るのもイイかもな」
別に、シャンリアル側から進める決まりがあるわけではねーし、誰に見られるわけでとねー。春から始めれば秋までには馬車が通れるくらいの道ができるんじゃねーの?
「そのための人手はどうすんだよ?」
「クレインの町からなら魔族の男でも雇えばイイだろう。すべてがすべてジオフロントに関わっているわけじゃねーだろう。資金が限られてんだからよ」
まだ国として成り立ってねーから税金は取ってはいないが、ジオフロントで暮らせることを条件に魔族には労働させている。
もちろん、魔族でも食わなきゃやってられないから食料は配給と言う形で渡しているぜ。
だが、その食料は最低限。餓死はしないが腹いっぱいにはならない程度だろう。数万もの胃袋を満たすなんて今はどう足掻いても無理。どうしても差が出て来るのだ。
「ゼルフィング家やあんちゃんのところ、カイナーズと言ったところで働ける者は例外として、自力で商売しようってヤツは千人もいないだろうし、技術を売れる者も千人もいないだろう」
全体の数パーセント。微々たるものだ。
「移住して来た魔族は数万人。数は力と言うがすべてが有効に使える数は半分も満たない。女子ども老人と、戦力にならなかった者たちが生き残ってんだからな」
皮肉と言えば皮肉だが、戦争した後に残るのは弱者、ってのは世界は違えど同じ結果になるんだからやりきれなねーぜ。
「ジオフロントも開墾開拓なんてしたことねーヤツにやらせてるんだから作業効率は悪い上に不満も出てくるだろう。それを抑えるために粗野なもんは弾かれる」
違うか? と、いつの間にか現れたカイナを見た。
「礼儀礼節思いやりとは無縁の弱肉強食だしね、精々、兵士として育てるのが精一杯だよ」
「そこで思考を停止させるから先はねーんだよ。粗野なら粗野なりに活かそうと考えろ。使い道はいくらでもあるんだからよ」
お前はサバゲー脳からちょっと離れろ。兵士じゃなければ生きていけない世じゃないんだからよ。
「どんな道があるのさ?」
「オレなら土建屋かな?」
「土建? ってなにするの?」
知らんのかい! 高校生でも知って……はいても実状までは知らんか。前世のオレも携わるまでは知らんかったし。
「まあ、なんの知識もなければ開墾から。木を切り倒して道を造ったり、小屋を造ったり、だな」
それもそれで知識は必要だが、最初は体力勝負。荒ぶる肉体を自然にぶつけることだ。
「人でも魔族でも集まれば仕切ろうとするヤツが出てきて集団を作るものだ。そいつにこそっと食い物を渡し、より力をつけさせ発言力を高めさせ、手下が逆らえないようにする」
「それ、反社会的組織の作り方だよ!」
「発展の影にはそんなヤツらがいるんだよ。それに、雇い主は正社会的組織、シャンリアル伯爵領の領主。黒でも白だと言える立場だ。なんら問題はねー」
あったとしてもシャンリアル領の利益の前では些細なこと。必要なくなってから考えます、だ。
「よくよく考えたら今が好機なんじゃね? 永住権を餌にすれば百人くらいシャンリアル領に引っ張って来れそうだしな」
ヤオヨロズ国とアーベリアン王国を繋ぐ国境の街。それなら魔族がいても不思議じゃねーし、最初からいたら反発も少ねーはずだ。
「今から育てて技術を身につけさせれば国の外にも出稼ぎにいけそうだしな」
土建業は地元に根付くほうが儲けられるし、長生きできる。まあ、長くやれば癒着や談合など起こってくるが、それは行政がなんとかしろ。できなきゃ衰退するだけ。自業自得だ。
「べー。ゼルフィング商会にそんな人的余裕はありませんよ」
「別にゼルフィング商会が手を出す必要はねーよ。ただ、切り倒した木を買い取ってくれたら助かる。魔大陸に売りにいくからよ」
地竜の餌として使えるし、建築素材としても使える。無駄はねー。
「まあ、今回のことはシャンリアル伯爵として動くし、動くとしても春からだ。あんちゃんも婦人も安心しな」
人材募集は今からやるけどねっ!
「……まだなんか企んでる顔だね……」
カイナがジト目で見てくる。
「オレはアーベリアン王国の住人であり、シャンリアル伯爵領の領民であり、ボブラ村の村人でもある。自分の住むところが豊かになるよう考えたり動くのは当然だろうがよ」
ヤオヨロズ国に協力しているとは言え、オレはアーベリアン王国の者。優先させるべきは自国だわ。
「だがまあ、ヤオヨロズ国を蔑ろにする気はねーぜ。今のヤオヨロズ国は税金を取っていない状態。儲ければそのまま懐に入るからな。クク」
無税ってイイよね。なによりイイのが怪しい金でも文句は言われない。自由に金を動かせるってことだもんな。
「お前が一番反社会的存在だな……」
「悪徳領主よりたちが悪いですね……」
「悪魔の所業とはこのことだ……」
そんなトリプル突っ込みノーサンキュー!
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