第1077話 暗躍
後出しだな、とか言われそうだが、シャンリアル伯爵領の改革は暇を見てやっていた。
いくらヴィ・ベルくんがオレを真似てはいるとは言え、オレではねーのでオレの考え通りには動けない。
まあ、超万能生命体であるから充分に領主をやっているだろうが、万能故に効率的に動いてしまう。人に要求してしまうのだ。人手がないと言うのに、だ……。
「どん底まで落ちた伯爵領を改革、どころか建て直すのも不可能だと思うんだが」
「領主の妻だったわたしが言うのもなんですが、シャンリアル領がどうにかなるんですか?」
あんちゃんと婦人が懐疑的な目を見せる。
そう思うのはしかたがねーと思う。崩壊しないのが不思議なくらい落ちぶれた領だからな。
それでもやっていけてるのはここが辺境だから。村のルールのほうが強いからやっていけてるのだ。
「どん底で誰も見向きもしないからやれんだよ。好き勝手できるからな」
まさにやりたい放題無限大。領主だったら万歳三唱だろうよ。
「そりゃお前だけだわ」
「そう言えるのはベーだけです」
二人の突っ込みが冴えてます。
「ちなみに、なにをしているんだ?」
「今は開墾だな。ちょうど奴隷が手に入ったからよ」
覚えているだろうか、何十日前……だったかは忘れましたが、村に奴隷商が来たことを。使えると思ってヴィ・ベルくんに買うように勧めておいたのだ。ドレミを通じてな。
「あ、ああ。奴隷を使うのか。随分とまともなことするな」
「奴隷を使うことがまともなのですか?」
貴族だった婦人にはまともじゃなく思えるようだ。まあ、バリアルは豊かだしな。あんなバカはいてもよ。
「フィアラ様。この国では奴隷の使い方は違いますが、カムラやラーゼンと言った魔境に接した国は、開墾に奴隷を使っているんですよ」
「ちなみに、開拓は元冒険者だった者が行うな」
──書籍版の五巻を読んでね──
「初めて知りました」
「知らないのが当たり前ですよ」
それは貴婦人が、って意味で、領主なら耳にはしていることだろう。あんちゃんが言ったようにカムラやラーゼンでは当たり前のことだからな。
「ですが、奴隷が真面目に働くのですか? あまり効率がよいようには思えないのですが。それに管理するのも大変でしょう?」
「そこは、飴を与えるんですよ。何年働いたら解放するとか食事をよくするとかね。まあ、それをするのは賢い領主だけでしょうけど」
大体の領主は使い捨てにする。カムラやラーゼンは奴隷商を認め、帝国は奴隷制度を容認している。商売として成り立っているのだ。
「……そんなことをしていたのですね……」
カルチャーショック、ってほどでもないだろうが、奴隷事情に驚く婦人。やはりこの世界の住人で貴族。必要と理解できる故に不快とは思わないのだろう。
オレもこの世界で生きて来たから奴隷制度が生まれる理由も、必要なのもわかる。が、前世の記憶があるだけにイイ気分になれないのだ。
「だからこそ不自然なんだよ。日頃から仕事は効率的にとか言ってるのによ」
「それは個人でやるから。領の仕事となれば効率より感情を優先しなくちゃならん」
効率的にとか言えるのは効率的な社会になってから。今の時代の辺境な土地では感情が優先される。妬み嫉みが強い時代では、な。
「これは、婦人のほうがわかるかな?」
婦人なら経験してるはずだ。妬み嫉みで妨害される、とかな。
「そう、ですね。嫉妬する者はなにをするかわかりません、からね……」
「一人勝ちは敵を生みやすい。あんちゃんにも覚えがあるだろう」
行商人には行商人の伝があり世界がある。個人で商いをしてても仕入れは町だ。生き馬の目を抜く者なら他人の成功を見逃したりはしない。
「あ、ああ。そうだな……」
「貧乏なら誰も見向きもしねー。だが、儲けてると見ればたくさんの目が向けられる」
それも良し悪しで、状況によりけりだが、今のシャンリアルでは不利でしかねー。
「だから、奴隷を使って開墾してるって情報を流し、見せて、大衆の目を惑わせる」
「そして、その裏で暗躍する、ってことですか」
婦人、わかってるぅ~。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます