第1069話 みっちょん 

 あー食った食った。腹いっぱい。


「んじゃ、帰るか」


 よっこらしょと立ち上がったら、姉御が呆れた顔を見せた。なによ?


「ほんと、君は本筋を清々しいまでに忘れるわよね。なにかしにここに来たんじゃなかったの?」


 なにしに? あれ? なんだっけ? 誰か突っ込みカモーン!


「ほら、プリッシュ。ベーが待ってるわよ」


 桃味のフ○ーチェを食べるメルヘンさんを促す姉御。え、なにそれ?


「もー! 世話がやけるんだから! ウパ子を放ちに来たんでしょう! 忘れないでよね」


「だ、そうよ。思い出した?」


 それ以前にオレに対する姉御の対応にショックなんですけどっ!


「……はい、思い出しました……」


「じゃあ、さっさとやってきなさい」


「……はい……」


 なんか、母親から拾って来た猫をもとの場所に戻して来なさい的な感じでいっぱいだが、とりあえず素直に従うことにした。


 店を出て海へと続く階段を降りてると、プリッつあんが頭にパイル○ーオンして来た。フルー○ェはイイのか?


「なんか存在の危険を感じたから」


 はん? なに言ってんだ、このメルヘンは?


 なんやねん? と思いながら階段を降りたら、小麦色の肌を持つメルヘンがいた。


「あ、ベーだ。なにしてるの?」


「そっちこそなにしてんだ、みっちょん?」


「みっちょん? 誰よ、それ?」


 ちょっと、髪引っ張んないで。抜けるって! 後、爪先で頭突かないでください。痛いよ!


「わたしは、ミッチェルよ。ベーはみっちょんって呼んでるけどね。あなたがプリッつあん?」


「プリッシュよ」


 なにやら威嚇するプリッつあん。そして、フフンと笑うみっちょん。なにこれ?


「どう言うことよ? 誰よ、こいつ!」


 あらやだ。メルヘンがこいつ、ですってよ。野蛮ですわ~。


「黒羽妖精だよ。フュワール・レワロ、天の森で暮らしてたヤツの一人だよ」


 天の森からブルーヴィに移ったのは二十数人。と言うか、黒羽妖精がそれしかいず、すべてがここに移ったのだ。


「ってか、みっちょんがいるってことは、あいつもいるのか?」


 辺りを見回し、考えるな、感じろを発動する。が、ひっかかるものはなし。だが、ひっかからないのがあいつである。油断するな、オレ!


「アリュエならいないわよ。相変わらずアリュエが苦手なのね、ベーって」


 苦手と言うかなんと言うか、未だにどう接してイイかわかんねーんだよ。なに考えてるかわからんし。


「それはベーが考えるのを拒否してるだけでしょう。アリュエ、いい子よ」


 悪いヤツじゃないのはわかったが、アレはメルヘンより謎の生命体だわ。


「まあ、いいわ。ゆっくり仲良くなれはいいんだしね」


 フフと笑うみっちょん。こいつは苦手だ。


「ちょっとあなた、ベーに馴れ馴れしくない?」


 君が言っちゃダメなような気がしないではないが、前に出てくれたのは頼もしいです。ガンバれ、プリッつあん!


「仲がいいのね。プリッシュとベーは」


 意味ありげな笑みで挑発している。


「だったらなによ? あなたには関係ないでしょう」


「フフ。そうとも限らないわよ。もしかしたら関係ある仲になるかもしれないしね」


 そんなことならないよう願いたいです。


「まあ、今日は里帰りだし、これでさようならね」


 そう言うと、海のほうへと飛んでいき、たぶん、仲間たちと合流するのだろう。黒羽妖精は夜の空を飛ぶのが好きって種族だから。


「なんなの、あいつ?」


 どうやら気が合わないようで、プンプン怒っていた。


 みっちょん、苦手ではあるが嫌いではない。あれでいて話はわかるし、空気も読める。とても隔絶した世界にいたとは思えないくらい人間味があるのだ。


「あれは黒羽妖精の中でも特殊な存在だ、気にすんな」


 特殊だからか、あの不気味ガールとは気が合っていたっけ。


「……オレにはプリッつあんが合ってるな……」


 未だに理解できないメルヘンだが、みっちょんだったらこんなアホな関係になってなかっただろうし、気ままでもいられなかっただろうな。


 会うべくして会った仲。フッ。埒もない考えか。人生、なるようになったらこうなっただけ。もしもなんかねー。


「わたしもベーが合ってるわ」


「そりゃどうも」


 肩を竦め、結界を敷いて海へと歩き出した。

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