第1070話 珍獣島

 このフュワール・レワロ──箱庭は、他の箱庭シリーズ(?)とは違い、まさに箱庭と言ったレベルで、中は小さい創りとなっている。


 だからと言って性能は他のと変わらず、ちゃんと循環と環境が整っている。


 まあ、説明書を読んだ程度の知識しかないが、命を繋ぐようにはできているのは理解できた。


 収納鞄から小さくさせたコンテナを取り出し、元のサイズに戻した。


 中が漏れないようにしてるだけなので、コンテナは海へと沈んでいった。


「潜るぞ」


 そう断って海の中へと沈んでいく。


「魚、いたのね」


「まったくいないのもなんだからな、何種類かは放流してみた」


 バリエの系譜だろう魚やウツボっぽいもの、とりあえず見た目から食えそうなのを選んだのだ。


「そんなに放流はしてねーのに、数が増えてんな」


 魚影ができるほど、ではないが、視界に入る程度には魚が見て取れた。


 コンテナが底につき、扉を開いて島で捕まえたイワシっぽい魚を放った。


「ん? なんか少なくね?」


 結構大量に捕まえた記憶があるんだが、その半分以下に減っているような感じだ。


 なぜじゃ? とコンテナの中を覗くと、三十センチくらいのイカが数匹泳いでいた。


「クラーケンの子かな?」


 イカの区別はできんので正体はわからんが、ウパ子が好きなヤツだし構わんか。多いに増えろ、だ。


 クラーケンの子をコンテナから追い出し、コンテナを小さくして無限鞄のほうに仕舞った。


 しばらく海の中を散歩し、陸へと上がった。


「ん? 朝日か?」


 水平線の向こうが明るくなっていた。


「なにか体の感覚がおかしくなりそうね。まだお昼過ぎくらいなのに」


「だな。やっぱりボブラ時間に合わせるか」


 管理者登録はオレにしてあるので、変えるのは簡単だが、いきなりでは住んでやるヤツらが戸惑うから、皆が起きてる時間に変えるとしよう。


「ここ、浜辺はないの?」


「ないな。そう言う箱庭は捨てたからよ」


「なんで? 砂浜があったほうがいいじゃない」


「この箱庭を選んだのはオレが健やかに、そして、静かに過ごすために選んだんだよ」


 だからこの殺風景な箱庭に決めたのだ。まさか鉱山の箱庭とは知らなんだったがな。


「完全にリゾート化されてるわよ」


「……ま、まあ、少々は賑やかでないとね……」


 世捨て人じゃないんだし、活気があったほうが人は健全に生きられるってもんさ。


「珍獣島ちんじゅうとうにならなければいいわね」


 もうなってるよ! とか幻聴が聞こえたが、幻聴なのでサラリとサラサラ気にしなぁ~い、だ。


「ウパ子、出て来い」


 内ポケットをツンツンしてウパ子を呼び出す。


「なぁーに?」


「ほれ、今日からお前が住む海だ。存分に豊かにしろ」


 ウパ子を結界で持ち上げ、元のサイズ……はどのくらいだったっけ? まあ、テキトーでイイや。


 たぶん、そんな感じでデカくして海に放った。


「ぴー!」


「びー!」


 ピータとビーダも出て来て海に飛び込んだ。地竜、海に入れんのか?


「いや、無理ですから! 溺れてますから!」


 レイコさんが叫んだ。あ、やっぱりか。


 バシャバシャしてたのは泳いでるんじゃなく溺れてたのか。無茶苦茶だな、あの二匹は。


 結界で救ってやり、結界で包んで放り投げる。ウパ子と同じサイズにしてな。


「……こうやって生命は進化するんですね……」


 なにか達観したようなレイコさん。まあ、あなたもある意味進化した幽霊。さらなる進化をして素敵な存在になってください。


「んじゃ、家に帰るか」


「あのままにしていいの? 島の皆、びっくりするんじゃない?」


「刺激があってイイだろう」


「健やかで静かはどこにいったのよ?」


 生きるとは変化すること。今を受け入れ、変化を恐れず、明日に向かって歩みましょう、だ。


「帰ってコーヒーでも飲むか」


 土魔法で崖に階段を作り、上へと登った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る