第1054話 サイクル 

 纏った結界を操りながら落下し、着地直前でゾワッとして急ブレーキ。あと五センチってところで停止した。


 ……なんだ、この感覚は……?


 クルーザーの上から見たときから、なにかチリチリしたものは感じていたが、直前までオレの考えるな、感じろが発動しなかった。


 辺りに目を向けるが、これと言った危険なものは見えないし、感じない。廃墟になってうん百年と言った感じを見せている。ほんと、なんなんだよ!?


 なんて焦ってみてもわからないものはわからない。ならば、切り開くまで、だ。


 足元の大地を土魔法で揺らし、草木を浮かして地から抜いてみる。


 反応はなし。だが、首筋がチリチリする。


 敵意を向けられたときに感じるものに似てるが、悪意はまったく感じない。


 ……これは、地滑りのときに似た感じがするな……。


 以前、大雨が降ったとき、首筋がチリチリして落ち着かないときがあった。


 あのときは、昔、地滑りがあったと、隣のおじぃから聞いたから直前で防げたものだ。


 島で地滑りもないのだが、似たような感覚ならこれは自然現象の類い。下が空洞なのを考えると、崩落か?


 もう一度、辺りを見回し、下の空洞を繋ぐ穴を探す──が、草木でよくわからない。どこや?


 結界の道を創り、穴を探す。


 しばらくして四十センチくらいの穴を発見。下を覗くも暗くてわからなかった。


 まだメルヘンサイズなので、四十センチくらいの穴は余裕で潜れる。ってことで、まず結界灯を二つ創って放り込む。


 穴を覗くと、それなりの明るさで、海面と泳ぐ魚が見えた。


 穴に触れないように中へと入る。


 深さは三十センチもない。なぜこれで地盤が持ってるか謎である。


「あ、ヒビが入ってる」


 薄くではあるが、ヒビが縦横無尽に走っている。あと一押しで確実に崩壊しそうだわ。


「しっかし、よく崩壊しないできたな。ちょっと強い雨でも降れば崩壊すんだろう、これ」


 最後の一押しにならんで済んだのは幸いだが、崩壊まで秒読みなのは確かだろう。


「結界で補強するのは簡単だが、それだと問題解決になってないような気がするな~」


 人が増えれば下にある海典の樹のことはバレるだろうし、海典の樹を知る者がいないとも限らない。


「なあ、レイコさんよ。海典の樹は争いの種になるかな?」


「──なるでしょうね」


 と、天井から現れるアホ幽霊。びっくりするわ! そして、デカいわ!


「……プリッシュ様の力、わたしに効きませんし……」


 そうなの!?


 って小さくしようとしたら、まったく小さくならなかった。幽霊マジスゲー!


 いやまあ、小さい幽霊ってのもどうなんだって話だし、小さい幽霊もそれはそれで鬱陶しい。ってか、効く効かないなんてどうでもイイわ!


「まあ、幽霊のことはどうでもイイとして、海典の樹は争いの種になるのか……」


「そんなこと幽霊に言ったら呪われますからね」


 呪いは気から。心をしっかり持って呪いを跳ね返しましょう、だ。


「ベー様には珍しい樹でしょうが、不老長寿は人を殺してでも得ようとするものですからね」


 不老長寿、ね~。


 前世を含めて長生きしたいなんて思ったこともねーし、後悔をしない生き方を求めてきたせいで、不老長寿を願う感覚がわからねー。


「命は限りがあるから尊いんだがな」


「そう思えるベー様がおかしいんですからね」


 それは否定しないし、転生した身で偉そうなことは言えないか……。


「それはともかくとして、秘密にはできんよな?」


 知らせるってことではなく、秘密にしてもバレるだろうってことだ。


「しばらくは秘密は守られるでしょうが、人が増えればおのずと知られるでしょうね」


 だよな~。人の口に戸は立てられぬ、だからな。


「いずれバレるのなら、最初からバラしたほうが得かな?」


 いっそのこと、名物にして入場料を取り、欲しいヤツにぼったくり価格で売る。それで島の維持費は賄えるし、防衛費ともなる。隠すより上手く管理したほうが安上がりな気がする。


 ってことをレイコさんに話してみる。


「つまり、産業とするのですね。よいかと思います。不老長寿と言っても十数年延ばす程度ですし、一年に数個しか採れないと謳えば希少性を高めて価格を釣り上げられますからね」


 なにか悪い顔をするレイコさん。だが、オレはもっと悪い顔をしていると思う。


 命は重く尊いもの。なら、対価も同じくらいにしなくてはダメでしょう。


 これぞ命のサイクル。素敵なサイクル。もう笑いが止まりませんな。


 フッヒッヒッヒャー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る