第1041話 用心棒
「……はぁ~。わかった。やるさね……」
「それはなにより。よろしくね」
長い説明が終わり、ご隠居さんがカイナの提案を了承した。ご苦労さんです。
「わしもベーが王都に手を出さないのは不思議に思っていたが、グレンを気づかってとは。考えもしなかったさね」
やはり、わかるヤツにはわかるらしい。解せぬ。
「ご隠居さんは、船とか持ってるの?」
「一家に一隻はあるさね。稼がんと纏めることもできんからな」
「人外さんも世間の営みからは外れられないんだ」
「お前さんらから人外扱いされるのは納得できんが、食わなきゃ生きられんのだから働くしかないさね」
あの人外五人組が働いているところなんて想像できんのだが……。
「うちはすぐにでもやれるけど、ご隠居さんのところはいつできる?」
「お前さんのところと一緒にされても困るさね。人の世は兼ね合いや話し合い、用意といろいろあるさね」
「ベー。どうしよう?」
なんでこっちに振るんだよ。そっちでなんとかしろや。
「どうするさね?」
ご隠居さんまでこっちに振るなや。ったく。
「四つの組から先発隊を出させればイイだろう。儲けは早い者勝ちだ」
一つの街で四つの組織が活動できてるのなら住み分けができてるってことだろうが、ここはまだ、なにも住み分けされてないし、同じスタートラインに立って、一斉によーいドンなわけではない。
兼ね合いも話し合いも大事だろうが、先に動いたヤツがイニシアチブを握る。それがわからないのなら時代に取り残されるか、消滅するかだ。
「昔気質もイイが、時の流れは残酷ってことを知れ」
前世でそうだった。気がついたときは携帯電話すら扱えなくなっていたっけ。まあ、一例ではあるけどよ。
「……お前さんが言うと変な真実味があるさね……」
「だね。この数ヶ月で国とか創っちゃうんだから」
それは働いたヤツが偉大なだけ。口だけのヤツに手柄はねー。
「まあ、なるべく早くは動くが、それでも十日はかかると思って欲しいさね。ここまで来るのも三日はかかる」
どのくらい離れてるかは知らんが、チャンターさんの話では二十日ほどかかるらしい。その真ん中なんだから五日はかかんじゃねーの?
「うちの魔道船は他の魔道船より優秀さね」
なにやら自慢気におっしゃるご隠居さん。そんな技術があったのか、うちの国って?
「そう言えば、さ。あの国の船って、他の国の船と形がまったく違うよね? なんと言うか……」
前世の船に似ている、とカイナの目が語っていた。
それはオレも感じていた。会長さんの船とか、前世に持っていってもなんら違和感はないだろう。ってのは言い過ぎか。魔道船って言っても木造だし。
「あれはグレンが考えたものさね」
あ、ああ。だからか。なんか素人が考えたような形してるな~とも感じていたのだ。
「なるほど。だからなんだね~」
カイナもオレと似たような感じを持っていたのだろう。グレン婆と聞いてスゴく納得した顔をしていた。
「なんさね?」
どうやらグレン婆が転生者とは知らないようだ。なら、オレたちは口を結ぶだけ。グレン婆の考えを尊重するまで、だ。
「なんでもないよ」
そう、なんでもない。それ以上訊くな、だぜ、ご隠居さん。
「まあ、いいさね。十日後に来るよ」
「うん。よろしく。こっちもご隠居さんに合わせるよ」
肩を竦めて、ご隠居さんが消えた。
「いいのか?」
十日も無駄にするが。
「違う島を改造してるよ。あと、相談なんだけどさ、魔族の連中になんの仕事をさせたらいいかな?」
はあ? なんだって?
「いやさ。ご隠居さんたちは、港を仕切るプロじゃん。そうすると宿屋とかもできなそうだし、なんかないかな?」
「……つまり、なんも考えてねー、ってことか……?」
「端的に言えば、そうだね」
ドヤ顔で言うな、アホが!
「だったら用心棒でもやればイイだろう。文字通り、ここはオレらの島だってな」
仕切るには武力はいる。ご隠居さんもカイナが用心棒なら文句はあるまい。
「儲け出るの?」
「ご隠居さんからもらうなり、なんか旗でも売って、それを掲げていれば守ってやるとか、いくらでも儲けられるさ。あと、将来に備えて海運保険とか勉強させておけ。お前にはスーパーコンピューターがあんだからよ」
保険の仕組みとか知らんけど、スーパーコンピューターなら、その辺の知識はあんだろう。何年か勉強させて、身近なところから売り出せば儲けられんだろうさ。
「生き残りたければ力をつけろ。金を蓄えろ。そして、頭を使え、だ」
オレはその下で、おもしろおかしく生きさせてもらうからよ。
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