第1042話 残酷なメルヘン

「ベー!」


 と、どこかで聞いたような声で呼ばれた。


 誰や? と見れば猫耳ねーちゃん。そう言えば、いたね、君。影薄いから忘れてたわ。


 猫の獣人なだけあって、コーレンを足場にしてクルーザーまで跳ねて来た。獣人スゲー。


 迫って来る猫耳ねーちゃんの前にスライム型のいろはとドレミが現れ壁となる。


「放せ!」


「マイロードに危害を及ぼす者は近づけさせません」


 スライムなボディーで絡められてる猫耳ねーちゃん。なんかエロい。


「猫耳ねーちゃん。感情的になるなとは言わないが、ここぞと言うときに冷静なれないヤツは早死にするし、大切な者も道連れにするぞ」


 十六、七のタダの小娘にやれと言うほうが間違っているが、戦う船に自らの意志で乗ったのなら小娘とか関係ない。戦う者だ。


 感情のコントロールもできないなら、戦う船に乗る資格はねー。タケルの邪魔になるだけだ。


 ってことをカーチェから叩き込まれているだろう。感情が抜けて行った。


「……ごめんなさい……」


 謝れるならよし。理性が感情に勝った証拠だ。


「ドレミ、いろは。ありがとな。もうイイぞ」


 にゅるりと猫耳ねーちゃんから離れ、メイド型になった。


「それで、なんか用か?」


 まあ、タケルのことだろうがよ。


「……タケルが目を覚まさないの……」


「まあ、あれだけのことがあって、潜水艦がアレじゃな。それでなんともなかったら盛大に突っ込んでいるところだ」


 ギャグアニメかっ! ってな。


「……なんで、なんでそんなに余裕でいられるのよ。タケルの家族じゃない……」


 激情に走ることはないが、拳を強く握っていた。


「そうだな。じゃあ、タケルが目覚めたら地下牢にでも閉じ込めて、死ぬまで冒険には出さねーよ」


 それで猫耳ねーちゃんも安心。オレも安心。皆幸せに暮らしましたってか。ふざけんな、だ。


「違うよ! そんなこと言ってんじゃないよ!」


「あんたはそう言ってんだよ。タケルの思いも、願いも無視して自分の我が儘を押しつけてんのを理解しろ」


 女が男を想う気持ちはわかる。無茶しないでと願うのもわかる。我が儘を言いたくなる性もわかる。だが、そんな男を愛したなら受け入れろ。嫌なら離れろ。別の男を見つけて平和に暮らしやがれ。


「オレはオレの意志を曲げるヤツは許さねー。だから、他人の意志も認める。猫耳ねーちゃんがタケルを思うのも認める。力ずくで危険から遠ざけると言うなら勝手にしろ。だが、オレの意志を潰してまでやるのなら相手になるまでだ。オレはオレを貫くぞ」


 それが難しいのはよくわかっている。なかなか叶えられないものと知っている。だから、それでも貫くヤツは敵だろうと敬意を示す。譲ってはやらないけど。


「タムニャ。ベーに言うのはお門違いですよ。わたしたちが海に出たのはわたしたちの意志。誰の強制でもありません」


 いつの間にかカーチェが現れた。


 ちなみに、ご隠居さんとカイナはかなり最初のほうでドロンしやがりました。


「タケルの邪魔をするならわたしも相手になりますよ」


 厳しい顔で猫耳ねーちゃんを見るカーチェ。A級までなった男は違うね。


「…………」


 これ以上はいじめなので、ミタさんにフォローに入ってもらうように目を向ける。助けて、ミタえもん!


 オレの心の声が通じたのか、なんか目が白いです。そんな目で見ないで!


「ベー様。お体がよろしければタケル様のご様子を見てはいかがですか?」


「そうだな。そろそろイイか」


 まだ体はダルいが、ミタさんの目に堪えられません。そんな蔑んだ目はイヤン。もう心の中でもミタえもんって言わないから! 


 オレの周り、心を読めるヤツ多くね?


「ベーの場合、顔に出てるのよ」


 と、エスパーメルヘン様が猫耳ねーちゃんの頭にパ○ルダーオン。でも、なにか座り心地が悪そう。と言うか、獣人の耳は取っ手代わりにするのはいかがなものだろうか? 猫耳ねーちゃん、ちょっとうっとおしそうな顔してるよ。


「なんかいまいちね」


 なんて残酷なことを言って離脱して、オレの頭にパイル○ーオンした。


 ……世にも残酷なメルヘン物語。全米が泣くぞ。いや、猫耳ねーちゃんはもう涙目だけど……。


「ミタさん。クルーザーをつけてくれ」


 このままでは誰も幸せになれない。ぱっぱと次にいきましょう。


「畏まりました」


 それが合図なのか、クルーザーが動き出した。

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