第1040話 共同開発

 炬燵で寝てたら体が温かくなってきた。


 なんだろうと、霞む意識で考える。


 不快な感じはない。朝日を浴びるような温かさ……あ、朝日か。この温かさは……。


 瞼を開けると、眩しい光にまた瞼を閉じた。


 いつもならスッキリ起きるのに、今日は体が重い。すぐに体が動かねーや。


「ベー様。おはようごさいます」


 オレが起きたのがわかったのか、ミタさんが現れた。


「眩しいからクルーザーの位置変えて」


「はい。コーヒーをお持ちしますか?」


 よろしくと頷く。


 すぐにクルーザーが動き、太陽の光を遮ってくれた。サンキューです。


「ベー様。コーヒーです」


 瞼を閉じたまま、コーヒーに手を伸ばし、ありがたくいただいた。うん、旨い。


 座椅子に背を預け、体が目覚めるまでぼんやりする。


「ベー。おはようごさいます」


 早起きなエルフが起きて来た。


 まだ瞼を閉じたまま、コーヒーカップを掲げて答えた。


「徹夜したんですか?」


 たぶん、結界を使い過ぎた反動だろう。自由自在のクセに使い過ぎると疲労するからよ。


「カーチェ様。なにかお飲みしますか?」


 動こうとしないオレの代わりにミタさんがカーチェの相手をしてくれる。サンキューです。


「では、コーヒーを。あと、なにか食べるものを頼みます」


 食欲があるのはなにより。いっぱい食って今日を生きろ。オレは今を生きるので精一杯だからよ。


「はい。すぐに用意します」


 オレは後でイイからね、と言わなくてもミタさんならわかってくれると、そのままぼんやりする。


 カーチェの朝食が用意され、食べる気配がする。


 元冒険者なだけあって、外では食うときは早いこと。ゆっくり食べるオレにはできん商売だ。


「ベー。タケルのところへいきます」


 うんと頷く。いってらっしゃい。


 また、ぼんやりと過ごしていると、なんとか瞼が開くようになった。が、食欲は湧かん。栄養剤でも飲んでおくか。


 無限鞄から特製の栄養剤を出して一気に飲む。あー不味い。


 じんわりと体が温かくなり、だるさがなくなってきた。


 炬燵にアゴを乗せ、海を眺めていたら、突然、空気が変わった──と言うか、結界が張られた感じに似てるな。


 悪意も殺意も感じないので、そのままの姿勢でいる。


 と、横に濃い魔力が発生し、視線を向けたらご隠居さんがいた。ちわっす。


「……本当にできるとは、お前さん、死ぬのか?」


「なんでだよ!」


 どう言う理屈が働いたらオレが死ぬことになるんだよ。


「お前さんは、無駄に警戒し過ぎて近寄るのも大変なんさね! 年寄りを殺す気か!」


 なんの逆ギレだよ。つーか、ご隠居さんはそう簡単には死なないよ。死んだほうが楽な未来しか見えないけど。


「……はぁ~。本当にどうしたさね? らしくないほど存在が薄いが」


「全力を出したから消耗しただけさ。もう少ししたら動けるよ」


 もうちょっと過ぎてから栄養剤を飲めば、動けるまでには回復するさ。


「まあ、お前さんがそう簡単には死なんか」


 そう簡単には死なないようにはするけど、オレ、簡単に死んじゃう生き物だからね。


「魔神殿から話があると聞いたんだが、なんのようさね?」


「──ここを共同開発しようって話さ」


 忽然と現れるカイナ。その話はタケルが目覚めてからって言っただろうが。なに急速に話を進めんだよ?


「いや、調べたら、ここって本当に東大陸との真ん中にあるんだよね。しかも、近くの島は滑走路も造れるから早目に開発したいんだ。あの戦艦も調べたいし」


「なら、ご隠居さんと話を進めろよ。オレは別に利用できれば充分なんだからよ」


「いったいなんの話さね? わかるように言わんか!」


「ご隠居さんとこの若いのに、ここを仕切って欲しいんだ。おれんところで捕まえた海賊を使ってさ」


「いや、わかるように最初から説明するさね!」


 それをオレに向かって言われても困るがな。まだ、ご隠居さんを説得できる考えが纏まってねーんだからよ。


「カイナに任せるし、嫌なら断ってくれても構わないよ」


 元気が出て来たとは言え、説明する気力はねー。一緒にやるなら二人で話し合え。


 オレは知らんと、座椅子に背を預けた。

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