第1039話 明日

「海賊どもは、適当に島に上げておいてくれ。二日ばかりシェイプアップしてもらうからよ」


 身も心もイイ感じに細くなるだろう。


「……人権がないところって大変だよね……」


「人としての権利を主張したいのなら、まず人であることを学べ、だ」


 人を認めない者に人を語る資格はねー。そんなアホは獣以下の扱いで充分だわ。


「ベーのことだからいいように使うんだろうけど、さすがのベーでも扱い難いんじゃないの?」


「餅は餅屋に任せるさ」


「餅屋?」


 カイナにしては鈍いな。


「いるだろう。長いこと港を仕切り、荒くれどもを手なずけるヤツらがよ」


「あ、ご隠居さんとこね。確かに餅屋だわ」


 マフィアと海賊、どちらが荒くれかはわからんが、組織力と言えばマフィアが勝つ。きっと素晴らしい組織を築いてくれるだろうよ。


「ご隠居さん、話に乗るかな?」


「乗らないときは会長さんに持ちかけるさ。東大陸とを結ぶ場所に宿場町ができるようなもの。独占だ」


 自分で言うのもなんだが、そのバックにはオレがいる。それを知って断るなんてアホのすること。少なくとも会長さんは話に乗ってくるだろうよ。


「うちも話に乗っていいかな?」


 なにか、真剣な顔で言ってきた。なんでだよ?


「魔族のイメージアップのためさ」


 イメージアップ? 


「ベーのお陰で魔族に新天地を与えられたし、魔大陸も徐々に発展している。でも、どこかで他の種族とかかわらないと魔族のイメージは悪のままだ。魔族も他の種族を悪と見兼ねない」


 まあ、昔から魔族のイメージは悪いし、魔王が生まれるのは魔族が多い。しかも、中途半端なのがこちらの大陸に来て悪さするから余計にイメージはただ下がりだ。


「どこの国でもなく荒くれ者が集う場所は、たぶん、ベーが創ろうとしているこの島しかない」


 ないってこともないだろうが、上手く回っているところは皆無と言ってイイだろうな。そんなところは無法地帯。暴力で従えさせるしかないんだからよ。


「まず、ご隠居さんは絶対にベーの敵には回らない。なにより、ベーがご隠居さんを敵にしない。どうせ、マフィアたちの将来も考えての発言でしょ。おれでさえあそこが行き詰まってるのがわかるもん」


 堅気だろうがマフィアだろうが仕事がなければ衰退する。あそこは人外による統制が行き過ぎて、逆に発展を殺している。


「ご隠居さんとの仲とは言え、なぜベーはあの街を、いや、あそこに住む人たちを大事にするの?」


「……そう、見えたか……?」


 そんな感じ、出した覚えはねーんだがな。


「長い付き合いじゃないけど、近くで見てればわかるさ。大事にしてるな~ってくらいにはさ」


 まったく、無駄に生きてないヤツは厄介だぜ。隠し事もできねーよ。


「まあ、グレン婆が守ってきたところが腐っていくのは忍びねーからな」


 カイナがそう思ったように、グレン婆やご隠居さんを見てればわかる。王都を大切にしてるんだな~って。


 ……王都ってよりは、自分の居場所を守るっての感じかな……?


「あ、ああ。あのお婆さんか。最近見てないね?」


「そろそろ死ぬと言ってたから、どっかで人生を振り返ってんじゃねーの?」


 ご隠居さんも居候さんもなにも言わないところからして、まだ死んではいないはずだ。あの人外になにも言わずに死ぬとは思えんし。


「淡白だね」


「満足して死ぬんだ、悲しむ必要なんてねーだろうが」


 そんなケチをつけるなんて、イイ人生を送るオレの流儀に反するわ。


「まあ、ベーが納得してるならいいけど」


 理解はできないけど、ってな顔を見せていた。


「話に乗るなら好きにしな。いろいろあったほうが多様性が出るしよ」


 どんな多様性になるかは、ここで働く者次第だがよ。


「ご隠居さんのところはすぐに?」


「いや、タケルが目覚めてからにするよ」


 優先するべきは家族。友達は二番だ。


「タケル、本当に起きるんだよね?」


「起きるさ。なに一つ心配すんな」


 できない約束はしないが、できる約束は笑顔で約束するさ。


「とりあえず、今日は終わり。明日だ」


 さすがにオレも疲れた。明日のためにぐっすり眠ると、しよう。

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