第1034話 救出

「ベー様。一時間経ちました」


 ん? ああ、もう一時間か。早いもんだ。


 ミタさんの言葉に頷き、立ち上がる。


「フミさん。やってくれ」


 手を振り、作業開始を伝えた。


「皆、始めて」


 フミさんが短く言葉を発し、デフォルトなお姉様方らが動き出した。


「フミさん。手持ちので焼き切れないときはこれを使え。余程の金属じゃなければ切れるはずだ。ダメなら違うのを考える」


 モコモコエネルギーを利用した切断器を八つ、フミさんたちに渡し、使い方を説明する。


「ありがとうございます。ダメなときは使わせていただきます」


 あいよと答え、フミさんたちの邪魔にならないよう潜水艦から降り、クルーザーに移った。


「コーヒーお願い」


「わたしは紅茶ね」


 出しっぱなしの炬燵に入り、ミタさんにお願いする。


 頭の上のメルヘンさんも自分の炬燵へと入る。


 ……海賊スタイルのメルヘンが炬燵に入るとかシュールやわ~……。


「着替えないのか?」


 疑問に思ったので尋ねてみた。


「皆が出て来て落ち着いたら着替えるわ」


 未来的戦艦から逃げたヤツがまた来るとは思わないが、プリッつあんなりのケジメなんだろう。好きにしろ、だ。


「お待たせしました」


 三十秒も経たないでコーヒーと紅茶プリッつあんサイズねを出す万能メイドさんに感謝していただく。あーうめー!


「そう言えば、ここに来るのが遅かったが、なにしてたんだ?」


 との問いはプリッつあんにだよ。


「カイナのおじさまが戦艦が沈んだときのために潜水艦を放っておいてって頼まれたのよ」


 救助目的か。結構考えて行動してたんだな、アホ魔王は。


「そのカイナはなにしてんだ?」


 この問いはミタさんね。


「不明戦艦の調査を行ってます」


「なんかわかったのかい?」


「いえ、まだ連絡は入ってないので調査中かと」


 まあ、未来的戦艦なんだから時間はかかるか。


 あとは聞くこともなく、することもないので、静かな時間を過ごした。


「ベー様。よろしいでしょうか?」


 日が沈んできた頃、ミタさんが声をかけてきた。なんですのん?


「暗くなってきたので明かりを灯します」


 構わんけど、どうすんの? と目で問う。今、デコポンが口の中に入ってるんで。


「小型艦と崖の上から照らします。眩しい場合はクルーザーの方向を変えますのでおっしゃってください」


 デコポンを噛みながら了解と頷く。


 しばらくして崖の上から眩しいほどの光が放たれたので、方向を変えてもらった。スゲー明るさのライトがあるもんだ。


 方向がタケルの潜水艦に向いたので、眺めながらデコポンをいただく。


「始まってからどのくらい経ったの?」


 オレ的には一時間だが。


「もう少しで三時間になります」


 随分と手間取ってんだな。そんなに硬い材質なのか?


「フミの話では凄まじい圧力で骨格が歪み、隔壁を一枚一枚焼き切るしかないそうです」


 そんな手間取るものを壊すとか、未来的戦艦は凄まじいな。まあ、受けた身としては今さらながらにして股間がキュッとするぜ。


 ──ピー! 


 と、なにやら笛が鳴らされた。なによ!?


「生存者を発見したようです」


 あ、そう言えば、皆生きてることを伝えてなかったわ。


 今さらそんなことが言える空気でもないので、黙っていることにした。


「皆!」


 と、飛び立とうするプリッつあんをわしっとつかんだ。


「救助隊に任せろ。いっても邪魔になるだけだ」


「でも!」


 感情的なプリッつあん。落ち着いてるように見えたが、内心では焦ってたようだ。


「死んでなければどんな怪我でも治せる薬があるんだ、なにも心配はねーよ」


 隔壁を焼き切って進まないといけないところにいたのなら、そんな深い怪我は負ってないはずだ。


「どこに運ぶんだ?」


「先ほどベー様が作られた空洞に運びます。カイナーズの医療班が用意してますので」


 準備がよろしいようで。


「ミタレッティ様。羽妖精と子どもを救出しました。外傷はありませんが、長い間閉じ込められていたのが原因か、精神が消耗しているようです」


 まあ、なにもわからず閉じ込められたらそうなるわな。


「いく!」


 と言うのでメルヘンを解放してあげる。


「ベー様」


 と、デフォルトのお姉様が現れた。なんでしょう?


「先ほどの断切器の予備はあるでしょうか? 想像以上に硬く、残り一つとなってしまいました」


 モコモコエネルギーは結構な数があるので、四つ残してすべてを渡してやった。どうせ断切器は返ってこないだろうからな。


「ありがとうございます!」


 なんでか嬉しそうに戻っていった。


「未知の技術に触れることが嬉しい種族ですから」


 いっきに技術を押し上げないでくれよ。空を飛ぶ車……あ、うん。そんな時代がくるとイイねっ!


 口の中が酸っぱいので、口直しに豆大福を出してもらっていただいた。なんかさっきから食ってばかりだな、オレ。


 腹一杯にならないとか、やはりオレも動揺してんのかな?


 いつもなら一個で充分なのに四つも食ってしまった。あ、渋目の緑茶をくださいな。


 ズズズと緑茶を飲んでいると、また笛が鳴った。


 数秒後、先ほどのデフォルトなお姉様が現れた。


「タケル様らを救出しました!」


 緑茶を一口飲み、炬燵から出る。


「ミタさん。フミさんたちを労ってやって」


 今回、最大の功労者たるフミさんたちの面倒をお願いして、オレも空洞に向かった。

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