第1035話 お帰り
なにやら白いメイド服の方々が忙しく動いていた。え、なに!?
「ゼルフィング家の看護隊です」
は? 看護隊? なに言ってんの?
「ゼルフィング家の方々を守るために組織されました」
なんの必要が……と言いかけて止めた。こうして役に立っているのだから。
「そんな知識、よくあったな」
看護なんてそう簡単にできるもんじゃねーだろう。
「カイナーズの看護師会にお願いしました」
もうカイナが世界を統治しろよ! とか言うのも今さら。あそこは自由気ままにやってろ、だ。
「まだまだ技術は未熟ですが、十年後までには確立させて見せます」
なんか医療行為にケンカ売っているようなセリフだが、救える命があるならどんどん売ったれだ。
たぶん、コーレンを改造したストレッチャーっぽいのが辺りに浮いていた。
「コーレンはいろいろと便利だな」
「では、専門の部署を創り、生産させます」
誰がどうやるかは知らんが、ミタさんがやると言うなら任せるだけ。イイように作ってくれんだろう。つーか、もうミタさんがゼルフィング家を支配したらイイと思う。
「タケルたちは、まだ運び出されてはいないのか?」
メルヘンたちは運び出されたのか、運ばれている様子はなかった。
「開けた穴がそう大きくないので一人一人運び出しているようです」
まあ、隔壁を全部排除するとなると数日はかかりそうだもんな。
「ドレミは?」
「ここに」
と、いつの間にか幼女型メイドが背後に立っていた。
「……そうなるなにかがあったのか……?」
団単位でいたのだ、そこまで小さくなるなんて只事ではねーはずだ。
「マイロードが気にすることはありません」
自己犠牲なんて趣味じゃねーが、分離体を犠牲にしろと言った手前、叱るのはドレミのしたことを否定するのと同じこと。口が割けても言っちゃならんことだ。
「そうか。よくやってくれた。ありがとな」
最大の感謝を込めて幼女型ドレミの頭を撫でてやった。
無表情でじっとしているが、なにか嬉しそうなのはわかった。オレもスライムの気持ちがわかって……来ねーな。ただ、そう感じるだけだし。
「ベー様。タケル様が運び出されるようです」
ミタさんの言葉に潜水艦に目を向けると、ストレッチャー型コーレンにタケルが乗せられるところだった。
「エルクセプルを飲ましたんだろう?」
「はい。皆様に飲ませました」
つまり、そんな状況だったってことか。ドレミにいかせて正解だったぜ。
「ですが、タケル様だけは意識を覚ましませんでした」
まあ、潜水艦と繋がっているようなもんだしな、なんか理由があんだろう。
「カーチェは?」
「意識は取り戻しましたが、なぜか疲労していました」
エルクセプルは傷は治しても体力までは回復させてくれない。その前に魔力なり精霊力なりを消耗してたらそうなるかもな。
「エルフもよくわからん体をしてるからな、死んでなければ充分だ」
冒険者歴の長いカーチェだ、ちょっとやそっとのことでは心は折れたりしないだろう。親父殿とパーティーを組んでからも死闘は幾度も経験してるしな。
タケルを乗せたストレッチャー型コーレンがオレたちの前を通り過ぎていく。
それを見送り、潜水艦へと向かった。タケルが目を覚まさないなら空洞に行ってもしかたがないからな。
フミさんたちら中にいるのか、外には看護隊が十人ほどいて、いつでも運べるようにただのストレッチャーを構えていた。
「タムニャ様、出ます!」
と、中から声がして、体格のよい鬼のねーちゃんが猫耳ねーちゃんを担いで出て来た。
意識はあるようだが、心は重症のようで、目が虚ろだった。
オレも声をかけることはせず、ストレッチャー型コーレンで運ばれていくのを見送った。
その後、巨大化したメルヘンが続々と運ばれて来て、空洞へと連れていかれた。
メルヘンの目も虚ろなことからして、オレが想像するより過酷なことがあったんだろう。いつ死んでも満足に生きているオレですらビビッたからな、並みのヤツでは心がへし折れていることだろうよ。
「……ベー……」
との呼びかけに振り向くと、並みじゃないヤツが自分の足で出て来た。
「さすがA級冒険者だな」
笑顔で迎えると、なぜか苦笑で返された。
「S級村人には負けますよ。さすがに死を覚悟しました」
「なら、今度は生きる覚悟をしたらイイさ」
死ぬのも生きるのも同じ。どちらかできるのなら両方できるものさ。
「そう、ですね。死ぬのはいつでもできますから」
負け犬の顔はなくなり、いつものカーチェの顔に戻った。
「なにはともあれ、お帰り、だ」
「はい。ただいま帰りました」
お互い、強く握手で帰還を喜んだ。
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