第1017話 黒歴史

「それで、出発はいつよ?」


 カップをテーブルに置き、大老どのに尋ねる。


「肝心のお前がいないのに決められるか。まあ、急ぎなら今日中には出発できるが」


 さすがです。やはり、できる男は違いますな。よっ、名船長!


「まあ、サプル次第だろうな。あれは思ったら即行動だから」


 兄としてはもうちょっと落ち着いてもらいたいぜ。それに応えるのも大変なんだからよ。


「それは血なのか? 母親からか? 父親からか? お前らの血筋どうなっておるのだ?」


 いや、そんなマジな顔で問われてもわかんねーよ。オレの場合は前世からの引き継ぎだからな。


「村人に血なんて関係ねーよ。それぞれの性格だ」


 血で言ったらサプルは、オカンにもオトンにも似てない。あれは魂の根源から来るものだ。いや、テキトーですけど。ちなみにトータの性格も姿もオカン似だな。その能力は知らん。突然変異だ。


「ミタさん、サプルたちは?」


 この万能メイドに知らぬことなし! とばかりに尋ねた。


「今、館でお食事をなさっています。昼前にはこちらに来るかと思います」


 腕時計を見れば十時前。お寝坊なお嬢さん方だ。


「なら、夜に出発でイイだろう。万が一に備えて何隻か先に飛ばせ。帝国にはヴィアンサプレシア号と護衛のための飛空船が二隻。小人族にも声をかけて飛竜艦を出してもらえ。報酬に食料を出すからよ」


 オレは妹のためなら悪魔にも魂を売っちゃいます。


「……はぁ~。わかった。手配する」


 できる大老どの、カッケェェェッ! っことでよろしこ。


「そんで、受け入れはどうなってんだい?」


 と、長官を見る。


「受け入れはお任せください。バイブラストが万全を整えます」


「帝国に恨まれたりしねーかい?」


 それ、帝国よりオレを取る……って言ってたっけ、公爵どのが……。


「そこは上手く立ち回りますので、そこもお任せください」


 さすがバイブラストの長官──いや、どんな役職かも知らんけど、できる男なのは顔を見ればわかる。公爵どのの懐刀的な存在なんだろう。


「なら、任せる。サプルを頼むよ」


「はい。全力を持って」


 椅子から立ち上がり、優雅に一礼した。


 ……ほんと、バイブラストはスゲーのが揃ってやがるぜ……。


「お前は、帝都にいかんのか?」


「余裕があったらいくよ。まだバイブラストでやらなくちゃならんことがいっぱいあるんでな」


 ってか、なに一つ進んでねーな。人魚やらネズミやら骸骨やらと、回り道も極まれり、って感じだったものな。お陰でバイブラストになにしに行ったか忘れたよ。


 つーか、なんかもうどうでもよくなって来たわ。婦人に会って、任せるところは任しちゃおうっと。


「長官は公爵どのと連絡は取れんのかい?」


「はい。シュンパネがありますので」


 ああ、シュンパネね。あれ? 公爵どの、転移ダメとかなんとかって言ってなかったっけ? 聞き間違いか?


「シュンパネは間に合ってんのかい?」


 確か金貨三枚……いや、五枚だっけか? 予算とか大丈夫なのか?


「はい。ベー様に関わる予算は上限を廃止しておりますから潤沢に揃えております」


 いや、上限を廃止したって、使い放題じゃねーか。バイブラスト、大丈夫なのか?


「アハハ! さすがカイルド殿。ベーとの付き合いをわかっている」


 今のセリフのどこに笑う要素があったよ? 意味わからんわ。 


「とにかく、細かいことは大老どのと長官で決めてくれ。どうしようもなくなったらオレが出るからよ」


「まず、そのときが来ないことを願うよ。お前が怒ると厄災より酷い被害を生むからな」


 失敬な! とは怒れない。そして、なにをしたかは言えません。あれはオレの黒歴史。闇から闇へと葬ってくださいませ。


「オホン。さあ、バイブラストにいく用意をしないとな。あ、飛空船、何隻かもらって行くな」


 と、応接室的なところからさようなら。プリッつあ~ん。そっちはどうですかぁ~?

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