第1015話 化け物と呼ばれた村人

「しっかし、この短期間に発展し過ぎだろう。どうなってんだよ?」


 改めて見るまでもなく造船所の設備がハンパない。ファンタジー色は強いが、前世に持ってっても十二分に色褪せてねーぞ。いや、二十二世紀に持ってっても通用しそうだな。


「見たことのないコーレンが飛んでんな」


 忘れた皆に教えてやろう。小人族が使っていた曳船だよ。意味はニワトリとかなんとか言ってたな? ワリー。そこは忘れました。


「小人族から技術を提供してもらい、クレイン造船所で製造しました」


 と言ったのはデフォルトなお姉さま。誰?


「整備部第六班を預かるサミと申します。ベー様を案内させていただきます!」


 なんかレンチを握り締めて胸の前で掲げた。え、なに?


「クルフ族の挨拶です」


 こそっとミタさんが教えてくれた。そんなのありましたっけ?


「あ、うん。よろしく」


 とりあえず挨拶を返しておく。


「こちらです」


 なんかようわからんがサミさんとやらの後に続いた。どこに連れてかれるんですか?


 で、連れて来られたのは事務所っぽい建物だった。


「お、来たな」


 事務所っぽい建物の一階にある応接室っぽいところに通されたら大老どのがいた。


「よっ、久しぶり。元気してた?」


 なんてフレンドリーに挨拶したらコーヒーカップが飛んで来た。なんで!?


「久しぶりではない! もっと頻繁に来んか!」


「別にオレが来なくても上手く回ってんだからイイじゃん」


 オレが来たほうが上手く回らんでしょう。なにもできないんだからよ。


「できるヤツに任せる。それが成功の手順さ」


 これで間違ったことは一度もねー。それが丸投げ道を極めると言うことよ!


「まったくその通りで始末に負えんから参る。なぜこれだけの種族がいて纏まるのか不思議でならんわ」


 頭を抱える大老どの。ガンバ!


「で、なんでオレはここに案内されたんだ? 用があんのはフミさんなんだが」


 まあ、せっかく来たんだし、近況報告でも頼むわ。


「お前の中では帝国は近所より近いかもしれんが、一般人には世界の果てにいくくらいの出来事なんだからな」


「大老どのだって帝国に何回かいってるじゃん」


 若い頃何度かいったとか言ってたじゃん。近所じゃなくても隣町くらいにはなってんだろう。


「いや、そうなんだが、帝国はお前が考えるほど甘くはないんだぞ」


「甘くないのなら砂糖でもぶち込んで、オークのようにぶくぶく太らせてやればイイじゃん」


 別に帝国を甘くなんて見てはいねー。そんな甘いのならあそこまで勢力を拡大できなかっただろうし、バイブラスト一つ見たってわかること。生半可な気持ちで相手にしてイイ国ではねーよ。


「大老どのは、皇帝の弟には会ったことはあるかい?」


「二度、あるな。あれは、化け物だ」


 大老どのに化け物と言わせるかい。まあ、オレの見立ても似たようなもんだから驚きはねーがよ。


「……いや、帝国相手に不敵に笑えるお前が一番の化け物か。帝国で最大の実力者を味方につけているんだからな。しかも、帝国など一晩で灰にできる軍隊まで控えておるのだから。わしなら絶対に敵にせんな」


 人を化け物にしないでください。オレは平和を愛する村人なんだからよ。


「まあ、そう力むこともねーさ。公爵どのが根回ししてくれてるみたいだしよ」


 なにを考えているかわからんが、帝国で公爵を名乗っている男。化け物相手だろうが負けはせんだろうさ。


「あ、資金がどうこう言ってたが、不足してんのか?」


 ってか、どっから出てんの? 渡した覚えないんだけど。


「材料はカイナーズホームにツケにしてもらって、働く者の賃金はサプルからもらっている」


 サプルから? あ、まあ、サプルにも金塊や宝石は持たせてある。タンス貯金ってな感じで。必要なら使えとも言ってます。


「カイナーズホームに金が集中しそうだな」


 経済、大丈夫か?


「カイナーズホームもその金で食料や道具を買っておる。ゼルフィング商会やアバール商会が集めて来る食料をな」


 そうですか。ガンバってる商会の皆さま方、ご苦労さまです。


「食料は足りてんのかい?」


「ギリギリらしいな。ここは、ゼルフィング家から流れて来るから満足以上に食えてるが」


「不満は出てねーかい?」


「今は暖かい家で寝られて、腹一杯とはいかずとも飢えることはない。死ぬ心配もない。働けぬ弱者にも施しが出る。これで不満を言うのならば出ていけ、だ」


 つまり、平和が一番ってことか。なによりだ。


「わかった。資金は近いうちに入れるよ。食料もな」


 バイブラスでは大した量は仕入れられんかったが、帝都にいけばなんとかなんだろう。備蓄したものが廃棄されるルートは昔に調べてある。


「……本当に怖い村人だよ……」


「蛇の道は蛇。闇に蠢く者の考えることはお見通しよ」


 クケケ。闇こそ我が聖域。我の独壇場よ。


「ベーの対になる人は太陽のような人じゃないと闇落ちしそうね」


「プリッシュ、頼むぞ」


「大丈夫よ。お節介さんたちが暗躍してるから」


 え、なに? なんの話? わかるようにプリーズです。

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