第1014話 自爆は男のロマン

 なんかもう心が痛くなったので、そそくさと逃げ出した。もーイヤッ!


 ベー様ベー様と鬱陶しいわ! オレは日の光りの下じゃ力が半減すんだよ! 闇の中こそ我が聖地。光りの下に引きずり出すんじゃねーやい!


 なんか門番が立つ造船所へと逃げ込んだ。


「ベーは人前に出したほうが世のためかもしれないわね」


「それだとベー様の力が発揮されません」


 なにやら意味不明な会話をするメルヘンと万能メイド。のんきに話してないでオレの盾になりなさいよ! こんなときのイージスでしょうが!


 ってか、なんか武装したの多くね? どこの軍事基地だよ。


「最先端の技術が集結したところだからね。これでもまだ不安なくらいさ」


 と、カブキねーちゃんが現れた。なにしてんの?


「陽当たり山からこっちに移ったんだよ。さすがに手狭になったんでね」


 まあ、研究するにはイイが、建造となると狭いか。


「そうかい。好きなようにやってくれ」


 場所はあるし、そこで働く者が町で金を落としてくれんならさらに発展するしな。湖を汚さないようにガンバってくれや。


「相変わらず適当だね。ここ、あんたの所有地だろうが」


「え、そうなの!?」


 マジびっくりなんですけど。


「なんで驚くんだよ! あんたが始めて、あんたが金出してんだろうが!」


 あ、言われてみれば確かに。軽く放置してたから忘れったわ。


「つーか、今までよく続けてこられたな」


「そこはフィアラ様のご尽力です」


 ゼルフィング商会、もう婦人に渡したほうがイイんじゃね? ってか、オレいらなくね?


「そのフィアラから伝言だよ。運営はこちらでやりますから造ったものを売ってください! あと、資金を渡しておいてください、だとよ」


 婦人、どこにいるかわからんけど、承知しましたと強く念を送っておきます。


「……これで上手く回ってるんだから謎だよ……」


 まったくだ。で、ここの責任者……ではなく、上手く回しているのは誰よ? お礼の言葉を述べさせてくださいませ。


「ちなみにここは、クレイン造船所って名にした」


 単純な、とは申しません。覚えやすくてイイと思います。ぜひ、これからもその名でお願いしやす。


「頭はアルムのじいさんで、造船部を仕切るのはフミ。あたいは研究開発部を任された。管理部はシフォムが仕切ってるよ」


 アルムってのは大老どのでフミさんもあのフミさんでイイだろう。深くは言わないが。研究開発ってからには博士ドクターとカブキねーちゃんはわかる。


「誰よ、シフォムって?」


 初耳……だよね? まったく記憶にねーんだが。おっと、いつものことだろうって突っ込みは遠慮してくださいな。


「元ゼルフィング家のメイド長ですよ」


 あ、ああ、あのメイド長さんか。初めて知った……よね? 以前聞いてたらすんませんです。


「確か、結婚したとか言ってなかったか?」


 それはなんとなく覚えてる。誰とかは記憶にありませんが。


「はい。同族の者としました」


「同族? ダークエルフの男いたんだ」


 未だにダークエルフの男見たことねーわ。本当にいるのか? 


「はい。相手の方はかなり年上で、再婚だと聞いております」


 ここで、元メイド長って何歳なの? って訊いたら殺される? それとなく空気に出してもらえるとメチャ助かります。


「どんな旦那なんだ?」


 気にはなるが、命が大事。好奇心はグッと押さえます。


「ガーグルと言う魔王の元で第ニ軍を任されていたとかで、武人タイプの方のようです」


 移住して来た中にそんなヤツがいたんかい。なんか他にも魔王軍にいた者がいそうだな。


「夫婦揃ってクレイン造船所で働いてますから、会ったときにご紹介致しますね」


 どんな旦那か超気になるが、目的を果たしてからにしよう。頭の上のメルヘンさんが足先で催促してますんで。痛いから止めてください。


「そんで、フミさんはどこよ?」


「フミならヴィアンサプレシア号にいるよ。昨日の夜遅くに帰って来て、ずっと点検してるよ」


「どうやら無茶言ったようだな」


 うちの妹が無茶言ってすんません。


「どっかいくのかい?」


「昨日、サプルが帝国にいきたいって言い出してな、その準備をお願いしたんだよ」


「帝国? 大丈夫なのかい? 奪われたりしないだろうね? 魔力炉は機密中の機密なんだよ」


「そのときは自爆させるさ。仕込んでんだろう?」


 あの博士ドクターなら仕込んでいるはず。あれはそう言うタイプだ。


「まったく、男はいくつになってもバカなんだから」


 なんて呆れ果てて立ち去るカブキねーちゃん。


 フッ。女にはわからない男のロマンさ。

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