第1000話 示せんでした

 奴隷商の件は!?


 とかおっしゃる方々もいるでしょうが、これと言った接触もなく、問題も起こさないのだから繋がりなんて持ちようがない。つーか、オレはトラブルを引き寄せる体質ではありません。トラブルは回避する性格です。


 うん。まったく持って説得力ねーな。


 って突っ込みは止めてください。人はそう思わなくちゃやっていけないんです。人として察しなさい……。


「姉御、このままいくか? 一旦うちに帰るか?」


 食料品を抱えているので、一応尋ねてみた。


「そうね。荷物も纏めたいし、うちに寄ってくれるかしら」


 あいよと答えて姉御のうちへと向かった──って言っても姉御のうちはすぐそこ。宿屋の一室を借りて暮らしているのだ。


 田舎の宿屋なんて六畳もなく、ベッドが置いてあるだけの質素──いや、貧相なもの。とても住む場所ではない。そこに何十年と暮らしてんだからスゲー精神だと思うぜ。


「相変わらずボロいな」


 小さい頃から何十回と見てはいるが、よく建物として保っていられるよな。なんか魔法でもかかってんのかな?


「急いで纏めてくるわ」


「なんなら解約してきなよ。今日中には住むところ用意できるし、冒険者ギルドに行くなら馬を出すからさ」


 姉御は馬にも乗れるので、山から冒険者ギルド(支部)に通うのも苦ではねーだろうよ。


「そうね。そうするわ」


 宿屋へと入って行くのを見届け、ドレミに馬車を用意(?)してもらう。


「そうだ、ミタさん。カイナーズホームと連絡取れるか?」


 先ほどから気配どころか存在まで消してんじゃね? って感じのミタさんへと振り向いたら、なんか表情を険しくさせ、宿屋へと目を向けていた。どったのよ?


「ミタさん?」


「──あ、すみません。考え事をしてました。なんでしょうか?」


 どうしたんだ、いったい? とか思ったが、まあ、気にすることもなかろうと、もう一度カイナーズホームと連絡が取れるかを尋ねた。


「はい。可能です」


「女一人で経営できそうな喫茶店をいくつか用意しておいてくれるように伝えてくれ。あと、食器や生活必需品なんかも頼むわ」


「はい。それと、ブルーヴィに水道や処理施設を設置してもよろしいですか? 住む者から要望が上がってるので。もちろん、ベー様の家は触りまりませんので」


 まあ、環境循環はできても人が暮らせる環境ではねーしな。


「カイナーズホームでやんのか?」


「はい。環境施設部が行います」


「好きにしな。予算が足りなきゃ後で渡すからよ」


 小さな箱庭とは言え、ライフラインを設置しようとしたら億単位。渡してる金で足りんだろうよ。


「はい。ありがとうございます」


 御者台に上がり、ぼんやり姉御を待つ。


 雨は止んだが、空は曇り空。この感じではまた降りそうだな。


「マスター。夜叉丸より連絡で、リオカッティー様の食料をお願いしたいとのことです」


 夜叉丸? なんだっけ? と一瞬考えたが、リオカッティーで思い出した。ってか、すっかり忘れてた。戦略ニートのこと。


「緊急か?」


「いえ、緊急ではありませんが、食べるときは際限なく食べる方のようで、余裕があるうちに備蓄したいそうです」


 まあ、あのサイズだし、人の形はしているとは言え竜は竜。一回の食事量はハンパないのだ。


「明日の……は無理か。明後日にいくから、万が一足りなくなれば公爵どのに頼め。備蓄があんだろう。損失した分は高く買うからと言っておいてくれ」


 冬が長い土地なだけあって備蓄は万全にしてあると聞いた記憶がある。まあ、公用で買ったものは出せないだろうが、隠し備蓄があるはず。そのくらいはやる男だとは信じているぜ。


「畏まりました。万が一のときは公爵様にお願いしますとのことです」


 まあ、そうなる前に急いでいかなくちゃな。


「お待たせ」


 待つほどでもないうちに姉御が戻って来た。


 秘密が多い姉御は、無限鞄以下収納鞄以上の大量に物を詰めるなにかを持っている。


 まあ、オレのテキトーな推測で、別に知りたいってほどじゃないから知らない振りをしているよ。


「馬車変えたの?」


 たぶん、偽装用の鞄と木箱を荷車に置きながら尋ねて来た。


「いや、スライムが変化したものだよ」


「ベーだしね」


 マジな顔で納得された! ってか、オレが原因になってね! スライムが馬車に変化したことに一ミリグラムもオレは関与してないんですけど!


「……ま、まあ、出発するな……」


 反論したところで軽く流さられるだけ。ならこちらも軽く流せ、である。クスン。


 姉御を荷車に乗せ、我が家へと帰宅。しばらく進んで重要なことを思い出した。


 あ、ボブラ村にオレありを示せなかった!

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