第992話 ファミリーセブン2

 ファミリーセブン。


 基本的な造りはコンビニのそれだが、カイナの趣味嗜好が出ているようで、銃器用の棚までありやがった。


「……銃、置くのか……」


「はい。ゼルフィング家のメイドなら銃は必須ですから」


 誰だよ、必須にしたアホは?


「魔族に銃なんていらねーだろう」


 魔力が多かったり強かったりするから魔族なんだからよ。つーか、銃で倒せるものなんていんのか?


「いえ、魔族だからこそです。弾丸を強化したり魔術付与したり、なかなか凶悪な仕様となるんですよ」


 ミタさんがそう言うならさぞかし凶悪なんだろう。お願いだからそれをオレに撃たないでね。


「では、商品を入れさせていただきます」


 カイナーズホームのヤツが台車を押してファミリーセブンへと入って来た。


 台車に載った段ボールを床に並べ、メイドさんが開けて商品を棚に並べていく。


「日用品も置くんだ」


 男物のパンツや洗剤なんて売れんのか?


「寮暮らしの者や家族に頼まれたりしますから」


 なるほど。需要はあるんだ。


 予行演習でもしたのか、棚に並べるの手際がイイな。どっかに出してんのか?


 日用品が並び終わり、次にお菓子が並べられる。


「駄菓子じゃねーんだ」


「はい。駄菓子は別のコーナーに置いてもらいます。ココノ屋の駄菓子は別格ですから」


 旨いのは旨いと思うが、そんな別格にするほど旨かったか? 今並べてる菓子も負けてねーんじゃねーの?


「菓子は高めの設定なんだな」


 チップス系は十円と安いが、チョコレート類は百円近い。どんな価格設定なのよ?


「食べ過ぎる子が多いので高めの設定にしました。肥満はメイドの天敵です!」


 その天敵に負けたあなたが言っちゃダメだよね。まあ、すぐ痩せちゃうけどさ~。


「しかし、魔族も太るんだな」


 当たり前と言えば当たり前なんだろうが、イメージ的に太らない体質(?)かと思い込んでいたよ。


「特に鬼族は太りやすいですね。三人ほどカイナーズの訓練キャンプに送りました」


 どんなキャンプだよ! とか突っ込みたかったが、なんかアウトな答えが返って来そうだったから無理矢理飲み込んだ。


 菓子が終わると、なぜか缶詰めを並べ始めた。


 まあ、缶詰めもコンビニにはあるだろうが、棚半分も使うなんてどう言うことよ? しかも、ツナが多いと来てる。魔族の口に合うのか?


「ツナ缶は人気で、お土産に喜ばれるんです」


 なにが喜ばれるかわからんもんだ。


「一缶五十円か。なんか微妙だな」


 売れるんなら二十円くらいにして大量に売ればイイんじゃねーの?


「ゼルフィングスーパーでも売ってるので、ちょっと高めにしました」


 カイナーズホームは、あっちにも卸してんのか。もう卸業に転向したほうが儲けれんじゃねーのか?


「カップラーメンとかは置かねーのか?」


 なぜかインスタント系がない。寮暮らしならカップラーメンとか喜ばれんじゃねーの。オレは喜んで買っちゃうよ。


 ……夜中に食うカップラーメン。なぜか旨いんだよな……。


「サプル様が反対されましたので取り止めました」


「サプルが? なんで?」


「それがよくわからないのです。商品のサンプルを見てもらったとき、カップラーメンは排除されたのです。食事は食堂で食べるようにとおっしゃって」


 よくわからんが、まあ、サプルがダメと言うなら反論も異論もない。了解ですと受け入れるまでだ。


「なので、惣菜や冷凍食品も排除されました」


 代わりにお茶や酒、ジュースなどが大量に置かれるようです。


「……安いんだな……」


 紅茶やコーヒーは高くても十円。酒も高くて五十円。ジュースなんてどれでも三円とか、ここに持って来るだけで赤字だろうが。


「本当に利益が出るのか?」


 どんな計算をしたら利益が出るのか想像もつかんわ。


「大儲けはできませんが、維持できるくらいには利益が出ますので安心してください」


「別に損しても構わんが、まあ、ほどほどにやってくれ」


 福利厚生だと思えば安いもの。そちらの心情が揺れない程度にがんばってちょうだいな。


 レジ回りには雑貨や化粧品が置かれ、タバコがあるだろう場所にはなぜかマグカップが並べられた。


 あらかた商品が並べられ、コンビニの体はできた。


 ……なんか、田舎の寂れたコンビニみてーだな……。


「そんで、駄菓子はどこに置くんだ?」


 ほとんど埋まってんじゃん。雑誌がある窓際は、アイスケースが四つも並んでるし。


「こちらです」


 と、バックルームらしき部屋へと入っていくミタさん。そっちだと食堂になるんじゃねーの?


 どう言うことや? と首を傾げながらバックルームらしきところへ入ってみる。


「喫茶店?」


 なにかそんな造りのところだった。


「談話室を改造して駄菓子売り場を設けました」


 まず、うちに談話室があったことに驚いた。初めて知ったよ! いつからあったんだよ!?


「え? 最初からありましたよ」


 マジで!? 全然気がつかなかったわ!


 えーおっかしーなー。ちゃんと見たつもりなんだけどな~? なんで見落としたんだ、オレよ。


「そんなことより駄菓子をお願いします」


 ささっと背中を押され、しょうがなく駄菓子を出していく。並べるのはミタさんね。


「……安くて百円とか、暴利じゃね……?」


 それ、メダル二枚のやつだったと記憶してるんだが……。


「なに言ってるんですか! ココノ屋のものならこれが適正です。欲しくても買えないんですから!」


 ま、まあ、ミタさんがそうおっしゃるならオレに否はなし。勝手にしておくんなまし。


「んじゃ、後は勝手にやってくれ」


 オレが利用することはないだろうし、下手に口出すのも混乱の元。そっちでやっちゃってくださいませ。


 任せ、ファミリーセブンを出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る