第993話 ボブラ村にオレありを示せ
外に出ると、霧雨が降っていた。
「……そう言や、寒くなって来たな……」
田舎に産まれ、大自然に揉まれて来たから、このくらい寒いとは思わないが、季節を感じる感覚は死んではいない。
「麦の刈り入れはもう終わったかな?」
ここからでは村の一部しか見えず、刈り入りした様子は見て取れるが、村全体が終わったかはわからない。
山の者は、冬越しの薪集めや獣の解体、塩漬けとやることいっぱいで刈り入れには参加しないのだ。
「ちょっと下りてみるか」
よく考えるまでもなく、長いこと集落に行ってない。親父殿に家長としての座を譲ったから村のことは親父殿任せ。なにかあったら聞……けるほど家にいませんね。失礼しやした。
「うむ。ここは、ボブラ村にオレありを示しておかんとな」
なんかオレが村から出て行ったような感じになっているようだし、存在を見せつけておこう。うん。
馬車でいくかと庭を見回すが、うちの愛馬たるリファエルはいず、荷車もなかった。
ってか、リファエルとか荷車はどうなってんだ? 親父殿が使ってんのか?
家畜小屋もいつの間にかなくなってるし、オレ、完全に時代に取り残されてます。まあ、完全無敵に自業自得なんですけどねっ!
「馬で……あれ? 馬どころかおじぃんちがないんですけど!」
転移結界扉を設置したときはあったよね? うん、確実にあったよ! ちゃんと記憶にあるよ! なにがどうなってんのよ?!
「お隣さんなら引っ越しましたよ」
と、事情通のミタさんがおっしゃいました。ってかいたのね。てっきりファミリーセブンで駄菓子を漁ってるかと思ったよ。
「駄菓子、ブルーヴィにも置くんですよね?」
「え、あ、まーな。オレが食いたいから買ったんだし、家には置くさ」
元の家はオレ専用になったからな、オレ色に染めるのは当然。マイ駄菓子置き場は前世からの夢だしな。
「では、問題ありません」
ミタさんがそう言うなら構わんけどよ。部屋の掃除とか食材調達、駄菓子の管理を任せるんだからな。
「で、おじぃたち、なんで引っ越ししたんだ?」
あの歳で引っ越しは無茶だろうし、新しく生活を築く前に死ぬぞ、絶対!
「カールケン牧場に引っ越しました。以前、ベー様が秘密牧場と呼んでいた場所です。今は数軒家が建ち、村として機能してます」
「マジで!?」
村ってそんなに簡単にできんでしょう!
「はい。ここの領地はベー様のものと言っても過言ではありませんし、領主はベー様の思考を真似て動いてますから要請を出せば速やかに実行されます」
あ、うん、そう言えば、領主、押さえてましたね。マジ忘れてました。
「要請したの親父殿か?」
「はい。カールケン牧場が大きくなり過ぎて必要に迫られましたから」
そ、そうか。そんなことになってたんだ~。時の流れは早いもんだ。いや、親父殿に継いでそれほど経ってないけどさ。
「ま、まあ、親父殿がそう判断したらオレは支持するが、なんでおじぃたちの引っ越しに繋がるんだ?」
「毛長種の生き物に詳しいですし、毛刈りも得意ですからアドバイザーとしてお館様がお願いしたのです」
ま、まあ、オレも毛刈りはおじぃから習ったし、教えるのも上手い。先生としては望ましいが、よく承諾したな。抵抗はなかったんだろうか?
住み慣れた場所を離れるなんてオレにはできねーぞ。
「お二方も歳ですし、面倒を見てくれる者がいるならと、喜んで引っ越ししてくれました。カールケン牧場には若い人や獣人の夫婦もいますので老後は安泰でしょう」
うんまあ、唯一の肉親は冒険に出ちゃってるし、段々と動けなくなっていく。将来を考えたら最良の選択か。
「おじぃとおばぁに会いにいかんとな」
環境はしっかりと整えてられているだろうが、おじぃもおばぁもオレの家族。ちゃんと自分の目で確かめておかんと不義理ってもんだ。
「会いにいくのはいずれとして、足がねーのは困ったな」
別に歩いて行っても構わんのだが、時差ボケでいまいち乗り気がせん。途中で引き返しそうだ。
ゼロワン改じゃ目立つし、オレの存在を示すのだから小さくして行くのも違う。こんなことなら馬車を何台か用意しておくんだったぜ。
「マスター。馬車が必要ならわたしたちが変化へんげします」
あん?
首を傾げていたらドレミ団がどこからともなく出現。緑髪隊が馬へ。ツインテール隊が荷車へと変化した。
「いかがでしょうか?」
あ、うん、イイんじゃね。
ドレミがやることにいちいち驚いてらんねーよ。
「ああ。ありがとな」
素直に受け入れ、御者台へと上がり、集落へと出発した。
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