第991話 ファミリーセブン

「セーフです!」


 とのミタさんの強い言葉に、とりあえずセーフな話で進めることにした。ダメならダメなときに考えよう。


 コーヒーのお代わりをもらい一口飲んだ。


「そんで、ファミリーセブンがなんだって?」


「売店の名前です!」


「……売店に名前なんて必要なのか? 売店で通じるだろうがよ……」


 別につけるなとは言わないが、必要性がまったく想像できんわ。


「いえ、ゼルフィング家出資のカイナーズホーム協力で成り立ちますので、新たな名前が必要なんです」


 うち出資のカイナーズホーム協力? 合弁会社的なものか?


「それが、ファミリーセブンか。名前からしてカイナから出た発想だとは思うが、なんでファミリーセブンなのよ?」


 このアウトだかセーフだかやからん微妙な名前はカイナしかいない。ったく、もっと安全な名前をつけやがれ。


「なんとなくだそうです」


 あ、そう。聞いたオレがバカでした。


「まあ、名前がなんであろうとオレは構わんが、うちとカイナーズホームが組むのはなんでよ? 儲けなんて出ないだろうが」


 いくらうちがメイドが多いからって商売になるほどの数はいないだろうし、毎回買うとも限らんだろう。一日一万円稼げたら御の字じゃねーの?


「いえ、利益は出ます」


 と、カイナーズホームのエプロンをした髪から肌まで真っ白のあんちゃんが口を挟んで来た。


「カイナーズホーム営業三課のハノさんでファミリーセブンに商品を卸してくれる部署の課長さんです」


「ハノです。よろしくお願い致します」


 名刺を差し出すハノさん。カイナーズホームの方針がよくわからん。渡す機会なんてどれだけあんだよ。


 もらってもしょうがねーが、返すのも失礼なので、無限鞄に仕舞った。顔は覚えた。名前はミタさんにお任せです。


「カイナーズホーム的に利益が出ると言うなら構わんが、なんでまた加わろうとしたのよ?」


 客を分散させるほどカイナーズホームに客なんて来てねーだろうが。


「お客様を得るためです」


 ん? どう言うこったい?


「ご存知の通り、カイナーズホームに訪れてくださるお客様は少ないです」


 まあ、誰相手にしてるかわからん店だからな。


「魔族のヤツらに開放したらイイじゃん。少なくとも二万はこっちに来たんだからよ」


 ゼルフィングスーパーマーケットに来てんだから購買意欲はあるんじゃねーの?


「ベー様は、魔族の稼ぎをご存知ですか?」


 魔族の? ってか、なにをしてるかも知らんです。


「そもそも働く場所なんてあんのか?」


 受け入れたオレのセリフじゃないが、そこまで面倒は見れない。メイドや農作業員として受け入れるのが精一杯だ。


「ジオフロント開発で大多数の魔族は働けています」


 まあ、働かそうと思えば働かせられる場所だわな。


「つまり、賃金が安いってことか」


「はい。ジオフロントで働いている者は、一日働いて二千円にもなりません」


 前世の感覚なら安いと感じるが、今生の感覚で言うなら結構もらってんだな、だった。


 田舎じゃ銅貨一枚も稼げねーし、街でも大銅貨一枚稼げたら中流だ。カイナの野郎、どっから資金を集めてんだ?


「ベー様のお陰です。カイナーズホーム社員、ジオフロントの作業員の給金はベー様から出ていると言っても過言ではありませんから」


 そりゃ結構な給金になるわな。カイナーズホームに国家予算くらい注ぎ込んでんだからよ。


 ……それで潰れないオレがどうかしてるんだがな……。


「それに、ゼルフィング家で働いている方々の給金は知っていますか?」


「知らん。いくら出してんだ?」


 とミタさんを見る。ってか、誰が決めてんの?


「初期組は銀貨八枚で二陣三陣と安くなって、今は銀貨三枚です。昇進すれば給金も上がります」


 細かいことはともかくとして、作業員よりは遥かにもらっているってことか。まあ、うちはオレとサプルの財布から出ているから、それだけ出してもビクともせんがな。


「ゼルフィング家で働くことは名誉であり、一番人気の職場でもあります」


「はい。なので競争率は高く、優秀な者が集まります」


 うん、まあ、そうなるわな。ミタさんしか知らんからなんとも言えんけどよ。


「ゼルフィング家で働いている方々は、一家の大黒柱で、ほぼ、ゼルフィング家の給金で一家を、いえ、一族を支えていると言っても過言ではありません」


 下手な貴族よりは稼げているだろう。一家十人くらいは養えんじゃねーかな?


「ですが、そうカイナーズホームにはいけません」


 なんでよ? うち、週休二日だよ。


「休みでも働いているからです」


 え、働いてんの? どこでよ?


「ゼルフィング商会で、です」


「そうなの? なんの仕事してんだ?」


 初耳ではあるが、婦人が許可しているならオレに否はねー。好きにやってください、だ。


「売り子です。魔大陸、竜宮島、人魚の国と、人手が足りてませんから」


 ハイ、丸投げしてすみません。でも、後悔も反省もせんがな!


「休みも働いているので、カイナーズホームにいけないのです」


「その解決としてゼルフィング家にファミリーセブンを設置したいのです」


「家族に金を渡したらイイじゃん」


「なにも知識のない魔族がカイナーズホームを利用できると思いますか?」


 まず無理だろう。知識があるオレですら戸惑うことあるしよ。


「わかった。好きなようにやってくれ」


 利益が出て、うちで働く者が喜ぶならオレに否はねーし、やってくれんならどうぞどうぞ、だ。


「あ、駄菓子はちゃんと入れてくださいね。ココノ屋にいけるのベー様だけなんですから」


 ハイハイ、わかりましたよ。オレも食いてーしな。

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