第990話 アウト? セーフ?

「ベー様。ベー様。朝ですよ。起きてください」


 体を揺さぶられて深い眠りから強制的に目覚めさせられた。


「……なんだよ? まだ寝かせてくれ……」


 昨日はなんだかんだと遅かったんだからよ。


「売店に商品を入れてくれる約束じゃないですか! 起きてください!」


 売店? なんだっけ?


「起きてください! ベー様!」


 揺さぶるのを止めないミタさん。あなた、そんな自己主張するキャラでしたっけ?


「……わ、わかったよ。起きるから揺らすなよ……」


 気持ち悪くなって来たわ。


 しょうがなく安楽椅子から起き上がった。


 ……安楽椅子なんかで寝るんじゃなかったぜ……。


 あくびをしながら家から出ると、星空がとっても綺麗だった。


「……夜じゃん……」


「外は朝です」


 あ、ここ、ブルーヴィだったっけな。


 昨日、公爵どののところから帰って来たら、村は真夜中。館を騒がせるのもワリーと思ってブルーヴィに来たんだったわ。


 ……帝国は遠いが、時差がニ、三時間ってのが救いだな……。


「ブルーヴィはまだ海の上か」


 月の光が海面を照らし、なんかデッカイ魚が跳ねていた。海、コエ~~!


「長官たちは?」


 オレ──と言うか、ゼルフィング商会との繋ぎとしてゼルフィング商会の本店に出向(と言ってイイのかわからんけどよ)となったのだ。


 長官、課長、班長の三人で、宿屋に連れていくのも面倒だから庭先にキャンピングカーを出して泊まらせたのだ。


「皆さんでしたらとっくに起きて本店に向かいました」


「もういったのかい。働き者だね」


 婦人には話が通ってているらしく、二度ほど打ち合わせしてるんだと。だったらオレなんかまたずに進めてたらイイのにとは思うが、まあ、なんかいろいろあるんだろう。好きにしろ、だ。


「フィアラ様からあとで本店に顔を出してくださいのことです」


 まずは売店が先ですよとミタさんの目が語っていた。


「……あいよ……」


 返事をして転移結界扉から外へと出た。


「……こっちは曇空か……」


 まあ、寝不足にはありがたいと、大きく伸びをする。


「ってか、今何時?」


 太陽の高さから言って、早朝って感じではない。


「九時前です」


 とっくに働いている時間か。村人として失格だな。


「まずは顔を洗って来る。あと、胃に優しいスープを頼む」


 重いものは食いたくないが、昼まで食わないのも胃に悪い。スープで持たせよう。


「はい。どこで召し上がりますか?」


「館の食堂でイイや。なんもやってねーだろう?」


 バイブラストにいく前は、たまに食堂で勉強や裁縫をやってた。今はどうなってるかは知らんけどよ。


「はい。メイドの半分はブルーヴィに移りましたので午前中はなにもいってません」


 それでも午後を使うくらいにはメイドは残ってるわけね。了解です。


 またあくびをして、風呂場へ向かった。


 館の体制がどうなってるかは知らんが、女湯からたくさんの声が聞こえて来るところを見ると、夜番が終わったってことかな? 


「賑やかなもんだ」


 種族は違えど女に違いはないかと、顔を洗い、歯を磨いた。


 スッキリさっぱりとはいかないが、まあ、程よく眠気は消えてくれた。夕方までは起きてられんだろう。


 軽く柔軟体操をして風呂場を出て食堂に向かう。


「ん?」


 食堂の手前にコンビニみたいなものができていた。


「……まさか、ここが売店か……?」


 なんかオレが想像してた売店と違う!


「売店の規模じゃねーだろうが」


 採算度外視とかのレベルじゃなくて赤字確定だろう、これ! 


「つーか、ここを駄菓子で埋めようとしてんのか?」


 大量に買ったが、コンビニほどあるところを埋めるくらいねーぞ!


 どうすんのよ? と食堂に入ると、十数人のメイドとカイナーズホームのエプロンをしたヤツらがいた。なにかの商談か?


「ベー様、こちらへ」


 と、ミタさんに引っ張られて、集団の前に連れていかれた。


 逆らわずテーブルへと着き、用意されたスープをいただいた。ってか、なぜ皆さんの前で食べなきゃいかんのよ? なんの晒しよ、これ?


 見詰められながらもスープとクロワッサンをもぐもぐごっくん。ごちそうさまでした。


 食後のコーヒーをもらい、香りを楽しみながらゆっくりと飲み干した。


「で、なによ?」


「ファミリーセブンです!」


 と、満面の笑みで答えるミタさん。


 それは、アウトの話か? セーフの話か? まず、それを教えてくださいませ。

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