第989話 下僕

「こんなものでどうでしょうか?」


 劇的! ってほどではねーが、まあ、イイ感じにビフォーアフターされた骸骨嬢の寛ぎ空間(?)。どうでっしゃろ?


 と、骸骨嬢を見るが、骸骨なので表情はわかりません。気配からもわかりませんでした。ポーカーやったら負けそう。


「はい! とても素敵です!」


 どうやら気に入ったようです。よかったね。


「じゃあ、オレは帰るな」


 オレの役目、これにて終了。速やかに撤退させていただきます!


「もう帰るでござるか? もっとゆっくりしていって欲しいでござるよ」


 ここに来てゆっくりしたことなんかねーよ。


「あ、あの、ネズミやグラーニはどうしたら……」


「罠は創って来た。ドレミ。捕獲隊を下水道に放て」


 分裂体の一つをネズミとタコの捕獲に当てることにしたのだ。もちろん、美味しくいただくために生きたまま、捕獲するがな。


「溜まったらブルーヴィに持って来てくれ。繁殖させるからよ」


「畏まりました。ミレファ隊を放ちます」


 赤髪のポニーテールなドレミがスカートの裾をつかんでお辞儀した。


 それは誰が設定したんだ?


「ベー様、まっすぐお帰りですか?」


「公爵どのに挨拶してから帰るよ。まっすぐ帰ったらうるさそうだからな」


 まあ、いるかどうかわからんが、夫人はいるだろう。なら、挨拶するのが筋ってもんだろう。いろいろ利用させてもらったしよ。


「では、あたしは先にブルーヴィへ先に戻ります」


 おや。ついて来るとは言わないんだ。どったの?


「皆に売店の開店を教えませんとなりませんから」


 売店? あ、ああ、あれね。ってか、そんなに望んでたんだ。どんだけ魅了されたのよ?


「そ、そうかい。なら、売店から取りかかるよ」


 なにか、無言の催促と言うか、プレッシャーを感じるからよ……。


「はい! では──」


 と、満面の笑顔で転移した。裏切ったら死ぬな、オレ。


「ドレミ。いろは。公爵どのの城にいくぞ」


 分裂体は君たちにお任せ。連れて来んなよ、邪魔になるからよ。あ、言うまでもないけど、一応、メルヘンは頭の上にいますとお知らせしておきます。


「ミミッチー、またね」


「ホー」


 ここで突き放す鬼畜なメルヘン。だが、今はそれを支持しよう。ご苦労であった。勝手に巣にお帰り。


 転移バッチ発動、公爵どのの城に──と、念じた瞬間、プリッつあんが強制離脱した。


 なに? と思う暇なく視界が真っ暗になり、転移した。


「──なんじゃ!?」


 なんか生暖かく、生臭いのに顔を包まれているぞ!!


「……ミミッチー、ついて来ちゃったのね……」


 プリッつあんの呆れ声とともに視界が開かれた。


「ホー! 置いてくの酷い! ミミッチー、仲間!」


 振り返ると、翼をバタバタさせるアホ梟がいた。


 沈着冷静に無限鞄からタオルを出してベタベタになった顔を拭く。


「最後に言うことはあるか?」


 今夜は焼き鳥といこうか。


 料理は下手だが、捌くのは結構上手いんだぜ、オレ。


 よく切れる包丁を取り出し、曇りがないかを確かめる。うむ。今宵の花鳥風月は一味違うぜよ。


「ホー! ベーがミミッチーを殺そうとしてるよ!」


 大丈夫。オレが美味しく優しく丁寧に殺してやるからよ。


「落ち着きなさい。ミモナ梟は美味しくないから。まだゴブリンのほうが美味しいわ」


 そんなことおっしゃるメルヘンにドン引きです。つーか、メルヘンはゴブリンも食うのかよ! それはどんな残酷お伽噺だよ!!


「でも、ミミッチーは別の楽園育ちだし、美味しいかもね? わたしがいたところミモナ梟はゴブリンばかり食べてたから不味くて、そのゴブリンすら食べなかったしね」


 なんだろう。このメルヘンが弱肉強食な世界の頂点に立っているように思えるのは? こいつ、マジヤベー生き物なんじゃね?


「ミミッチー、プリッシュ様の忠実な下僕、なんなりとお命じください」


 メルヘンにもドン引きだが、このアホ梟にもドン引きだよ。どんだけ手のひら返しが上手いんだよ!


「んじゃ、ミミッチーはプリッつあん担当な」


 食い物もプリッつあんに任せるわ。しっかり飼いなさいよ。


 最初から面倒見る気はないが、プリッつあんの下僕ならオレは一切ノータッチ。飢えようが病気になろうが知らんわと、意識を切り替えた。


「夜なのに灯りつけてんだな」


 貴族は豪勢だな。夜まで明るくさせてんだからよ──と思ったが、さすがにそれはないか。多分、オレがいつ帰って来てもイイようにしてんだろう。


 時刻は八時過ぎと、田舎ならとっくに寝ている時間だが、貴族はまだ寝るには早い時間だ。しかし、バイブラストがそれに当て嵌めるかはわからない。働き者な夫人ばっかりだからな。


 まあ、寝ているならそれで構わんし、城ってのは二十四時間体制。誰かは起きてんだろうと、呼び鈴を鳴らしてみた。


 と、扉の向こうで待っていたかのように、二秒後に扉が叩かれ、失礼しますとお世話さんが入って来た。


「夜遅くワリーな」


「いえ、これもわたしの役目。ご遠慮なさらずお呼びください」


 その仕事に対する姿勢は尊敬できるが、その生き様は真似したくないな。自由気ままなオレ、サイコー!


「公爵どのか夫人が起きてたらオレが帰って来たことを伝えてくれ。寝てたらこのまま帰るわ」


 急用もないし、話ならまたあとでも大丈夫だろうしな。


「すぐに呼んで参ります。少々お待ちくださいませ」


 無理しなくても、と言うだけ無駄なので待つことにした。クリエイト・レワロで時間が狂ったからまだ眠くない。あと六時間は戦えるぜ!


 ……でも、帰ったら規則正しい時間に戻さないとな。オレ、まだ子どもだしよ……。

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