第981話 メルヘンアイ
外(?)に戻って来ると、なぜかプリッシュ号が巨大化してあった。なんで?
「あー、メガネなドレミさんや。なにやってんだい?」
分離ではなく分裂したようで、ドレミ風ではあるが、別個体となったので、とりあえず優しく声をかけた。
あ、別個体になったとは言え、ドレミの指揮下には入っているそうですよ。なのでドレミ軍団なのです。
「はい。プリッシュ号の内装を変えております」
内装? あ、ああ。プリッシュ号の中、大したもの置いてなかったっけな。
「プリッつあん、そんなにプリッシュ号を気に入ったのか?」
作り手としては嬉しいが、そんなに建物に執着するような性格だとは思わねーんだが。あ、たくさん持つのは好きか、あのメルヘンは。
メガネなドレミが中心に動いているようで、プリッシュ号の周りにはメガネなドレミばかり。どんなチョイスなんだ?
「プリッつあ~ん! 出てこぉ~い!」
色違いのメガネをするドレミがひっきりなしに出入りしているので、外から呼びかけた。
「今忙しいの~! 集めたやつの片付けてて!」
居住区の丸窓から顔を出してそんなことを叫んで来た。
ハイ、了解です。
と、素直に返事をしたものの、メンドクセーのでマ○ダムタイムと洒落込んだ。あーコーヒーうめ~!
「ベー! サボらないでよ!」
ちっ。うるさいメルヘンだ。わーたよ。
しゃーね。おもしろものを集めろと言った手前、放置もできんしな。
「さて。メルヘンの琴線に触れたものはなんですか~」
キャンプした建物に入り、手近な箱を開けてみた。
「箱?」
なにやら高価そうな意匠を施した長方形の箱がいくつか入っていた。なんじゃこりゃ?
箱を取り出し、留め具を外して開いてみる。
「スプーン?」
がぎっちり詰まっていた。なんでじゃ?
一つ、取り出してみる。
「銀、ではねーな。ん? この感じ、聖銀……に似てるが、聖銀でもねーな。初めて触る感触だわ」
土魔法に反応しないところをみると、金属でもない。よくわからん素材だぜ。
「まあ、こんだけ意匠を施した箱に入ってんだ、安物ではあるまい」
あんちゃんにでも卸してやるか。錆びなければ人魚の世界で売れそうだしよ。
人魚もスプーンやフォークを使ったりする。需要はあるはずだ。
いろいろ開けていくと、どうもこの一角は食器類のようだが、なぜにこんなにあるんだ? この建物が城だったとしてもありすぎだろう。製造工場の倉庫から持って来たかのような量だぞ。
「工房的なのが近くにあったのか?」
まあ、人魚に売るなら多いほうがイイし、気にするなだ。
ホイホイと無限鞄に放り込む。
「さて。次はなんじゃらほい?」
茶箱みたいな箱の蓋を外してみる。
「缶詰め?」
緑色した円柱形のものが詰まっていた。
一つ取り出し、いろんな角度から見たり、振ったりしてみる。うん。よくわからん。
「おもしろだけで持って来たな、あのメルヘンは」
まったく、中身がわからんものを持ってくんなよ。毒だったらどうすんだ。
「膨らんでる様子はないし、中身を示すものもなし。食い物じゃねーのかな?」
不安ではあるが、気にもなる。よし。開けちゃえ。
もちろん、万が一に備えて結界で包み込み、結界の刃で上部をくり貫いてみる。
煙が出る訳でもなければ飛び出すものもなし。中身は……黒い豆? いや、木の実? 種? なんだ?
「たくさんあるが保存食って感じはしねーな。なにが入ってるかわからんしよ」
茶箱っぽい箱には、この世界の数字が書かれており、保管を目的につけられてるっぽい。いや、勘だけど。
「もしかすると、植物の種かもしれませんね」
と、レイコさんが声がして結界の中にある缶詰めっぽいものを覗き込んだ。
「知ってるやつ?」
「たぶんですが、コノカだと思います」
コノカ? 初めて聞くな。どんなものよ?
「イモの一種です。不味くはないようですが、そんなに美味しいものではありません。ただ、不毛の地でも成長すると、昔は魔大陸でも植えてました。まさかこの大陸にもあるとは驚きです」
ほー。そりゃイイものが出て来たじゃんか。こりゃかけ値なしにおもしろいぜ。メルヘンアイに脱帽です。
他のを開けてみると、カボチャやニンジン、大根などの種も出て来た。
「つーか、なんのために保管してあったんだ?」
このクリエイト・レワロの下に箱庭がある。わざわざ種にして保管することもねーと思うんだがな?
「この土地の気候では育たないものですしね」
そうなんだよな。まあ、コノカってのイモならわからないではないが、レイコさんの鑑定では、もうちょっと暖かいところで栽培されるらしいのだ。
「まるで魔大陸に持っていくような感じです」
言われてみればそんな感じだな。
昔は魔大陸と交流があったのか? 箱庭は全世界にあるって石碑に刻まれてたしよ。
「まあ、なんにしろだ。メルヘンアイは正解ってことだ。ちょっと、いや、スゲーやる気が出て来たぜ」
さあ、次はなんですかぁ~。
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