第977話 リボン

「──なんじゃこりゃー!!」


 なにか叫び声で深い眠りから強制的に起こされた。


 ……なんだよもう~! 静にしろよ。寝たばっかりなんだからよ……。


 ゴロンとドレミに顔を埋もれさせる。あーぽよんぽよん気持ちイイ~。


 深い眠りに……とか思ったら、なんか頭に衝撃が。なんだよ、も~。


「起きさらせ、アホんだら!」


「──ふべしっ!」


 また衝撃が生まれ、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。


 なんか硬いものに激突。バウンドしてさらに激突。意識が深いところに……。


「──って、なにすんじゃい! 二度と戻れない眠りにつくとこだったわ!」


「何度でも起こしてあげるわよ!」


 それは止めてください。なんかメルヘンの傀儡になりそうなんで……。


「はぁ~。なんだって言うんだよ。まだ眠いんだよ、オレは」


 ドレミベッド(キングサイズ)に戻ろうとしたら、ドロップキックを食らいました。


 ……クソ! オレの能力をここまで使いこなせるようになるとは。メルヘン、侮りがたし……。


「目覚めるまでぶっ飛ばす!」


 ヤダ、このメルヘン怖い!


 畜生、ふざけんなとは思うが、今は寝不足で本来の力の十パーセントも出せない。これでガルルと唸るメルヘンには勝てない。君子、危うきときにはごめんなさい。誠心誠意、目の前の危険に従順になりましょう、だ。


「んで、なんなんだよ?」


「なんなんだよはこっちよ! なんでドレミが部屋中にいるのよ! 怖いわよ!」


 言われて見れば部屋中にドレミさんがいっぱい。少なくても四十はいるかな?


「しかも、なんか年齢が上がってない? と言うか確実に大きくなってるわよね?」


 確かに。メイド型のときは、十歳前後の年齢(分離が多いと五歳くらいまで小さくなります)だが、今は十五歳くらいになっている。


「想像以上にスライムがいたんだな」


 百匹くらいまで融合を見てたが、一向に減る様子がなかったので、七つに分離して手分けして融合することにしたのだ。


 それでも減らないので、いろはも七つに分離して融合を始め、二時間して尽きた。かどうかはわからないので、いろは本体を残し、探索に出させたのだ。


「まだ帰って来ないところを見ると、まだいるみたいだな」


「……スライムって謎よね……」


 説明したら、プリッつあんがそう感想を漏らした。


 ……オレとしては、スライムより君のほうが謎すぎると思うな……。


「と言うか、なんで大きくなってるの?」


「融合した量が多いからだろう」


 部屋中にいるドレミは、だいたい十五歳くらいになっている。


 今までのドレミがメイド型になると、基本、十歳前後。分離数により年齢が上がったり下がったりする。ハイ、今さらな説明で申し訳ありません。


「ドレミ。もう元に戻ってイイぞ」


 スライムベッドがぷるるんと揺れ、メイド型ドレミにトランスフォームする。ただし、二十歳半ばのボン・キュー・ボンなおねーさまに、だけど。


「ベーの趣味?」


「なんでだよ! それがメイド型の成長限界点なんだよ」


 スライムの姿なら夜叉丸まで大きくなるが、人型だとそれが精一杯なんだとさ。


「ふ~ん。まあ、メイドのときの大きさなんてどうでもいいけど、猫になったら不味いんじゃないの? その体で猫になったらスゴいことになるわよ」


 あ、確かに。そこまで気にしなかったわ。ドレミさん、ちょっとトランスフォームしてみ。


「……ベーが跨がったらべーナイトになるわね……」


 語呂はいまいちだが、なんか引かれるものを感じ、ドレミに跨がってみた。


 ……あ、なんかイイかも……。


 うむ。プリッつあんがなかなか降りない理由がわかった。メッチャ、乗り心地がイイじゃねーか!


 このまま跨がっていたいが、なんかダメなほうに転がりそうなので、自分を叱咤してドレミから降りた。


「さすがに街中じゃ騒がれるわね」


 いや、そうでもないようが気がする。魔獣を手下にする従魔化の歴史も結構古くからあるし、それを狩りに利用する狩人もいる。確か、冒険者ギルドで従魔の登録できる話を姉御から聞いたことがある。帰ったら聞いてみるか。


「まあ、大人な姿なら猫にならんでもイイだろう」


 最初、五歳くらいの姿だから猫の姿にしたんだし、まともに見えるならメイド型でいても構わんだろう。まあ、人のいないところなら猫になって跨がらせてもらうけど。


「もうイイぞ」


 ボン・キュー・ボンなメイドになるドレミさん。見た目がイイのはこっちだな。


「ミタレッティの立場が危ぶまれるわね。それじゃなくてもベーの側にいられないんだから」


 別にいなくてもオレは構わんのだが、雇い主として雇用者の矜持を守るのも大切な役目。守るべきは守ってやらんとならんか。


 ん~どうすっぺ?


「わたしの能力みたいなのを道具にして創ったらいいんじゃない? それぞれ変身しても違和感のないやつを」


 なるへそ。そう言う手がありましたな。で、なにがよろしいと思います? オレにはまったく想像できませんわ。


「まったく、少しは考えなさいよ」


 ハイ、ごめんなさい。お叱りは甘んじてお受けします。なので、アドバイスよろしくです。


「リボンなんていいんじゃない。猫とメイドなら違和感はないでしょう。スライムはどうかな~っては思うけど」


 いや、リボン、イイんじゃね。


 よし、猫とスライムになるときに小さくなれるようにして、頭に来るように調整。リボンはポピュラーなのでイイか。派手だと邪魔になるしな。色は赤。こんなんでどうでしょうか、ドレミさんや?


「はい。それでよろしいと思います」


 なぜかスライムに戻り、たぶん、頭と思う方向をこちらに向けた。


 まあ、ドレミなりのなんかがあるんだろうと思い、頭にリボンをつけてやった。


「ありがとうございます」


 口調は平坦だが、体は嬉しそうにぷるるんと震えていた。


 ……うん。やっぱメルヘンと同じくらいスライムもよくわからん生き物だわ……。

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