第976話 スライム
たらふく食べて、温かい寝床を作っておやすみなさい。
ZZZと心地よく眠ってたら、誰かに体を揺さぶられた。なによ?
瞼を擦りながらドレミクッションから上半身を起こした。
「マスター。囲まれています」
サブマシンガンみたいなのを両手に持ついろはが目の前にいた。あん? なんだって?
「多数の熱源体がここを取り囲んでおります」
え、えーと、誰かわかるように説明してくんない? と周りを見るが、メルヘンはプリッシュ号で就寝。ミミッチーは立ちながら爆睡している。
……こいつの野性が心配でならんよ……。
「熱源体、ね。こんなところに生き物なんていんのか?」
草一本生えてねーところだぞ。どうやって生きてんだよ?
「はっきりと断言できませんが、我々と同じ生命反応を感じます」
ん? 我々と同じ生命反応、だと? それはつまり、スライムってことか?
「……スライムがいるのか? オレらを囲むほどに……?」
「はい。かなりの数がいます」
なぜかは知らないが、アーベリアン王国近辺でスライムを見ることは滅多になかったりする。
オレが初めて見たのは海の中。クラゲかと思っていたのが、ハルヤール将軍と付き合うようになって、それがスライムだと知った。
他でも見たことはあるし、知識はあるが、スライムが群れる生き物だとは聞いたことがねー。精々、集まったところで三匹。それ以上だと共食いを起こすらしいのだ。
「危険な感じか?」
オレの考えるな、感じろは全然働いてないが……。
「殺気等はありませんが、こちらを補食しようとする気配は感じます」
生命体を食うのか? 益々こんなところで生きられている理由がわからんな。やっぱ共食いか?
「ドレミ。ミミッチーの側にいろ」
未だに目を覚まさねーダメ梟でもスライムの餌食にするには可哀想だからな。
オレはプリッシュ号に結界を施す。メルヘンが目覚めたところでなんの役にも立たんからな。大人しく寝てろ、だ。
「いろは、姿を見せるまでなにもするなよ」
「畏まりました」
オレの側へと寄り、二丁のサブマシンガンの引き金から指を離した。
しーんと静ま……りはしないか。ミミッチーがホーホー鳴きなながら寝てるからよ。
「窓から来ます」
いろはの声に窓を向くと、半透明のうにょうにょしたものが入って来た。
「レイコさん、出番ですよ!」
こんなときの幽霊。言われる前に出て来いや!
「──あ、すみませ~ん。ちょっと探険に出てました~」
この部屋のドアを通り抜けて現れた腐れ幽霊。憑いている設定はどこにいった?
「そのまま浮遊霊にでもなりやがれ」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでくださいよ。こんなところに放り出されたらリッチになっちゃいます!」
そんときは昇天させてやるから安心しろ。天国にいくか地獄にいくかは責任持てんけどよ。
す~とオレの背後に回り、なぜかよっこらしょとかかけ声を上げる幽霊。オレの知らない間に霊的なギミックが施されたのか?
「マスター。ドアからも来ました」
ドレミの声にドアへと目を向けると、ドアの隙間から部屋へと入って来るところだった。
「こっちのは乳白色か。種類が違うのか?」
意外と種類があるスライム。誰か研究している方がいたらヴィベルファクフィニーくんのところまで来てください。交通費、全額払いますんで。
「コルム系のスライムですね。なんでも補食する種ですが、魔力だけでも生きられます。多分、魔道具にある魔石を食べてると思いますよ」
「オレら、明らかに狙われてるよな」
ミミッチーはどうか知らんが、オレ、美味しくないよ。
「体を維持するには魔石でもいいんですが、成長するにはやはり生命を食らうのが一番なんです」
まさに飛んで火に入る夏の虫状態ですね。
「スライムは核を潰せば死ぬんだよな?」
「はい。ですが、粘膜や粘体で大抵の武器では突き刺さりませんよ」
「いろは、やってみ」
「畏まりました」
と、サブマシンガンをぶっぱなすいろはさん。同族だろうが容赦ねー!
全弾命中するも、表面を削っただけ。核には届いている様子はなかった。
この世界のスライム、つぇえぇぇぇっ! バンベルが超万能生命体になるのも頷けるわ。
「物理的な攻撃は強いですが、火には弱いですよ。あと、寒さにも」
まあ、水分多そうだものな。
ポケットから炎の仕込ませたクナイを取り出して、投げてみる。
ジュッ! と一瞬で消えてしまった。
「……サプルの炎が強すぎて判断できんな……」
オレの魔術じゃ一匹も燃やせんし、サプルの魔術は強力過ぎる。なんか……あ、なければ創ればイイんだったわ。
イイ感じの火が出る投げナイフを創り出し、スライムに投げる。
今度はイイ感じに焼けた──が、耐性なさ過ぎだろう、スライムさんよ!
まあ、襲って来るなら退治すべし。容赦はせん!
「……のだが、無駄な殺生だよな……」
レベルアップするわけでもなければ金になるわけでもねー。動きが遅いから投げナイフの練習にもならん。ただの無駄な殺生に無駄なことをしているだけだ。
「なあ、レイコさん。スライムって、なんか使い道ねーの?」
「昔は排泄物や死骸の処理に使われていたそうですが、今は魔道具や技術が発達しましたし、大きくなったスライムを処理するほうが手間なので、ほとんど使い道はないですね」
使えねーな、スライムは。いや、オレの周りにいるスライムは超便利ですぜい。
「ん? 待てよ」
なにか頭の中でピコンと閃いた。
……分裂分離ができるなら融合もできんじゃねーのか……?
「いろはかドレミ。あのスライムを融合することは可能性か?」
投げナイフを放ちながらいろはとドレミに尋ねる。
「……おそらく、可能です」
「可能、だとは思います」
「おそらく、なのか?」
「申し訳ありません。分裂体からの受け継いだ記憶の中に融合はありませんもので」
「ですが、スライムの記憶の中には融合があります。ただ、わたしたちにもできるかはやってみないとわかりません」
んじゃ、ちょっと試してみ。ダメならすぐに中止だからな。
「では、わたしがやってみます」
と、いろはが動き、スライムをわしづかみにし、にゅるんと体に取り込んだ。
ど、どうよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます