第975話 美食家

「……ミミッチーの背で好き勝手やってるお二人さん。そろそろ中心部に着くんですけど……」


 と、ミミッチーの声に我に返った。


「んお? もう着いたのか? 早かったな」


 あまりの広大さに、何日かかかる覚悟はしてたんだがな。


「いや、一日近く飛ばされましたから」


 そうなの? オレ的には一時間も過ぎてねーんだけどな?


「プリッつあん。一旦片付けるぞ」


 いつの間にかプリッつあんも混ざって秘密の魔道具創りに入り、あれやこれやと創ってしまった。


「わかった。また後で創りましょう」


 おう。オレもまだまだ創りたいし、プリッつあんの発想もおもしろいからな。


 無限鞄にとりあえず仕舞い込み、固定結界を解除してミミッチーの背から下を覗き込んだ。


「……風景は変わらずか……」


 どんだけ廃棄したんだよと突っ込みも失せるほど、飛び出したときと変わらない風景だった。


「ミミッチー。本当にここが中心部なのか?」


 これと言った目印もなければ、らしい建物もない。箱庭に通じるところなんだから、それらしいものを置けよな。


「ミミッチー、場所は知ってるけど、来るのは初めて。でも、ここだとはわかる」


 そう記憶か遺伝子に組み込まれてんだろう。よー知らんけど。


「中心部、あそこら辺。下りる」


 そうミミッチーが言うと、降下し始め、城塞と言うか要塞って言うか、ちょっと斜めにはなっているが、ほぼ形が残るくらいの建物のテラスに着地した。


「ふ~。疲れた……」


「ご苦労さん」


「ミミッチー、ありがとうね」


 労いの言葉を送って、ミミッチーの背から下りた。


「さて。骸骨嬢のところへはどういけばイイんだ?」


 辺りを見渡す限り、瓦礫や建物が隙間なく積まれている。これでは下に行けねーぞ。


「掘るか建物の中からいくしかねーかな?」


 まあ、そうなるだろうと掘る魔道具は創ってあるが、ほぼ形が残る建物を壊すのも偲びねーな。


「ベー。ミミッチーお腹空いた。疲れた。眠りたい」


 翼を大きく広げて主張して来た。


 そう言われたらオレも腹減ったな。それに、コーヒーも飲みてーわ。


「よし。今日はここでキャンプするか」


「なら、中に入ればいいんじゃない。ここから中に入れそうよ」


 て、ガラスが吹き飛んだ窓から建物の中へと入っていく不法侵入なメルヘンさん。それ、キャンプじゃなくなるんですけど……。


「ミミッチー。寝るなら屋根のあるところがいい」


 おい、お前の野性はどこに行った? と問う暇なく中へと入っていくダメ梟。十年くらい箱庭に放り込んだろか?


「……まあ、瓦礫って中でキャンプしても風情はねーか……」


 キャンプをするには環境も大事。味気ねー場所でしてもおもしろくねー。なら、建物中で一夜を過ごすか。


 オレも建物の中へとお邪魔します。


 建物の形はほぼそのままとは言え、あの高さから落ちて、中のものまでそのままなどあり得ない。テーブルやソファー、家具などが滅茶苦茶になっていた。


「……可愛い家具なのにもったいないわよね……」


 修復ボックスを創ったが、さすがにここまで粉々になると修復は無理だろうな。いや、再生でいけるかも?


「ベー。食べるもの出して。ミミッチー、空腹で倒れそう」


 おっと。オレの悪い癖。まずは腹ごしらえだ。


「ミミッチー、なに食う? 肉か? 木の実か?」


「前にベーが食べてたものがいい。あれ、ちょー好み。あと、あのビリビリする飲み物も」


 茶猫とキャラかぶりだな。とか思いはしたが、ファンタジーな世界に生きる摩訶不思議な生命体。好みが一致したところで大した驚きもなし。たーんと食えだ。


 ハンバーガーとペプ○を大量に出してやる。


「プリッつあんは、なに食う?」


「わたしは、魚。バリエの炙りがいいかも」


 通なところをチョイスしやがるな。なら、オレもバリエにするか。人外どもと釣りしたときいっぱい溜め込んだしな。


 バリエを一本出して捌いて行く。


「ミミッチーも食べたい」


 食えんのか? と、一切れやってみたら、なんの抵抗もなく口に入れた。


「うん。これも好き」


 なんでも食う梟だよ。


 バリエを捌き、皿に並べる。あ、切り身で炙ったほうがよかったか? でもまあ、まずは刺身でいくか。まだまだあるんだしよ。


「ねえ、ベー。日本酒を温める道具ない? バリエは熱燗が合うのよね」


 お前はどこの美食家だよ。メルヘンのイメージを崩すなや。とは今さらか。メルヘンに夢を見てイイのは空想世界のメルヘンだけだ。


 とっくり四個とおちょこ、コンロと土鍋を創り出す。


「プリッつあん、日本酒出せや」


 オレの無限鞄にも日本酒は入っているが、プリッつあんの好みなど知らん。文句を言われるのも嫌なので、自分の好みにあったものを自分の無限鞄から出しやがれ。


「じゃあ、岩窟でお願い」


 日本酒にはいろんな名前があんだな~と思いながら受け取り、とっくりに注いで土鍋に入れる。


 水を入れ、コンロに火をつける。


「あとは自分でやれな」


 オレはここまでしか知らん。


「ありがとう~」


 自分サイズに小さくして、いつの間にか出した炬燵って上に移動させた。


 さて。オレもバリエの刺身、食おうっと。いただきます。


 三人三様、食事を楽しんだ。


 あ、ドレミといろは、あと、幽霊はテキトーになんかやってます。

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