第949話 ただいま

 カチャリと音はならないものの、転移結界扉はスムーズに開いてくれた。よし!


 連結結界は、昔に創り出したが、音声がやっとだった。


 自由自在にもかかわらず、どうやっても転移結界はできなかったのだ。


 最初は神(?)による介入か? とは諦めていたが、どうもイメージ不足が原因っぽかった。


 まあ、それはオレの勝手な憶測だが、エリナは簡単に創り出し、その原理(想像か?)を聞いて、試しにやったらあらできた。


 数メートル先への転移だったが、でることはわかった。ならば、あとは創意工夫と誠意努力だと、丸二日かけてできた結界扉を生み出したのだ。


 創り出したのはこの転移結界扉で四つ目で、もう大丈夫だとはわかっているが、ものがものだけに開いてみないと安心できないのだ。


「……ちゃんと繋がってるな……」


 開けれたら繋がっている証拠なんだが、扉を潜り、その光景を見て安堵できた。


「な、なに、ここ!?」


「え? 空!?」


 プリッつあんやミタさん、ついて来たメイドさんたちがびっくらこいていた。


 まあ、無理もなかろう。扉を潜ったら、三百六十度空と言う状況なんだからな。


「ベー! なんなのよ、ここは!?」


「オレの世界だ。名はまだない」


 いやまあ、自分の部屋(世界)に名前をつけるヤツはそうはいねーし、別宅で構わんだろう。


「……世界って、また斜め上を全力で駆け抜けていくわね……」


 別にオレが創った訳じゃねーし、同じのは十数個(世界の単位ってなんだ?)はあった。オレはあったのを利用させてもらってるだけ。文句なら創ったヤツに言ってけろ。


「ここは、オレの部屋、ってか、家を置くからメイドさんズは下を使え。あそこから下に下りられるからよ」


 ここは、山で例えたら頂上部。人が住もうと言う場所ではねー。が、オレはあえてこの場所に住む。ここが気に入ったのだ。


「え、海!?」


「でも、壁があるわよ……」


 頂上部の外周部に立つメイドさんズが、そこから見える光景に驚愕していた。


「ベー! ほんと、なんなのよ、ここは?」


「箱庭だよ」


「もっと言葉を増やしなさいよ! それじゃわからないわよ!」


 チッ。理解力のねーメルヘンだぜ。 


「自分の目で確かめて来い。そのほうが理解できるからよ」


 言葉で説明しても理解できるほど、この箱庭は小さくねー。自分の目で、足で……いや、羽で見て回れ。その雄大さに度肝を抜いて来いや。


「うん、見て来る」


 あい、いってらっしゃい。


「ミタさんも見て来てイイぞ。ただ、オレは家設置して片付けたらバイブラストに戻るからな」


 自分も見たくてうずうずしてる万能メイドに促してやる。


「はい。あの、下はあたしたちが自由にしてよろしいのですか?」


「構わんよ。土地はいっぱいあるからな」


 広さにしたらちょっとした島くらいはある。一万人くらいなら余裕で暮らせるだろうよ。


「で、では、いって来ます」


 あい、いってらっしゃい。


 うっきうきなミタさんを見送り、頂上部の中心に向かう。


 ここの広さは野球ができるくらいあり、外周部に二十メートルほどの木が等間隔で植えてあった。


「……いっぱい実がなってんのにな……」


 ただの桃ならヒャッハーなのに、食えもしないものでは悲しいだけ。ったく、食えるもの植えやがれ。


「果汁にして売るか。ピータ、ビーダ、ちょっと出て来いや」


 内ポケットをトントンと突っ突くと、もぞもぞと動き、ピータとビーダが出て来た。


「ぴー!」


「びー!」


 なんのようだ、こんにゃろーとばかりに元気な二匹。羨ましいヤツらだよ。


「ワリーが、穴を掘ってくれ。土はその辺に置いといてくれ。あとで使うからよ」


 穴の広さと深さを指示して、土魔法で家の土台を作り出した。


「こんなものか」


 正しく計算したわけではく、ほとんど勘だが、一度作った経験があり、長年住んでいた場所。体が覚えているわ。


 土台に結界を敷き、収納鞄に収めた旧我が家を取り出し、結界の上に置いた。


「……まさか、また住むことになろうとはな……」


 プリッつあんの能力で、少しずつデカくしていく。


 土台にぴったりなところで停止。家を一周して設置面を確認する。おし。イイ感じだ。


 敷いた結界を消し、土台と家全体にヘキサゴン結界を施した。


 しばし、懐かし……くはないが、久しぶりな気持ちを胸に我が家を眺めた。


「マスター」


 ドレミの声で我に反り、胸に溜まったあれやこれやを押し込んだ。


「よし!」


 なんの気合いか自分でもわからんが、ドアに手を伸ばし、勢いよく開いた。


「ただいま!」


 そして、元気よく帰宅した。

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