第948話 お引っ越し2

 しばらくして、ミタさんが戻って来た。


「お待たせして申し訳ありません」


 なんだろう、ミタさんが両手に持つパンパンに膨れた鞄は? カイナから流れて来た無限鞄の仕様はわからんが、無限とつくからにはそのていど入らないわけはない。なんなの、いったい?


「フロム鳥の卵です」


 フロム鳥? 初めて聞くな。ってか、そんなにパンパンにして潰れないの?


「レヴィウブで手入れました。すべて有精卵なんです」


「いろんなの売ってんだな、あそこ。でも、なんで有精卵?」


 卵を孵化させるのが趣味なんか? 理解はできないけど、応援はするよ。


「フロム鳥を増やして美味しい卵でケーキを作りたいんです」


 なんか料理を拗らせちゃったシェフがやりそうなこと言っちゃったよ。


「ミタさん、そんなに料理が好きだったっけ?」


 万能メイドは料理もできるが、好きだとかは聞いたことはないし、出す料理は作りおきのものが多かったような気がするが?


「いえ、あたしは食べるほうが大好きです」


 あなた、食いしん坊キャラでしたっけ? あまり食っているとこ見たときないけど。


「恥ずかしながら部屋で食べてます」


 まあ、食べているところを見られるのが嫌ってヤツもいるし、楽しみ方は人それぞれ。勝手にしたらイイさ。


「つまり、美味しく育てようってわけだ」


「はい。ベー様なら環境から作ると思いましたから」


 なんだろう。オレ、そんなにわかりやすい性格してるのか? いや、自分の生き方には素直だけどさ~。


「まあ、好きにしな。なにか飼おうとオレも思ってたしな」


 んじゃと、部屋を出た──ら、荷物を抱えたメイドさんが沢山いらっしゃいました。


「ついて来る気満々かよ」


 つーか、なにも言ってねーのになんで、そう言う結論に至ったんだよ。メイドの中にエスパーでもいんのかよ?


「ベーの考えそうなことなんて、ちょっと見てれば誰だってわかるわよ。絶対、趣味に走るって」


 やはり、オレは単純な性格をしているらしい。まあ、バカ野郎は単純明快じゃないとやってられんか。


「ただまあ、ベーの非常識がどれほどまでかは予想できないけどね」


「ふふ。そうですね。誰も考えないことをやっちゃう方ですから」


「誰でも考えそうなことだけど、常識を考えたらやらないことを遠慮なくやっちゃったりもするけどね」


 うっせーよ! と言えたらどんなに楽か。まさにその通り過ぎて反論もできねーわ。


 なにも言えないので、黙って館を出た。つーか、なんのメイド大移動だよ。ゼルフィング家の歴史に変なもん刻むなや!


 他のメイドに見送られながら館を出ると、野次馬が集まっていた。


「ベー。今度はなにする気だ?」


 野次馬を代表してあんちゃんが訊いて来た。どこにでも現れるけど、結構暇なの?


「久しぶりに帰って来たと思ったら、庭先に変なものを作り出してんだ、見過ごせるほどおれの心臓は強くねーよ!」


 どう言う理屈だよ? 意味わからんわ。


「今日から館を出て別宅に住むんだよ。それだけだから仕事に戻れ」


 見てたっておもしろいことは起こらんぞ。


「そうもいくか。お前のやること成すこと世界規模で影響を及ぼすんだからよ」


 オレはどんだけ影響力を持ってんだよ? いや、まあ、最近世界規模でやらかしてんなーとかは思わなくはないけどよ……。


「誰か身代わりを用意せんとな」


「不吉なこと言ってんじゃねーよ! なんの黒幕だ! 魔王だって正々堂々姿を現してるぞ!」


 オレに言わせたら三流もイイところ。一流はそう姿を現せないもの。超一流ともなれば存在すら感じさせず、目的を果たすものだわ。


「ベーの思考ってラスボスっぽいよね」


 オレから言わせたら君がラスボスだよ。そのコミュニケーション能力でイイように扱いそうだわ。


 もう相手するのもメンドクセーので、煉瓦を敷いた場所の前に立ち、精神を集中させる。


 やればできる。あればできる。考えるな、感じろ! と、煉瓦を敷いた場所に扉を創り出した。


「邪神でも呼び出すのか?」


 なんでだよ。普通の扉(見た目はね)だろうが。


「今日からここがオレの家だ。用があるときは勝手に入って来な」


 住む場所は変わったが、友達はいつでもウェルカムなモットーは変わらない。が、さすがに扉だけではオレが住んでるとはわからんか。


「旗でも立てておくか」


 それか門番でも雇うかな? 魔族のジジババの働き口にしてもイイかもな。


 まあ、それは後々。新しき我が家に引っ越しますか。


 繋がってくれよと願いながら扉を開いた。

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