第943話 バイブラストの秘密

「カイ様! ベー様がお帰りと聞きましたが、本当ですか!?」


 オレの情報が別に入ったのか、第三夫人までやって来た。ってか、飛び込んで来た。


「ああ。なにもなかったように帰って来やがったよ」


 別になにもなかったんだから普通に帰って来るだろうが。


「……それはよかったです……」


 ほっとしたのか、崩れ落ちる第三夫人。関係的にそこまで心配する存在でもねーだろう?


「もう、お前抜きにしてバイブラストが生き残れない事実を知りやがれ」


 んな大袈裟な。オレがいなくても優秀な夫人がいんだから問題なかろう。と、エデンの園を知る前なら言えたんだが、知った今は、確かにオレなしではバイブラストは崩壊しかねねーな……。


「……な、なんかあったのか……?」


 訝しげな目を向けて来た。


「なんでそう思う?」


「その余裕がなにかあったと示している。深刻なほど、お前は余裕ぶるからな」


 野郎相手によく見てるものだ。ってか、オレ、そんなに単純な行動見せてるのか? ちょっと気をつけよう。


「ミタさん。公爵どのや夫人に酒でも出してやってくれ」


 酒なしではキツいだろうからな。


「はい。強いものをお出ししますね」


 無限鞄からウイスキーを瓶ごと出し、コップに注いでそのまま公爵どのと夫人に出した。


 まあ、飲みなとアゴで勧め、二人が飲んで落ち着くのを待った。


「いい酒だ。ミタレッテー。余分があるならもらえるか?」


「はい。城の侍女に渡しておきます」


 カイナーズホームで腐るほど買ったような記憶があるんだが、特別な酒なのかな? まあ、だからどうしたって程度のことだがよ。


「それで、なにがあった?」


「あったと言うよりはバイブラストの真実を知った、と言ったほうがイイかもな」


 二人の顔が強ばった。


「……なにを、知った……?」


「公爵どのの知らない真実だよ」


 多分、公爵どのは、エデンの園は知らないだろう。知っていたら下水道をほったらかしにはしなかっただろうからな。


「誰かに言ったか?」


「言ってないよ。これはバイブラストの問題だし、公爵どのへの義理もあるしな。できることならオレ知ーらねーと放り投げたいところだ」


 エデンの園を捨てるのは惜しいが、すべてのややっこしい問題を放棄できるなら諦めもつくぜ。


「なんなら公爵どのとの関係を断絶しても構わない。誰にもしゃべらない。二度とバイブラストには近寄らないと、ヴィベルファクフィニーの名に誓おう」


 破ったら村人を辞めてもイイぜ。


「そんなこと絶対に止めてくれ。言ったようにもうバイブラストはお前なしには存続できないところまで来ている。お前がなにを知ろうと咎めることはしないし、知りたいことはなんでもしゃべる。だから、二度とそんなことは言わないでくれ。おれは、お前を友達と思ってるんだからよ」


 ――地位も年も関係ない。気に入った。それがすべてだ!


 と、公爵どのが昔言ったセリフを思い出した。


「……ほんと、カッコイイ男だよ……」


 まったく、眩しくて嫉妬しちまうぜ。


「それはこっちのセリフだ。お前ほどカッコイイ男はいないよ」


 公爵どののような男にそう言ってもらえるだけで、すべてが報われた思いだぜ……。


 それを顔に出すのも口に出すのも恥ずかしいので、コーヒーカップに手を伸ばし、誤魔化すようにコーヒーを飲んだ。


 なんか微妙な空気が部屋に満ちるが、まあ、こんなときのスルー拳。四倍も出せば気にもならんさ。


「まあ、話を戻すが、オレが知ったのはバイブラストの真の秘密であって、公爵どのたちが知るバイブラストの秘密とは違う」


「……なにが、どう違うんだ……?」


「時間がなくてバイブラストの真の秘密しか見てないが、バイブラスト公爵領の秘密――この場合は資金源、かな?」


 どうやら核心を突いたようで、自分を落ち着かせるためにウイスキーの瓶をつかんでラッパ飲みをした。


 まあ、そのくらいで酔い潰れる公爵どのではないので、お代わりを出すようにミタさんに目を向けた。


 それを理解したミタさんが、同じウイスキーを出して公爵どのの前に置いた。


「……やはり、見抜かれていたか……」


「まーな。資源がないと言いながら大公爵領として位置づいている。なにか秘密があると考えるのは自然だろう?」


「普通の村人は考えもしねーよ」


 見た目は村人。中身は異常。真実を見抜く、スーパー村人、ヴィベルファクフィニー! 今日も隠れた真実を暴く――ことはないが、まあ、転生者なんだからしょうがねーだろう。


「……バイブラストが繁栄できている理由は、地下のダンジョンから魔石が採れるからだ」


 魔石か。さすがに予想はしなかったが、あれだけ魔に満ちてたら不思議ではねーか。あれだけデカい世界樹が存在してんだからよ。


「採れるってのは、鉱山のように採れるのか?」


「いや、ダンジョンに住む魔物を狩ると魔石になるのだ」


 まるでゲームのような設定だな。


「誰が入るんだ? 兵士か?」


「バイブラストが密かに雇った冒険者だ」


「よく秘密が漏れねーな?」


 冒険者も信用が大事な職業だが、よほど高ランクの冒険者じゃないと無理だろう。


「特殊な契約を結ぶから問題はない。破れば死ぬからな」


 結構えげつない契約があるんだな。さすがファンタジーな世界だぜ。


「オレも契約したほうがイイかい?」


「お前にしても無意味だろうな。お前、魔術や魔法じゃない力を使うからよ」


 そこまでバレてたか。まったく、侮れねー公爵どのだ。


「まあ、誰にもしゃべらないと約束はするよ」


「いや、必要ならしゃべっても構わない。その判断はお前に任せるよ」


 ニヤリと笑う公爵どのに、肩を竦めて見せた。


 ほんと、公爵どのと敵対関係にならなくてよかったよ。まるで勝てる気がしねーわ。

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