第942話 めでたしめでたし
「……そして、その日からベーを見た者はいないとさ」
え? なにそのバッドエンドなオレの物語は!? 猿かに合戦じゃなかったの?!
「めでたしめでたし」
はぁ!? まさかのハッピーエンド!! ほんと、なにがあったのよ?!
いや、それ以前になんの状況よ? とか思う方にお答えしよう。
エデンの園(ってか、正式名を訊き忘れたわ)から帰って来たら、城の借りてる部屋に入ると、プリッつあんが三兄弟に猿かに合戦を聞かせていたので、邪魔しないように窓辺でマンダ○タイムとしゃれ込んだわけよ。
BGMな感じで耳にしてたが、なぜかオレが猿に成り代わり退治されてた。
まあ、かにからしたらハッピーエンドだろうが、
なんて、お伽噺(だったのか?)に文句を言ってもしょうがないか。軽く聞き流せ、だ。
「で、なにか言うことはないの?」
クッションに埋もれながら語っていたプリッつあんが、目の前にやって来た。なによ、言うことって?
「あ、ただいま」
そう言えば、帰って来た挨拶してなかったね。失敬失敬。
「お帰り~……とでも言うと思ったか!」
「ふべらし!」
突然のドロップキックに吹き飛ばされしまった。
「なにすんじゃアホー!」
「それはこっちのセリフじゃボケー!」
なんて和気藹々がありましたとさ。めでたしめでたし。
「で?」
「なんやかんやとエデン狩人記があったわけですよ」
いや、その物語をしろや! なんて文句は聞きません。こっちにもいろいろあんだよ、察しろや!
「……まったく、十日以上帰って来ないと思ったらバカやってたわけね……」
まあ、自重しなかったのは認める。だが、悔いはねー!
「あ、これお土産」
桃っぽいものを出した。
「なにこれ?」
「果物だ。旨いぞ」
毒の心配はない。カバ子に無理矢理……いや、騙して……あ、まあ、他にもいろいろ毒味させて安全なのは確認している。オレはまだ食ってないけど……。
「ふ~ん」
あらやだ。メルヘンさんが疑いの目を向けてますわ。
「まあ、いいわ。ミタレッテー、剥いて」
あ、ミタさんもいますからね。なんかオレが帰ってから泣きっぱなしだけど。
「……はい……」
泣きながらも桃っぽいものをつかんで、皮を向くミタさん。器用だこと。
ミタさんが自分の無限鞄から出した皿に剥いた桃っぽいものを切り分け、爪楊枝を刺した。
フェンシングの剣のような爪楊枝をつかみ、桃っぽいものを口にするプリッつあん。やはり食えるとわかるのだろうか?
「──なにこれ!? 美味しいじゃないっ!!」
目を大きくして驚いている。
「お、旨いのか? おれにもくれよ。桃好きなんだ」
茶猫がテーブルに飛び乗り、切った桃っぽいものをパクつき、もぐもぐと咀嚼して、倒れた。
……やはりか……。
「ちょっ、どうしたのよ!?」
「マーロー!」
三兄弟も駆け寄って来た。
「どうしたの──お酒臭っ!」
茶猫を抱えた長男が顔を背けた。それでも落とさないところに愛を感じるな。
「なんなのよいったい!」
オレも知りたい。いろいろ毒味させたし、考えるな、感じろも毒ではないと言っていた。だが、どうにも食べる気にはなれなかったのだ。
「なんとなく、感じてはいたが、この桃っぽいもの、アルコールが含まれてるな……」
しかも度数が高いと来てやがる。
「……ゲコには最悪な果物だな……」
さすがエデンの園に生る果物は一味も二味も違うぜ。
「ベー! なんなのよいったい! 説明して」
「説明もなにも酒の果物だよ」
なんでそう言うふうに進化したかは知らんけど。
切られた桃っぽいに突き刺さる爪楊枝つかんで掲げた。
「見た目も桃。匂いも桃。味もたぶん、桃だろうに、なんでアルコールが含まれてんだよ。残念すぎんだろう」
オレだって桃は好きなのによ。
「まあ、酒として売ればイイか」
味はわからんが、たぶん、女受けする味だと思う。いろんな場所に植えて、どこに適してるか確認するか。
……それまではエデンの園に採りにいけばイイんだしよ……。
切られた桃を皿に戻し、無限鞄からマスカットっぽいものを出してパクついた。
「もうちょっと甘味があるとイイんだがな」
誰か品種改良できる能力持ってねーかな。三日くらいで改良できるの。
マスカットっぽいものをパクついてると、部屋の扉がバン! と開かれた。誰だよ?
「ベーが帰って来たのは本当か!?」
と思ったら公爵どのでした。あ、ただいま。
「……こ、このバカ野郎が!!」
入って来たと思ったら、なに突然、オレを称賛してんだよ。照れるじゃねーかよ。
「現実はめでたしめでたしとはいかないものね」
メルヘンの口から出るとは思えない真理。まあ、強く生きてくださいな。
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