第941話 キャンプ

 あるがままを受け入れる。


 なんてできたら苦労しねーよ! 限界があるわ! なんだよ、金色の竜って? 空飛ぶクジラって? ファンタジーな世界に生きてるからって、なんでも受け入れられると思うなよ、こん畜生が!


「……なんだよ、ここは……?」


「さしずめエデンの園でござるな」


 汚物嬢がポツリと呟いた。


「アダムとイヴでもいんのかよ?」


 だったら知恵のリンゴを食われる前にお前に食わせて世の善悪を身につけてやるぞ。


「旅立ったか追放されたあとのようでござるな」


 なんでわかんだよ?


「キャロが人は住んでないと言ってたでござろう」


 あ、ああ。そんなこと言ってたな。


「つまり、役目を終えたわけか」


 にしては現役バリバリな感じに見えるがよ。


「これだけのものを廃棄するのも大変でござろう。数百万の人を数千年賄えるだけの空間でござるからな」


 確かに、言われてみればそうか。生ゴミの日に出せる量でもねーし、放棄して枯れるのを待つほうが安上がりだわな。


 もったいねーとは思うが、これは個人がどうこうできるレベルじゃねー。いや、この時代では放置しておくほうが世のためか。下手に知れたらバイブラストが血みどろの大地になっちまうわ。


「ヴィどの。リアルラ○ュタでござるよ」


 エリナが指さす方向に、浮遊島と城を足したものがいくつも浮いていた。


「……ありがたみがねーな、あんなにあると……」


 見える範囲で百近くにはある。住宅地かよ……。


「にしても、よくこんな桃源郷のような場所から出ていけたな。オレならしがみついても居座るぞ」


 あ、年取ったらここに住まわせてもらおかな。この景色なら一日中見て……られるけど、さすがに一年は無理かな? 刺激がなさ過ぎるわ。いや、刺激的なものがいっぱいいるけどさ……。


「拙者には一時間として無理でござるな。狭くて暗いところが落ち着くでござるよ」


 お前はGか! いや、全身黒ずくめだから似てなくはないけどさ。


 未だに地面には着かないリビング島だけど、なんか慣れて来たのか、なんか受け入れできて来た。


 え、さっきのくだりは!? なんて言ったらダメ。人は時間さえあれば大抵のものは受け入れられるのだ。


「ここは、正面玄関からこれる場所なのかい?」


「はい、来れますよ。ただ、守護兵が通してくれませんが」


 まあ、最重要な場所っぽいし、貴重な動植物が存在(特に世界樹が超貴重で最高級薬草が作り放題だよ)している。そう簡単には入れてくれないだろうよ。


「そっちは、見せてもらえるのかい?」


「はい。いいですよ」


 そんなあっさり承諾してくれるのなら正面玄関から入れて欲しかった。いきなり核心は心臓に悪いです……。


「あ、でも、正面玄関からとなると歩いてになりますが、よろしいですか?」


「構わんよ」


 疲れたら空飛ぶ結界で移動させてもらうからよ。


「では、戻りますか?」


「いや、せっかくだから下までいくよ。どんな植物が生ってるか見たいしな。あ、いくつか採取しても大丈夫か? ダメなら諦めるが」


「はい、大丈夫ですよ。放置している状態ですから」


「管理はしてねーのかい?」


「はい。わたしは、出入りの管理だけですから」


 放置と言うより放棄された感じか? まあ、問題ないなら遠慮なくいただきますか。


 さらに四時間かけてやっと地面に到着した。つーか、今何時だよ? 腹減ったわ。


「ベー。お腹空いた~」


「わたしも~」


 と、ルンタとカバ子が声を上げた。


 いたんかい! とかの突っ込みはノーサンキュー。あそこに放置できねーんだから連れて来るに決まってんだろうが。まあ、オレも声を上げるまで二人の存在を忘れてましたがねっ!


「よし。ルンタはあの牛っぽいものを食え。カバ子は、そこら辺の草木を食ってみろ」


「毒味させてんじゃないわよ!」


 ふべし! とカバ子に殴り飛ばされた。や、やるじゃねーか。効いたぜ……。


「つーか、前より力が増してね?」


「改造により四割ほど性能アップしてあるでござる」


 なんのためにだよ! 意味わからんわ!


「お姉様。もっとパワーが欲しいです! ベーにぜんぜん効いてません!」


「アハハ。ヴィどのは特別でござるからな、よりパワーアップしないと無理でござるよ」


 クソ。忘れてたぜ。カバ子、こいつの部下だった!


「ベー! この牛美味しいよ~!」


 数トンはあるだろう黄色地に白毛の牛を丸のみしたルンタくん。オレが言うのもなんだが、ほんと君は自由な子だよ……。


「ピリピリとかしないか?」


「しないよ~」


 よし。持ち帰り決定。カバ子、そこの桃っぽいものを食え。


「だから毒味させるな! 自分で食べなさいよ!」


 チッ。使えねーカバだ。


 だがまあ、改造されたカバじゃ毒味にはならんか。こんなことならプリッつあんを連れて来るんだったぜ。


 自分で確かめるのは怖いので木ごといただきます。あとで誰かに食べさせよう。


「今日はここに泊まるか。まだまだ食えそうなのがありそうだし」


「お、キャンプでござるか。拙者、初体験でござる!」


「お前、そう言うことしないと思ってた」


 拙者、帰るとか言いそうな引きこもりだろうが。


「ヴィどのとなら大丈夫でござる。他人のような気がしないでござるから」


 いや、他人だよ。種としても違うよ。


「まあ、野宿ですか。わたしも初めてです!」


 なにやら骸骨嬢もノリノリです。


 ってか、リッチや骸骨、カバとヘビとキャンプするオレ。なにやってんだろう……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る