第940話 天の森

 ──生命よ力強く大地に咲き誇れ。


 と、その小さな石碑には刻まれているそうだ。


 それは過去からのメッセージであり、未来に向けての応援なんだろう。その短い文面に込められた思いや願いがなんとも重いことか。この世に生きる者の一人として最大の敬意を示す。


「その福音は叶えられ、世界は生命に満ち溢れているよ」


 まあ、進化論がメチャクチャだが、世界は命で溢れているのは確か。命と言う名の可能性が今も増え続けている。


 無限鞄から手向け用の花束を出して、小さな石碑に供えた。


「ありがとう」


 と、骸骨嬢になぜか感謝された。なによ?


「あれ? わたし、なんでそんなこと言ったのでしょう?」


 なにやら骸骨嬢の意思とは違うところから発せられたようだ。


「まっ、気にすんな」


 追及するのは野暮ってもの。思いは時間も場所も飛び越えるもんだからな。


「は、はぁ。わかりました。では、地下への扉を開きますますね」


 どう言うこと? と疑問に思う方々にお答えしよう。


 喜んで! のあと、タコがテーブルや絨毯を片付けると、その下から三十センチ四方の石碑が現れ、そこに文字らしきものが刻まれていたので、なんて書いてあるのか尋ねたら、『生命よ力強く大地に咲き誇れ』と教えてくれたってわけです。


「命の扉よ、開け」


 と、骸骨嬢が言葉を発すると、ガコンガコンとなにかが動く音が響き、リビング島が降下し始めた。


「……エレベーターかよ……」


 斬新って言うかギミックが過ぎると言うか、ここを造ったヤツは絶対趣味人だな。


「ここは、裏口みたいな感じのところですね。正面玄関は違うところにあります」


「管理者専用ゲートでござるな。拙者も創るでござるよ」


 なんのためにだよ? とか思ったが、なんか悪いと感じたので止めておいた。


「なんでそんな可哀想なヤツを見る目を拙者に向けるでござるか?」


 それは言わぬが花。聞かぬが仏と言うものだ。


 エリナから目を逸らし、リビング島から下を覗いた。


 相当深いようで下がまったく見えない。代わりに上を見たら、こっちも見えなくなっていた。


「意外と降下速度が速いんだな」


 それに揺れもまったくない。どんだけスゲー技術力なんだよ?


 リビング島はさらに降下する。


「いや、どんだけ深いんだよ!!」


 もうかれこれ三十分は降下してるぞ。マントルまで降りる気かよ!?


「これ、別次元に入っているでござるよ」


 はあ? 別次元? なに言ってんだ、この汚物嬢は?


「はい。ここは外の空間と切り離された空間ですよ。百万人を数千年生かすために」


 なにサラッとスケールのデカいこと言っちゃってんのよ。オレはファンタジーな世界で生きる村人だよ!?


「ヴィどのと同じことを考える方が昔にもいたでござるか。スゴいでござるな」


 はぁ? なんでだよ?


「いや、ここの考え、ヤオヨロズ国と同じでござるよな。種の保存とか繁栄とか」


 言われてみればそうなの、か? ただ、オレとしては平和で強力な国が近くにあれば安全で平和に暮らせるからと考えているだけなんだがな……。


「おっ、なんか下が明るくなって来たでござるよ」


 エリナの声に我に返ると、いきなり外に出た。え、外!? 


「メイン空間でござるか?」


「はい。天の森です」


 天の森? と下を覗くと、確かに緑が見える。と言うか、視界いっぱい緑だな。


「下に見えるのは世界樹ですよ」


 リビング島が斜め下に移動し始め、視界いっぱいの緑が生い茂る樹の葉だとわかった。


「……デカい……」


 リュケルトのところにある世界樹が若木に思えるくらい圧倒的にデカい。つーか、この空間の広さに圧倒されんな。ジオフロントが五つくらい余裕で入りそうだわ……。


「……ほんと、ファンタジーは無限大だな……」


 まあ、害がないだけマシだがよ。


 リビング島は、巨大世界樹の回りを回りながら降下していく。つーか、もう一時間も降下してるんですけど。まだ地面が見えないんですけど。いつ着くのよ?


 こんなときはアレだ。マン○ムタイムといきますか。


「あーコーヒーうめ~」


 なんて余裕を取り戻したら、ここから見える風景もなかなかイイじゃねーの。


「あ、ヴィどの。金色の竜が飛んでいるでござるよ! んお、あっちには空飛ぶクジラいるでござる! いやはや不思議なところでござるな~」


 ファンタジーさんすんません。もうちょっとお手柔らかにお願いします。オレ、もうお腹いっぱいです……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る