第944話 ガンバレ!

「レイコさんが説明しよう!」


 マルッとお任せします。


「……幽霊に無茶ぶりしないでくださいよ……」


「――ひっ!」


 レイコさんの姿に第三夫人が悲鳴を上げた。


 うん。びっくりするよね。突然現れたらさ。まあ、だいたい背後に憑いているので姿を現したかどうかはわからないけどさ。


「安心しろ、カティーヌ。ベーより断然無害な幽霊だ」


「人畜有害な村人だもんね、ベーは」


 難しいことを言うメルヘンは黙らっしゃい!


「え、えーと、お初にお目にかかります、カティーヌ様。現在、ベー様に憑いているレイコと申します」


 あなたもう憑いていることを公言しちゃうんですね。なら、放れることができることも公言してくださいよ。一時的だから容認してられるが、一生はさすがに嫌だよ。悲しいわ。


「……は、はい、これはご丁寧に……」


 と、返せるだけ、第三夫人は豪傑だな。さすが公爵どのの嫁になるだけはあるぜ。


「おほん。単刀直入に申しますと、領都アムレストの下にはフュワール・レワロがあります」


「え、ここにもあるの!?」


 なぜかプリッつあんが真っ先に驚いた。


 公爵どのと第三夫人は初耳らしくキョトンとしている。


「プリッシュ様はご存知なんですか?」


「わたしたちが生まれたところは、星の庭って言うフュワール・レワロなの」


 今明かされるプリッつあんの過去。まったく興味ねー。


「そこはまだ健在なのですか?」


「もうないわ。だからわたしたちは出ざるを得なかったのよ」


 大変だったわ~と過去を思い出すメルヘンさん。天の森と星の庭が同じかどうかはわからんが、エデンの園のように桃源郷のような場所だったらそりゃ大変だろうよ。地上のことなんも知らねーのによく生き残ったもんだわ。


「あーなんだ、そのフュワール・レワロと言うのはなんなんだ?」


「わかりやすく言えば地下都市ですが、ベー様の推察では、箱庭だそうです」


「箱庭?」


 方舟の庭版だな、あれは。


「公爵様は、天地崩壊をご存知ですか?」


「え、あ、まあ、小さい頃はよく聞いたな。嘘か真か天と地が反転して、世界が崩壊した、とな」


 さすが伝説の地(?)。僅かとは言え、数千年も継承されてるとは。それとも意図的に流してんのかな?


「想像ができませんが、別世界が現れ、世界の理が壊れたそうです」


 別世界と言うか、この星に別の星が近づいて重力が狂い、世界が崩壊したと、エデンの園にあった碑文に書かれていたんだよ。


「これは、わたしの推察ですが、天地崩壊を察した神が各地にフュワール・レワロを創り、種を未来に残したのだと思います」


 今の時代を生きる者にしたら荒唐無稽な話だろう。前世の記憶があるオレですら眉唾ものだと思っている。


 星が近づくってなんだよ? ファンタジーな世界にSF持ってくんなや! いや、オレの周り、もうSFに支配されてるけどさ……。


「……それが箱庭か……」


「これもわたしの推察ですが、箱庭自体はとても小さいものだと思います。下水道から降りたとき、別空間に入りましたから。公爵領が秘密にするダンジョンは、それを守る壁であり、箱庭を隠す擬態なんでしょう」


 たぶん、あれを考え、創ったヤツは転生者だと思う。そこはかとなしに前世の臭いがしたからな。


「……なんと言うか、凄いものがあるとは、わかった。だが、それがどうだと言うのだ? わかるように言ってくれ」


 それだけ聞いただけでも百単位で問題が想像できるんだが、逆に話がデカすぎてピンと来ねー感じかな?


「バイブラスト公爵領と同じだけの土地が下にある。それも肥沃な大地がな。冬でも実る作物。よく肥えた獣。海の幸に山の幸。百万人の胃袋を数千年満たす、と言えばわかるか?」


「…………」


「…………」


 間違えることなく理解したようで、公爵どのも第三夫人も顔を青くして黙り込んでしまった。


 さあ、ここに桃源郷があるぞ。なんて知れたら四面楚歌も真っ青。オレの周りすべて敵状態だ。ダンジョンなど見向きもされないだろうよ。


 無限鞄から小瓶を一つ、取り出して、黙り込む二人の前に置いた。


「なにこれ?」


 口の開けない二人に代わり、プリッつあんが訊いて来た。


「あるところでは神の雫と呼ばれ、あるところでは神薬と呼ばれ、あるところでは命の水とも呼ばれる、奇跡の薬、エルクセプルだ」


「エルクセプル?」


 前世で言うところのエリクサーだな。エリナからの知識だけどよ。


「一口飲めばどんな怪我や病気も治り、失った腕や目ですら復元させると言われる、なんともふざけたものだよ」


 マッドな先生が作り出したエルクセプルで効果を見せてもらったが、ファンタジーここに極まれり、って感じだったっけ。


 さらに無限鞄から小瓶を十個出す。


「やるよ。たくさん作ったから」


 レシピは先生から教えてもらったし、材料もたくさん採れた。無限鞄の中には百近くある。十個くらい惜しくはねーさ。


「つまり、そう言う状況ってことだ。理解できたか?」


 との問いに返答はなし。公爵どのは沈痛な顔で俯き、第三夫人に至っては気絶していた。


 うん、まあ、ガンバレ!

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