第924話 イイ朝デス

 カイナーズシーサイドホテル。


 元うちの保養所だったところを買い取ったカイナが、ホテルに改装──って言うか、もう別物にして始めたホテルがそんな名前だった。


 なんのひねりもねーな、とは思ったが、あのアホは中身をひねる主義(勝手な決めつけです)。誰が泊まりに来るんだよと突っ込みたいくらい豪華だった。


 まあ、最高級で、一つしかないスイートルームらしく、無駄に広く、無駄に贅を凝らしていた。


 なにもこんな部屋を用意しなくともとは思ったが、最上級会員たるオレならタダで泊まれるんだってよ。


 任せた以上、文句を言わないのが丸投げ道の基本だし、寝れりゃあどこでもイイ。なぜか四つある風呂の一つを使ってサッパリし、これまたなぜか七つある部屋の一番小さな部屋でおやすみなさい。


 なんか騒がしが、結界を張れば問題ナッシング。快適快眠でグッスリ。いつもの時間に目覚めたわけですよ。


「……なんの状況だ、これ……?」


 人外バカ野郎五人衆プラスカイナが酔い潰れていた。


 なぜいるかは知らんが、まあ、こいつらが集まればこうなるものと、もう法則のように認識されている。


「……夏草やアホどもが夢のあと……」


 うん、語呂がワリーな。つーか、夢のように消えてくんねーかな。酒クセーわ。


 結界でさっと消臭。リビングにあったコーヒーメーカーからコーヒーをコップに注いでいただいた。


「旨いな」


 部屋に一台欲しいなとソファーで寝ていたアーガイルを蹴り落とし、寛ぎながらコーヒーを楽しんだ。


「……しかし、なんでルンタやカバ子がいるんだ……?」


 広いリビングでとぐろを巻く白ヘビのルンタ。つーか、締めつけられてるバックスは生きてんのか?


 まあ、人外だし問題なかろうと、すぐに意識から外した。


「一番謎なのはカバ子だな。なんでカイナの頭にかぶりついてんだ?」


 今は気を失っているようだが、長時間かぶりついてたのだろう、アホが唾液まみれになっていた。


 ……こいつの好みがよーわからんわ……。


 恍惚とした顔で寝ている腐れ魔王。お前と兄弟になったの失敗したかなって思えて来たよ。


「アリザはいねーのか?」


 ニューブレーメンはいつも一緒なイメージだったんだがな。


 コーヒーをお代わりして、この状況を説明できる人が来るのを待った。


「あ、あんちゃん! おはよー!」


「おう。おはよーさん」


 どこにいようとサプルはサプル。いつもの時間に起きて来た。ただ、シルク的なパジャマが眩しいです。キラキラしすぎじゃね?


「サプルはどこで寝たんだ?」


 よく爽やかに起きて来たな。防音の利いた部屋だったのか?


「二階だよ」


 二階? なんてあったのか? ミタさんの説明、聞き逃したか……?


 まあ、眠かったし、どうでもイイか。


「イイ部屋だったか?」


「うん! すっごくイイ部屋だったよ! うちの部屋もあんなふうにしたいな~」


「なら、コンシェルジュさんに相談してみろ。部屋を改装──サプルの好みの部屋にしてくれると思うからよ」


 カイナーズホームならリフォームする部所くらいあんだろう。基本、ホームセンター(?)なんだからよ。


「うん! そうする!」


 元気よく返事すると、どこかへと去っていった。


 まあ、好きにしたらイイと、コーヒーをお代わりのためにソファーから立ち上がったら、足になんか当たった。


「ん?」


 ソファーの下から転がって来たのか、村人一殺なんてラベルが貼られた一升瓶だった。


「不吉なラベルだな。村人一献とかにしろよ」


 つーか、どんなネーミングセンスだよ? 作ったヤツ、村人になんか恨みでもあんのか? それこそ一殺してやんぞ、ゴラ!


 なんて殺意が湧いたが、一瞬で消失。嫌な予感……って言うか、経験と言うか、まあ、あれだろうと一升瓶をつかんで中を覗き見る。


「……このメルヘンを理解できる日が来るんだろうか……?」


 一升瓶の中で一升瓶を抱えて泣くメルヘン。謎すぎるわ~。


 そのままにしておくと一升瓶お化けになって襲って来るので結界刀で幹竹割り。おっと。ちょっとかすっちゃいましたね。メンゴメンゴ。


 ちょっと切れた髪はゴミ箱にポイ。誰も見てませんね? 見てたらゴミ箱にポイするから素直に名乗り出なさい。


 いないようなのでメルヘンさんを頭の上に乗せ、コーヒーのお代わり。


「あ~コーヒーうめ~」


 イイ朝でなによりデス。

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