第925話 社会見学

「ベー様、おはようございます」


 ほどなくして三人のメイドを引き連れたミタさんがやって来た。


「あい、おはよーさん。ゆっくり寝れたかい?」


 どこで寝たかは知らんけど。


「はい。カイナ様によい部屋を用意していただきました」


 それはなにより。ってか、なにもこの部屋に泊まったらよかったじゃん。七つもあるんだからよ。


 とは思ったが、人外どもに巻き込まれるのも酷。それでよかったと流しておくか。


「朝食になさいますか?」


「そうだな。ちょっと早いがそうするか」


 まだ七時前だが、午前中に買い物を終わらせて領都にいきたい気分なのだ。


「わかりました。すぐに用意します」


 背後にいるメイドさんに振り向き、一つ頷くと、畏まりましたと一礼して動き出した。


「ところで、こいつらなんでいんの?」


 ちょうどイイところにあったナッシュの頭を踵で叩いた。


「……マーロー様の歓迎会だそうです」


 マーロー? 誰だっけ?


「こちらの方です」


 屈んだと思ったら、なんか茶色ものをつかんで掲げて見せた。なんだそれ?


「あ、茶猫か。ちょっと見ない間にボロボロになってんな」


 つーか、生きんのか、それ?


「ほどほどにしてくださいと注意はしたのですが……」


 それを素直に聞く人外ではねー、か。まあ、殺してないだけマシとしよう。って、ちゃんと生きてるよね?


 しっぽをつかむミタさん(扱い雑やね)から茶猫を受け取り、揺るがしてみると、微かに動いた。うん。生きてる生きてる。


 茶猫をミタさんに返し、風呂でサッパリさせるようお願いした。まだこいつに用があるんでな。


「ベー様。朝食の用意が調いました」


 と、メイドさんが言うのでそのあとに続くと、テラスへと出た。


 高さからして世界貿易ギルドを立ち上げたときのシーサイドテラスか。あ、だからシーサイドホテルにしたのか。律儀なやっちゃ。


 六人用のテーブルには、なんとも豪勢な料理が並んでいた。オレはお粥一杯で充分なんだがな……。


 残れば誰か食うだろうと勝手に解釈し、勧められた席へと座り、近くにあったクロワッサンへと手を伸ばした。


 外はカリカリ中はふんわり。よく聞いた文言だが、うん。その通りで旨いじゃん。


 無限鞄から蓋つきの籠を取り出し、たくさんあるクロワッサンを詰め込んだ。あとでオヤツにしようっと。


「ベー様。必要なら厨房に頼みますよ」


「こう言うのはこの場で摘まむからイイのさ」


 バナナや葡萄、リンゴと言った果物も詰め込んだ。あ、リンゴで思い出した。ナイスガイを放置したままだった。


「ミタさん。お玉さんところに誰かいる?」


「はい。四名在住させ、五日おきに物資を補給しております」


 上手く回しているミタさんに感謝です。


「ナイスガイって、まだそこにいるかな?」


 ってか、ナイスガイの名前、完全無欠に忘れましたわ~。ヘイ、いつものことだろうって突っ込みはサラリと流しまっせ。


「ナブア伯爵様でしたら帝都に戻りました。それと、伝言を預かっております。会えるときに会おう。とのことです」


 さすがナイスガイ。わかってらっしゃる。


「なら、会えるときに会うか。オレの出会い運ならなんの問題もねーしな」


 もうちょっと入るなと、ふんわりオムレツをいただいていると、サプルとレディ・カレットがやって来た。


「あんちゃん、あたしたちもういくね。カレットがヴィアンサプレシア号を見たいって言うから」


 思いのままに生きるのがオレたち兄弟。大いに楽しんで来な。


「あ、サプル! もう帰っちゃうの?」


 ルンタがニュルニュルと現れた。いや、顔だけ出した感じか。つーかお前、どっから入って来たのよ?


 ルンタの胴回りは一メートルちょい。ドアを潜れないこともないだろうが、長さは二十メートルくらいはある。周りを傷つけずには入って来れんだろうに。


「うん。またね、ルンタ」


 あっさりとルンタの横を通りすぎるマイシスター。今は女友達が優先されるようだ。よきかなよきかな。


「ベー、おはよー」


「おはよう……」


 と、ルンタの陰からカバ子が現れた。不思議な国の娘さんに変身して。


「おう、おはよーさん。お前たちがいるなんてどうした?」


 まあ、普段、こいつらがなにしてるか知らんけどよ。


「あの変態に連れて来られたのよ」


「なんで?」


 説明するまでもないだろうが、わからない人のために言っておこう。変態とはカイナのことだからね。


「猫って生き物が仲間になるって言ってたわ。紹介する前に宴会になっちゃったけど」


 うん。アホですね。


 ミタさんに茶猫を連れて来てもらい、テーブルの上に置いた。いや、椅子におきなさいよ。ルンタがエサと勘違いしちゃうからさ~。


「そいつが猫って生き物だ。お前たちの仲間になるから仲良くしてやってくれ」


 どう仲良くするかは君たちに任せます。


「変な生き物ね」


「ほんとだね」


 君らも負けてないからね。特にカバ子は進化論に謝れ。


「お前ら、今日はなんか予定あるか?」


「ううん。ないよ」


「なんなのよ?」


 懐疑的な目を向けて来るカバ子。出会った頃より人間不信になってねーか? 


「まあ、ちょっとした社会見学だ」


 それと、実験だ。

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