第923話 悪魔か!

 午後の六時を過ぎたので、一旦買い物を中断し、Mなハンバーガー屋で夕食を取ることにした。


 Mなハンバーガー屋に客はなし。貸し切りな感じでそれぞれ好きな席へと座った。


「好きなのを頼め」


 前世時代、ハンバーガー屋なんて学生のときに利用し、社会人になってから片手で足りるくらいしか利用してねー。なんで、注文の仕方もなにがあるかもわからんので、茶猫に任せた。


「ダブルセットLで! 飲み物はペ○シ! これもLで!」


「オレはダブルセットSで。飲み物はコーヒー。コンシェルジュさんやミタさんたちも食べな。あ、コンシェルジュさん、支払いはオレのカードから頼むわ」


 はっちゃけ店長がなぜいるかはわからんが、見られて食うのものけ者にするのも気分がワリー。一緒に食えや、だ。


「あんちゃん、お土産に何百個か買ってイイ?」


「オレの分も含めて買い占めろ」


 サプルの問いにそう答える。


「……お前ら兄弟揃って頭おかしいのな……」


 なに失礼なこと言っちゃってくれてんのよ、この茶猫は。お前も餓死寸前までいってみろ。絶対、溜めたくなるからよ。


「店長、買い占めてもイイよな?」


 後ろの席にいる店長に尋ねた。


「はい。大丈夫ですよ。在庫が掃けて助かります」


 なら遠慮なく買い占めろ、だ。


 はっちゃけ店長が席から立ち上がると、スマッグみたいのを取り出して、なにかリフトを何十台と手配していた。


「第一六から第三十八バックルームに連絡。手の空いている者はマルコバーガーに寄越して。フル稼働させるから!」


 ……ほんと、容赦のねーはっちゃけ店長だよ……。


 まあ、食料ならドンと来い。フル稼働で無限鞄に詰め込むさ。あ、メイドさんたち。コンテナに詰め込みよろしこ。満杯になったのから無限鞄に仕舞うんで。


 コンシェルジュさんにコンテナを頼み、詰め込みはメイドさんにお任せ。あーバーガー味濃いぃ~!


「ミタさん。今日はカイナんとこのホテルに泊まるから予約お願い。サプルとレディ・カレットはどうする?」


 うちに帰ればイイだけのことだが、これからまた買い物を続ける予定だ。帰りたいのなら帰ればイイし、泊まるなら泊まるで構わんがよ。


「お泊まりする! カイナさんのところのホテル、一度泊まってみたかったし」


 そう思った経緯は知らんが、まあ、好きにしたらイイ。ミタさん、よろしこ。


「畏まりました」


 ミタさんに任せ、残りのバーガーをいただいた。つーか、オレの舌には濃すぎるな、これ……。


「コンシェルジュさん。なんかサッパリしたハンバーガーってねーかい?」


「サッパリしたものですか? では、フィッシュや海老はいかがでしょうか?」


 フィッシュに海老、か~。なんかそれも味つけ濃そうだな。


「ベー様。でしたら隣のミセスドーナツから麺類を頼みますか? サッパリしたものがありますよ」


 ドーナツ屋の麺なんか売ってんのかい? と思ったが、ミタさんがそう言うんならあるんだろう。よろしこ。


 お願いし、コーヒーをいただく。つーか、このハンバーガー屋、マルコなんだ! いや、なんだよマルコって! どこで生まれたハンバーガーだよ!?


 なんて脳内で突っ込んだ。ちょっとタイミングを逃してしまったので。


 しばらくして洒落た器に盛られた麺料理を運んで来た。なに麺よ?


「ヘルシー豆乳麺です」


 まあ、そうだと言うならそうなんだろう。作った人に感謝を込めていただきます、だ。


 絶品! とまでは叫べねーが、まあ、イケるかな。ズルズルズル~。


 汁まで飲み干すとさすがに腹が苦しい。一時間ほど休憩ね。


「少食だな、お前」


 そう言うお前は大食らいだな。ハンバーガー、何個食ってんだよ? つーか、よくそんな濃い味のを食えるよな。猫に味覚とかあんのか?


 しゃべるのもおっくうなので、念を送るが、茶猫には通じてないようで、山と積まれたハンバーガーに手……前足を伸ばした。


 天井を眺めること三十分。なんとか腹が落ち着いて来た。ミタさん、コーヒーちょうだい。


 空のカップを掲げて振って見せた。


 すぐに理解する万能メイド。ありがとさん。


 一時間してやっと腹が落ち着いた。ふぅ~。


「ミタさん。ワリーが買い物中止。動く気にはなれんわ」


 なんかもう風呂入って寝たい気分だぜ。


「畏まりました。十分お待ちください。すぐに調えますので」


 なにを調えるか知らんが、別に急ぐ必要はねーよ。もうちょっとゆっくりしたいからよ。


 コーヒーをお代わりしてまったりとする。


「ベー様。ハンバーガーはどうします? まだ途中ですが」


「明日も来るから急がんでもイイよ。ところで、カイナーズホームにヒーローになれるようなもの売ってるかい?」


「はい、ありますよ」


 なんともあっさり肯定するはっちゃけ店長。訊いといてなんだが、なんの目的で売ってんのよ?


「装着系、寄生系、薬物系、改造系、変身系、訓練系と数多く取り揃えております。お勧めとしては寄生系ですね。寄生獣を体に取り込むことで数十倍の力が出せるものや体を変化させて攻撃もできます。今なら一匹サービスしますよ」


「どうする?」


 と、あ然とする茶猫に尋ねた。改造ならオレもできるぞ。


「──どうもしねーよ! なに恐ろしいことを素で訊いてやがる! 悪魔か!」


「それが力を手に入れると言うことだ。なんの不都合もなく強くなれると思うな。それはお前がよく知っていることだろうが」


 世界最強を願ったばかりに猫(?)にされた。なんにでも代償ってのはあるんだよ。


「ヒーローになるのはこちらの方ですか?」


 茶猫を見るはっちゃけ店長。


「そうだよ。誰に向けて勧めてたんだよ?」


「もちろん、ベー様ですが」


 オレに勧めてたのかよ! 悪魔か!


「……どっちもどっちよ。さすがカイナーズホームの店長になるだけの人よね……」


 こんなのと同類にすんなや! オレはこんなにはっちゃけてねーわ!


「では、訓練系はいかがです。バーミン大佐による百日間地獄巡りがお勧めです。生き残った場合、準魔王にも匹敵すると言われてます」


「それ、完全に途中で死んでるよな! 誰も生き残ってねーって言ってるよな!」


 目を逸らすはっちゃけ店長。つーか、受けたヤツいるんだ。どこのアホだよ?


「安全安心なヤツにしろよ!」


 そんなものはねーとばかりにため息を吐くはっちゃけ店長。悪魔の巣窟だな、ここは……。

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